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仲間キャラ

 クリスタルから少し離れた地面から光の柱が出現すると、その中にシルエットが見える。


「網綱さんが、倒した相手になるんですよね……」


 俺に心中を察して配慮しているのか、幸の声が小さい。

 自分が殺した相手と再会する。そんな経験をした人なんていないからな。

 深呼吸を繰り返しながら光が消えるのを待つ。


「あっ、光がなくなって。いらっしゃいま……えええええっ!?」


 登場した相手が幸には予想外だったようで、指をさした状態で硬直していた。驚きすぎて『透過』が切れているのにも気づいてない。

 そこにいるのは――一匹の虎。

 黒と白とのコントラストが美しい、巨大な虎。

 俺の記憶の中と寸分変わらない姿でそこにいる。


「……黒、虎」


 名前を呼んでみた。

 俺の声は――震えてなかっただろうか。

 雄々しく立っていた黒虎は俺をじっと見つめると、


「ぐおおおあああっ」


 と鳴いた。

 声も姿も何も変わらない。俺の知っている黒虎。

 ただ、何処か他人行儀に見えるのは本物ではないからか。

 それでも俺は、


「久しぶりだな、黒虎」


 そっと手を伸ばして黒虎の頭や喉を撫でる。

 黒虎は嬉しそうに目を細めている。


「こ、怖そうに見えましたけど、こうしていると結構かわいいですね! ええと、黒虎ちゃんでいいのかな。この子と網綱さんってどういう……えっ、網綱さん。泣いて……」


 ああ、そうか。

 泣いているのか俺は。

 頬を伝う熱いものは涙なのか。

 そうか、まだ俺は泣けるんだな。


「ぐあうう」


 黒虎が俺の頬に頭を擦りつけると顔を舐めてくれた。

 俺と違って過ごした日々の記憶もないというのに、心配してくれるのか。

 黒虎の首筋に顔を埋める。

 あーこの匂い落ち着く。本物ではないとしても、上手くやっていけそうな気がするよ。


「いいなぁ。黒虎ちゃん、私もモフモフしていい?」

「ぐああああ」

「ありがとー。うっひゃあ、たまんなーい」


 どうやら幸も抱きついて堪能しているようだ。

 いつまでもこうしていたいが、そうはいかないので黒虎からそっと離れる。

 黒虎の目がじっと俺を見つめている。何か言いたいことがあるのだろうか。

 だとしても、俺には黒虎の言葉がわからない。

 けれど、今はこれでいい。言葉を交わすことが可能だったら、もっと違和感を覚えていたはずだ。

 黒虎を最初に選んだのは間違っていなかったのかもしれないな。


「はぁー癒されるうううぅぅ。網綱さん、黒虎ちゃん選んだの大正解ですよ! この毛並みの良さ、モフモフ感、ふおおおおお」


 抱きついたまま離れようとしない幸を見て、黒虎が少しだけ嫌そうな顔をしたように見えた。

 マスコットキャラとしての存在感もかなりのものだが、俺の知る黒虎と変わらないなら戦闘力も期待できる。


「ポイント、あんまり残ってないですよ。何か他に必要な物ってありました?」


 黒虎のことばかりじゃなくて、今後の事を考えないとな。


「戦力は一気に増強されたから、かなり楽になるとは思う」


 少し離れた場所を駆け回っている黒虎を見る限り、身体能力は最後にあった時と変わらないように思える。

 当時の実力なら幸の数百倍は頼りになるはずだ。

 ムードメーカーとしては重宝していたが、その座も今は黒虎に奪われてしまったのか、幸は。


「どうしたんですか。なんで私をかわいそうな子を見るような目で見るんです? ね、ねえ、網綱さん?」

「元気が一番だ」

「えっ、優しさが怖い」


 ぽんぽんと肩を優しく叩いたら、幸が怯えた。


「今必要なのは失った石の棍ぐらいかな。あと矢の補充か」

「私も弾丸がもうないです」


 消耗した分を補填すると、ポイントは残りわずかとなった。

 もうこれ以上は使わない方がいいだろう。


「このピラミッドがあればクリスタルにダメージが入ることはないと思っていたのに、あんなの来たら意味ないですよね」

「そうだな。クリスタルを守る方法を根本から考え直した方がいいかもしれないが、いかんせんポイントが足りない」

「くうううーん」


 黒虎が申し訳なさそうに前足で顔を覆っている。


「黒虎のポイントは必要経費みたいなものだから、気にしなくていいんだよ」

「あのー、私と扱いが違いませんか? そんな優しい猫なで声で話したことないですよね!」


 優しく黒虎を撫でまわしていたら幸が何か言ってきた。

 憩いのひと時を邪魔しないで欲しい。


「猫好きだから」

「猫好きなら納得で……猫?」


 まだ納得のいかない幸はさておき、黒虎の実力を見極めないと。

 さっきのステージは十ステージごとの中ボスのような存在であれば、次のステージは少しは楽になっている、と願いたい。


「破損した個所の柵や石を取り換えてから、次のステージに進もうか」

「はーい。柵の修復はお任せください」


 大工工事は幸の十八番なので安心して託せる。

 わざわざポイントを消費して得たタオルを頭に巻いて、釘をくわえた格好が妙に似あっているが触れないでおこう。チラチラこっちを見ているのはツッコミ待ちなのだろう。

 そういえば俺のコートをずっと着たままだ。そろそろ返して欲しいのだが……まあ、いいか。

 補修が終わったのでクリスタルで『敵情報』を閲覧する。

 一度倒した敵の情報が載っているので、クリアー後に確認することにしていた。


「あの氷人形は、そのままアイスドールなのか。蟻は巨大蟻……そのまんまだな。あのドーム亀は……玄武。そんな偉そうな名前だったとは」


 確かに巨大な亀と言えばゲームでは玄武が定番だけど、俺はドーム亀と呼び続けよう。

 ざっと能力に目を通すと玄武のHPが万どころかもう一桁多かった。30万って、もう少しゲームバランス考えてくれ。

 表示されている能力はこうだ。


『玄武 攻撃力600 防御力3000 HP300000 巨大な亀。防御力は甲羅の硬さ。防御の薄い場所があるかも』


 木人形のHPが10だったから、その異様さがわかるだろう。

 攻撃力も高いが防御力とHPが尋常じゃない。甲羅に矢が弾かれていたので俺の攻撃力が3000以下なのは確か。

 正攻法で倒すのは無理だ。再び現れない事を祈るしかない。

 敵の情報は確認したので次は『マップ情報』だ。

 これは第一ステージをクリアー後に出現した情報で、次のステージの見下ろしマップを見ることができる。

 と言っても、今までは遮蔽物がほとんどない平原のステージが続いていたので何の意味もなかった。

 敵もガラッと変更したので、そろそろマップにも変化がないかと思ったのだが。


「ビンゴか」


 マップが様変わりしていた。

 深い谷の上に幾つか円形の足場があって吊り橋で繋がっている。クリスタルの置いてある場所は中心にして半径五メートル程度なので、ピラミッドの石を全部並べるとはみ出てしまう。

 石を一から詰みなおした方がいいな。

 クリスタルのある足場に繋がる橋は二本。そこを死守すればいいので防衛が楽になったとも言える。……敵に飛行型がいなければ。


「幸、黒虎、ピラミッドの石を組み替えるから手伝ってくれ。あと柵も張り直しになるから」

「はーい、えええええええっ! 早く言ってくださいよ」


 幸はぶつくさ文句を言いながらも手際よく柵を回収している。

 石をすべて取り外して今度は円柱の塔のように組み立てておく。厚みを増すと自分たちの足場が消滅するので、頑丈さは以前ほど期待できない。

 マップを参考に防衛方針を決めてから『防衛開始』を強く押す。

 目の前に広がる光景が一度真っ白に変わる。空も大地もすべて消えて、等間隔で線の入った白い空間にぽつーんと俺たちがいるだけだ。

 格闘ゲームの練習ステージっぽい。そんなことを思っているうちに、またも映像が入れ替わる。

 クリスタル周辺を残して他の地面が消滅した。

 下を覗き込むと、冷たい谷風が吹き上がり前髪が揺れる。

 底が見えないな。落ちたら復帰は絶望的だ。


「俺はこっちの吊り橋の向こうに陣取るよ。黒虎はあっちを頼む」

「ぐるあああああ」


 一度吠えて大きく頷くと、俺とは別の吊り橋を黒虎は渡っていく。


「幸はピラミッド……じゃなくて、塔の上から周囲を警戒しておいて。黒虎の状況を逐一報告してくれると助かる」

「わっかりました。お任せください!」


 石の塔にしがみついて登っている最中の後ろ姿が間抜けだが、彼女にはいつもの持ち場で頑張ってもらおう。

 吊り橋を渡りクリスタルのある場所よりも一回り小さな足場の中心に棍を突き刺す。

 黒虎の様子が気になるが、まずはやるべきことをやろう。

 吊り橋の幅は三メートルあるかないか。長さは二十メートルぐらい。

 これが木製なら燃やして移動できなくしてから矢で射るつもりだったが、残念ながら鉄製だった。

 石の棍で殴ってみたが頑丈で壊れそうにない。だが、橋の上を渡っている相手は絶好の的。逃げる場所に限りがあるので射撃には持ってこいだ。

 ここ以外にも幾つか足場があってすべてが吊り橋で繋がっている。


 遠くの方で光が見えたので敵が湧いたらしい。目を凝らすと鉛色の人影が見えた。

 木、石、氷人形ときて、新たな人形シリーズの登場だ。

 色からして鉄製の人形か。だとしたら、防御力と攻撃力が他の人形とは比較にならないだろうな。

 歩行速度は差がないようだが、まずは先制攻撃。

 限界まで引き絞った弦から手を放し、矢が放たれる。

 金属同士がぶつかる音が響き相手がよろめくが、すぐさま体制を整えて向かってきた。

 二射目。ひびが入っているように見える同じ場所に撃ち込むと、今度は矢が半ばまで突き刺さって砕けると、地面に倒れる。

 中までぎっしり鉄が詰まっているのかと思えば空洞なのか。重量問題で軽量化を図ったのか、材料費をケチったのか。

 どちらにしろ、矢が通じるなら都合がいい。

 一撃で倒せないが一発目でひびが入り、そこを狙えれば二発でやれる。

 動きは機敏でもなく、吊り橋の上なので難しくはない。

 苦もなく第一陣を撃退したので振り返り塔を見上げると、幸と視線が合う。


「黒虎ちゃんはべとべとしたゲ……液を吐いて、敵を溶かしてますよ! 動けなくなった敵をぽいぽい谷底に落としてます。今のところはとっても順調みたいですねー」


 ……今、なんて言おうとした。

 俺が唯一奪わなかった黒虎の魂技『溶解液』が役に立っているのか。

 鉄でも溶かせるとなると、鉄人形にはかなり有効な手段となる。

 気配も探ってみるが黒虎の気配に揺らぎはなく、ダメージも受けていないようだ。


「黒虎は大丈夫みたいだな。じゃあこっちに集中させてもらおう」


 鉄人形を順調に撃退していると上空から羽音が聞こえてきた。

 やはり、来たか。

 足場の悪い場所で敵が有利に行動するには飛行生物を出せばいい。

 また蝙蝠だろうと視線を上げると――人形シリーズに羽が生えていた。木、石、氷の人形が背中の翼を器用に羽ばたかせている。


「鉄人形は重量オーバーで出番なしか」


 一種類ずつ射てみたが耐久力には変更がないらしい。すべて一撃で落とせた。

 飛び方も蝙蝠と比べると直線的で的も大きいので楽なものだ。

 ただ、問題があるとすれば数だ。四方八方から五十以上の飛行型が迫ってきている。


「だけど、無茶という程じゃないか」


 その場から全力で離れてクリスタルを囲んだ石の塔に戻る。


「お帰りですか、網綱さん」

「射撃するにはここが一番だから、ちょっとお邪魔するよ」


 矢筒の中身と予備で持ってきた矢の束を、塔の頂上にバラまいておく。

 ここで固定砲台となって全部撃ち落とすぞ。


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