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第一ステージ 防衛フェイズ

 一応だが準備は整った。

 不安がないと言えば嘘になるが、この状況で最良の選択をしたつもりだ。

 幸は結局槍を選び、手にしている。でも戦力としては期待しない方がいいだろう。

 ……いつまでフードで顔を隠しているんだ。もういい加減照れなくてもいいと思うが、こういうのは触れない方がいいか。

 手に入れた武器の棍を振り回してみたが、思ったよりも違和感なく扱える。これなら雑魚敵相手に問題はない。

 石製の弓も手にしてみたが……これは失敗かもしれない。弓が石なので全くしならない。弓の弦の張りだけで矢を飛ばすとしても限界がありそうだ。


「俺は積極的に敵を倒していくから、幸はクリスタルを守って欲しい。できるだけ打ち漏らしがないように気を付けるけど」

「大丈夫ですよ。私には『透過』がありますから、敵の攻撃なんて当たりませんし……たぶん」


 今は俺のコートを着ているが、戦闘が始まれば常に透明でいるつもりらしい。

 コートの下は全裸なので変質者以外の何者でもないが、そこはスルーしてやるのが優しさか。

 防衛開始前に、もう一度第一ステージとなる平原を見回す。

 遮蔽物が殆どない地平線の見える光景。木が遠くの方に何本かまばらに生えているぐらいで、他には何もない。

 ここが塔の中なのに空があるとか、そういうツッコミは今更なので省略。


「問題は敵が何処に沸くか。遠くから現れて迫って来るなら遠距離攻撃が有効だけど、いきなり至近距離に現れたりしないよな」

「それはゲームのシステムとしておかしいですよ。邪神様はそんなクソゲームみたいな仕様しませんよね」


 俺に背を向けた幸は、空を見上げて媚びを売っている。

 たぶん邪神は今もこっちを見物しているから、意外と効果があるかもしれない。


「初っ端から鬼畜難易度はないと思うけど、油断だけはしないように」

「はい! 大丈夫です。気合い入れていきますよ~」


 フードの上から顔を挟み込むようにしてパンパンと叩き、幸のやる気は十分だ。

 といってもてるてる坊主仕様で顔が見えないから、どんな表情をしているかは不明だが。

 まずは第一ステージのクリアー。できることなら、クリスタルを無傷でボーナスポイントも貰いたい。


「よっし、始めるぞ」


 クリスタルの『防衛開始』を勢いよく叩いた。


『防衛フェイズ。カウント開始』


 クリスタルから無機質な声が聞こえると、クリスタルに数字が浮かび減っていく。

 30分守り切ればこちらの勝ちか。

 クリスタルを中心にぐるっと周囲を見渡す。

 どの方向からも敵がやって来るのは厄介だ。『防衛強化』が可能になったらとりあえず、柵か何かで相手の進行方向を絞りたい。


「幸はあっちの方を注視しておいてくれ、俺はこっち側を警戒しておく」

「は、はい!」


 クリスタルを背に挟んでお互い真逆を監視する。

 ここで『気配操作』があれば死角の敵も感知することができるのだが、ない物をねだってもしょうがない。

 視線の先で三つほど地面が光ったかと思ったら、そこから敵が生えてきた。

 顔はつるっとしていて関節が球体の等身大の木製人形が三体。鎧どころか服もなく、武器すらない。対象となる物が辺りにないので距離感があやふやだが、たぶん百メートル以上は離れている。


「こっちに敵が三体現れた。そっちはどう?」

「敵が来たんですか!? こっちは今のところ変わりありません」


 となると、先にさっさと片づけておくべきだな。

 石の弓を構えて弦に指を掛ける。これ以上やると千切れるギリギリの範囲まで引いてから矢を放つ。

 シュッ、と風を切る音と共に矢が放たれた。

 相手の頭を狙ったのだが、木人形の胸元に四分の一ほど矢が刺さる。

 木人形は仰向けに倒れると消滅した。予想通り雑魚のようだが。

 続けざまに三発放つと、一発外したが二発は命中して相手が倒れた。

 一撃で倒せてほっとしたが、飛距離も威力も速度も思った以上に低い。おまけに精度も落ちている。

 もっと性能のいい弓を購入して魂技の『射撃』を取らないと、この先は厳しいことになりそうだ。


「網綱さん! 網綱さん! なんか来ました! デッサン人形みたいなの!」


 ほっとしたのも束の間、今度は幸の方に敵が出現したのか。


「わかった! 場所を入れ替わろう。代わりにこっちを見ておいてくれ」

「はい、了解です!」


 幸の前に進み出て前方を確認する。

 俺の時と同じように三体。距離は五十メートル先まで迫ってきていた。

 距離を詰めながら矢で一体は倒しておく。残りの二体は石の棍の出番だ。

 敵の動きはお世辞にも機敏とは言えない。鈍いとまではいかないが、この程度の動きなら間違っても脅威にはならない。

 棍の間合いに入ったので右腕だけで軽く薙ぐと、木製の胴体を粉砕して反対側へ突き抜ける。


「脆いな」


 そのまま棍の後ろを左手で叩くと棍の先端が跳ね上がり、もう一体の木人形の頭へと振り下ろした。

 脳天から股下まで貫通して地面に突き刺さる。


「これなら余裕か」


 慢心はしないが気負いすぎる必要もない。

 次々と敵が現れるが、遠距離は弓で仕留めて取りこぼした敵だけ棍で始末する。

 この調子なら問題なく第一ステージはクリアーできるが……。


「今の内に経験させておいた方がいいか」


 幸のいる方へ向かっていた敵を一体わざと見逃してみた。


「一匹そっちに行ったから頼む!」

「お任せください。私がどれだけ頼りになるか見せつけてあげますよ!」


 手早くこちらの敵を片付けてから、幸を観察する。

 クリスタルから少し離れているので、万が一にもクリスタルが傷つけられることはない位置取りだ。

 人形VSてるてる坊主の戦いか。熱いな。

 腰が引けた状態で槍を構えていた幸の姿がすっと消える。

 木人形は突然消えた幸に対して戸惑ったのか動きが止まった。顔に目がないというのにきょろきょろしているのが妙な感じだ。

 迷っているように見えた木人形だったが目標を切り替えたのか、無人のクリスタルに向かって歩いていく。

 幸のいた場所を通り過ぎたところで背後に槍の穂先が現れ、木人形に突き刺さった。

 そこで姿を現した幸だったが、


「ぜーはーぜーはー、ううええええええっ」


 何故か肩で息をして、口元を押さえて吐きそうになっている。

 疲労困憊に見えるが、姿を消して槍を突き刺しただけだぞ。疲れる要因などなかったはずだ。


「な、なんでこんなに疲れ……透過ってこんなにしんどかった?」


 ぼやく内容を耳にして即座に理解した。

 そうか、体力と精神を大幅に強化する『ど根性』が消えたことで『透過』が短時間しか維持できなくなっているのか。

 疲労困憊で立つこともできないらしく、幸はクリスタルに背を預けて荒い呼吸を繰り返している。


 ……これぐらいのことは予想できたはずなのに、頭がうまく働いていない気がする。


 魂技が使えないことで冷静さや精神力が弱まっている影響なのかもしれない。

 幸に関してはこのステージでは戦力として考えないほうがいいな。

 クリスタルの時間を確認すると残り八分を切っている。

 残りの時間とこの程度の敵なら一人でいけるだろう。


「幸はそのまま休憩しておいていい。あとは任せろ」


 不安がらせないように強気な命令口調で言う。

 幸は返事をする余裕もないようで、軽く腕を上げたのみ。

 こちらの戦力がダウンしたタイミングを見計らうように、今度は三方から合計十五体の敵が出現した。

 まず前方に駆けていき弓の射程内に五体収めると、矢を放ち一掃する。

 素早く踵を返し、次の団体へと向かう。

 弓を構え走りながら射るが狙いが定まらず、一体だけ仕留めそこなった。

 棍が届く間合いまで迫ったのでそのまま薙ぎ払い、残りの五体の進軍状況を確認する。

 矢が届かない距離を一体だけ先行しているな。このままだと、クリスタルに先に到達されてしまう。

 どうする?

 幸が座り込んだまま槍でけん制しているが、突破されるのは時間の問題だ。

 一撃でクリスタルが壊れるようなことはないだろうが、どうせなら無傷でボーナスを貰いたい。

 となると、方法は一つ。

 俺は走る速度を落とさずに大きく振りかぶると、矢ではなく弓を放った。

 全力で投げつけた弓が狙いをたがわず木人形の頭を砕く。石でできているだけあって破壊力は抜群だな。

 先行していた一体を潰せたことで他の四体にどうにか間に合い、棍で粉砕しておいた。


「くっそ、はあっ、はあっ、ふうー。久しぶりに疲労が……」


 身体能力は『体幹』のおかげで向上したが、俺も体力精神力が増える魂技『不撓不屈』を失っているので体力の消耗が激しい。

 身体能力と体力が吊り合ってないので余計に疲れるのか。

 全力は出さずに力を制御した方が身のためかもしれない。


「これで終わりならいいが……まあ、そんなに優しくはないよな」


 今度は一方向から敵が二十体現れた。

 矢である程度敵を削っておこうと投げつけた弓を拾うと、弦が切れている。


「安物を乱暴に扱ったらダメだな、反省だ」


 今度は弦もある程度の品質を選ぼう。


「ど、どうするんですか!? 敵があんなにうじゃうじゃいますよ!」


 取り乱している幸に対してニヤリと自信ありげな笑みを向ける。


「そりゃ、棍でどうにかするしかないだろ」


 『ベルセルク』は封印された状態だというのに(たかぶ)ってきた。

 戦闘狂のつもりはないが、あのダンジョンで長期間過ごした弊害なのか、それとも『ベルセルク』の影響が魂に残っているのか。

 苦境に陥ると頭は冴えているのに、体が燃えるように熱くなる。

 温い難易度よりも歯ごたえのある方がやる気が出る。そんな自分に呆れてしまう。

 言い訳をするなら、あの殺意満載の悪意の塊みたいなダンジョンよりも、邪神の塔の方がゲーム要素が強いのも原因の一つだ。

 こちらの方がゲームをやっている感がある。あの理不尽なダンジョンと比べるとだが。


「でも、もうちょっと難易度下げてくれてもいいんだけどな!」


 天に向かって吠えてみたが反応はなかった。

 俺は棍を手の中でくるっと回して強く握ると、単身で敵の密集地帯へと飛び込んでいく。

 力を制御して払い、叩き、突き、砕く。

 リーチの差があるので敵の攻撃が届く前に瞬殺できるので、俺は今のところ無傷だ。

 一度ぐらい攻撃を食らってどれぐらいダメージがあるか試しておこうかと、一瞬頭をよぎったが、一撃死の可能性がゼロとは言えないので自重しておく。

 敵を一掃するとまた次が現れ、それを倒しても追加がくる。

 もしかして全滅させると出現するのかと勘ぐり一体だけ残してみると……あー、それでも出てくるのか。

 でも、さっきより増援のタイミングが明らかに遅かった。

 時間制限で敵が追加で増えるが、敵の数がゼロになると即座に沸く仕様だとしたら、今後の方針が変わるな。


「でもまあ、ここは全部倒していくか」


 防衛の時間いっぱいになるまで敵を倒して、ポイントを稼ぐだけ稼がせて貰うとしよう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『透化』も最上級魂技なのに、そのまま解放できたのがやや不自然な気がします。
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