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戦略フェイズと意外な才能

 俺が木人形の頭を二つ粉砕したタイミングで、


『防衛フェイズ終了しました!』


 という声がクリスタルから響いてきた。

 まだ数体残っていた敵は光の粒子となって大気に溶ける。

 どうやら生き延びられたようだ。


「くそっ、思った以上に……はあーっ、疲れた」


 棍を杖代わりにしているから立っていられるが、正直に言えば今すぐにでも体を大地に投げ出して寝たい。


「ふいー、なんとかなりましたね! いやー、辛かったですねー」


 わざとらしく自分の肩をもみながら疲れた風を装っているが、幸はあれから敵を一体も倒さずにクリスタルに背を預けて座っているだけだった。

 このステージに関してはただの役立たずだったが、不慮の事態ということで何も言わないでおこう。


「網綱さん……。役立たずで、すみません! 目が怖い、目が怖いですって!」


 怯えた感じのてるてる坊主がぺこぺこと何度も頭を下げる。

 どうやら口よりも目が語っていたようだ。フードで顔を隠しているくせに俺の表情がよく見えたな。

 からかうのはこれぐらいにしておくか。実際の話、怒ってもないし呆れてもいない。

 魂技の有益さを再確認できただけでも良しとしよう。次の魂技は何を取るか、もっと頭を働かせないとダメだ。


「じゃあ、ご褒美のポイントを確認しますか」

「第一ステージクリアーですもんね! ポイントいっぱいくれないかな~」


 二人で同時にクリスタルに顔を向ける。


『防衛ポイント

 木人形 2 × 65 = 130


 ボーナスポイント

 38コンボ = 38

 プレイヤーノーダメ100 × 2 = 200

 クリスタルノーダメ100 


 合計 468ポイント』


 と書いてある。

 木人形が一体2ポイントで六十五体倒したってことか。

 ボーナスポイントは特定の条件をクリアーした場合のみ得られるってことだよな。

コンボは途切れずに攻撃が続いた回数か。

 プレイヤーノーダメはそのまんま、俺も幸も無傷だから。

 クリスタルノーダメも文字通りだろう。

 ボーナスポイントの方が多いな。やはり、積極的にボーナスを狙っていくべきか。


「本当にゲームみたいですね。なんか現実味が薄れそうで怖いです」


 幸は深く考えず口にしたのだろうが、思わず目を見張ってしまった。

 ゲーム要素が強すぎて命がけの攻略であることを、一瞬忘れそうになっていた。面白そうに思える要素があったとしても、こっちは命を懸けている。

 全滅したからコンテニューしよう、とはいかない。ゲーム感覚になりかけていた意識を改めないと、とんでもないミスを犯しそうだ。


「幸もたまにはいいこと言うんだな」

「そうでしょう、そうでしょう。……たまには?」


 フードの上から頬に指を当てて、小首を傾げている幸を横目で確認してから、クリスタルに視線を戻す。

 このポイントを有効活用する前に、まず魂技の解放からだ。

 『暗殺』を得たいなら『暗視』『体幹』『気配操作』『射撃』『隠蔽』を取っていかなければならない。

 だが、数の暴力に対して体力が限界に近かった。そこをなんとかするべきだよな。となると、選ぶのは『不撓不屈』一択だ。


「幸は何を解放するんだ? 俺は体力に不安があったから精神力と体力を強化する魂技を選んだが」

「えっ、あっ……そ、それはもちろん、私も『ど根性』に決まっているじゃないですか。取らないと『透過』長時間使えませんし。いやだなー、網綱さんは! アハハハハハハ」


 クリスタルに指先が触れた状態で、乾いた笑いが口からもれている。

 こやつ、考えなしに違う魂技選んだな。

 幸はともかく、俺は次からの戦闘がかなり楽になる。さて、本番のポイントを使っていこうか。


「網綱さん、『仲間雇用』はまだ無理みたいですけど『防衛強化』はできるみたいです!」


 強引に話を逸らしたいのか、俺の背中をバンバンと叩く幸に促されて項目を確認する。

 既に幸が触れていて文字が『防衛強化』についての説明に入れ替わっていた。


「ええと、落とし穴や柵や……物見やぐら、みたいな簡単な建物も選べるのか。材質も武器とかと同じで木や石や鉄、レンガもあると」

「木はお手頃価格ですけど、鉄とか滅茶苦茶に高いじゃないですか。絶対にぼったくりですよ!」


 幸は憤っているが鉄製が安ければ序盤はヌルゲーになってしまうからだろう。


「これは悩むな。でも、先に弓を買い替えていいかな。石の弓は使い勝手が悪すぎる」

「どうぞどうぞ。ポイントは網綱さんがほとんど稼いだんですから、遠慮なくぱーっと使っちゃってください」


 幸の言葉に甘えて少し性能のいい弓を購入させてもらおう。

 本当はコンパウンドボウが欲しいが、それは桁が違ったのでしばらくは無理だ。

 100ポイント以上を消費して『グラスファイバー弓』を購入した。頑丈そうだったのが一番の理由だが、グラスファイバーって確かガラス繊維だったと思う。つまり元は石なので『石の匠』が作用するのではないか? という甘い期待もある。

 新たな弓を試しに引いてみたが、しなりも悪くない。試射すると軌道も山なりではなく真っすぐで、飛距離は石の弓の軽く三倍以上か。

 これでもかなり手加減してやったので、限界まで性能を引き出せば威力も飛距離ももっと伸びるな。


「えっと、私は武器このままでいいので、あとは『クリスタル強化』します? さっきは無傷でしたけど」

「クリスタルの強化はポイントが余ってから考えようか。今は優先順位がこっちだ」


 もう一度『防衛強化』の項目に目を通して、幸と相談する。


「落とし穴とか地味に効果的だと思うんですよ」

「間違えて俺たちが落ちないか?」


 俺たち、とは言ったが主に……誰かさんが心配だ。


「あー、落ちる自信があります」


 おずおずと手を上げる幸。自覚はあるのか。

 ここは柵をぐるっとクリスタルの周囲に配置するのが最良だろう。

 そうなると、今度は材質だ。項目では柵の材質と長さによって消費ポイントが異なる。


「柵の高さも選べるのか。あんまり高いと視界が遮られて、かえって邪魔になる。腰ぐらいの高さで長さはとりあえず十メートルで購入してみようか。いいかい?」

「はい、大丈夫です!」


 了承も得たので『木の柵 十メートル』を買ってみた。

 クリスタルから少し離れた地面が青く円形に輝くと、木の板と木の杭、それと釘と日曜大工セットのような工具が召喚された。


「えっ、自分でやるんですか!? 普通はこう範囲を指定したら、木の柵が設置されるとかですよね?」

「俺もそう思っていた」


 まさか「材料を用意しておいたから、後は自力で何とかしろ」となるとは思いもしなかった。無駄にリアルなこだわりはいらないだろ。


「これなんですかね。えっと、一応設計図があるみたいですよ?」


 ご丁寧に柵の正しい作り方が図解してある説明書もセットらしい。

 だが、この仕様は悪いことばかりじゃない。材料を好きに加工して組み合わせられる。柵の材料で別の罠や柵を強化することも可能。

 そうなると『木工』を解放したくなるな。自由度が結構高い仕様なのか。

 あー、ヤバい。これは俺の好きな要素が詰まっている。ただのゲームなら純粋に楽しめたのに……惜しい。


「とりあえず、やってから文句言うか。ちなみに幸はこういうのしたことある?」

「はい! お父さん大工でして、趣味で家具も作ってましたから。学生時代はバイトで手伝いに入ったりしてましたよ」


 自信ありげに胸を叩いている。

 不器用なイメージがあった幸だが少しは期待していいのか。


「ところで、いい加減に顔を見せてくれないか」

「す、すみません。ええとですね、あのですね。本当に、さっき見ちゃいました?」


 てるてる坊主がくねくねと揺れている。恥ずかしがっているのかあれは。


「後ろ姿は見たな」

「前は見てませんよね! いえ、別に胸に自信がないわけでも、少したるんできたお腹周りを気にしているわけでもないんですよ! もし、乙女の裸を見たのなら責任を取ってもらわないといけませんので!」

「見てない見てない」


 ということにしておこう。実際、後ろ姿以外は一瞬しか見なかったからな。


「じゃあ、いいです。後ろ姿ならノーカンにしてあげます」

「それはどうも」


 ようやく照れも治まったのか幸はフードを外した。

 若干顔が赤い気もするが触れないでおく。

 木の柵用の材料をある程度購入すると、幸と一緒に防衛の強化に取り掛かる。


「まずクリスタルを中心にして柵でぐるっと囲む、で、いいですか。どれぐらい離します?」

「そうだな、木材にも限りがあるけど……狭すぎると柵を乗り越えられた時に戦いにくい。クリスタルから最低でも五メートル以上は放したいところだけど」

「わっかりましたー。まずは等間隔で杭を打っていきましょう!」


 白いコートを腕まくりする幸。頼りがいがあるように見えるが、信用するのはまだ早い。

 ――と疑っていたのを謝る必要がある。


「ふふーん、はああーん、よっこらせーっと、どっこいせーっと」


 変な鼻歌を歌いながら、手際よくせっせと杭を地面に打ち込んでいる。

 日頃の頼りない言動からは想像もつかない姿だ。


「網綱さん、おててがお留守ですよ!」

「お、おう、すまない」


 この調子なら幸に周りの柵は任せて大丈夫だ。

 俺は俺の仕事をするか。

 まず、クリスタルのすぐそばに杭を四本打ち込む。そして杭を支柱として周りに板を打ち付けていく。

 最後に仕上げとして上部も板張りをすると完成だ。


「あのう、クリスタルが木箱に埋もれてますが……」


 不意に後ろから声がしたので振り返ると、腕組みをして首を傾げている幸と目が合った。

 彼女の指摘は間違いじゃない。俺はクリスタルをすっぽり覆うように、木の杭と板で取り囲んだのだから。


「これで少々の攻撃は防いでくれるだろ。柵を越えられて接近されても何発かは防いでくれる。おまけに壊されたとしても時間稼ぎにもなるし、一石二鳥だ」


 こうやって守ればポイントでクリスタルの耐久力を上げる必要もない。

 材質も木から石や鉄に変更すれば、破壊される心配をしないで戦える。


「でも、時間を確認したくても数字とか見えませんよ? それに『防衛フェイズ』終わったらクリスタル触れられないんですけど」

「……ここに覗き窓作っておこうか。クリアー後は、その時に考えよう。一面だけ壊すのもありだな」


 防衛の設備に関しては幸に一任した方がいい気がしてきた。

 今も俺の作った木の箱をじろじろと観察してから「ここの釘が甘いですよ。ここにも入れておかないと、すぐに外れますよ。もー、ダメダメじゃないですか」とチェックを入れて手直しをしている。

 今までの言動を思うと言いたいことは山ほどあるが、ここはぐっとこらえて従うとしよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 幸が裏切っても意外性はないし、何か面白い仕掛けがあるのだろうけどなんだろう
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