攻略サイト
幸のスマホを二人で覗き込んでいるが、確かに今まで自分たちが進んできたステージと構成が同じに見える。
罠の配置、敵の種類と出現位置、拾える武器も同じだ。
「これはそっくりというか、そのままだな」
「でしょー。これで六階層もクリアー間違いなしですよね!」
褒めろ褒めろとぐいぐい迫ってくるドヤ顔が若干うっとうしいが、ここは素直に称賛しておこう。
「ああ、確かにこれでかなり楽になる。享楽の町と同じで、この塔には手抜きの部分があるようだな。邪神の塔内部の設定は元になるゲームがあると思った方がいいのかもしれない」
「ふふふ、私の天下がやってきたようです! もっと崇め敬ってくれてもいいんですよ?」
鼻高々の生首が眼前で揺れているのが目障りだ。
……すぐ調子に乗る。
「すごいすごい、あっぱれあっぱれ、露出狂露出狂」
「心がこもってないし、最後はいらない!」
からかうのはこれぐらいにして、ゲームを進めよう。
幸はアクションゲームが苦手なので4面に苦戦していつもあきらめていたそうだ。なので、その続きからは俺が代わりにゲームをやってみることにする。
「横スクロールアクションで誰もが知っている有名作品を三つ混ぜ合わせてるな。これ日本でやったら確実に叩かれるぞ」
「ネットでボロクソに書かれますよね。でもそれが話題になって結構売れそう」
「……訴えられなかったら勝ちか」
面白いゲームを寄せ集めているだけあって、普通に面白い。
ただ難易度は高めなのでアクションゲームに慣れている俺でも結構つらいぞ。
「そこ飛んで! ああっ、違いますよ。その武器じゃなくて! もう、何やっているんですか!」
あと幸がうるさい。
人にゲームをさせておいて、あれこれ指示を出すヤツっているよな……。
肩に生首を乗せたまま順調にクリアーしていくと5-5までやってきた。
今までのステージとあからさまに違う作りをしている。背景は城で敵や罠の配置に容赦がない。
ここまで四回しか死んでなかったが、このステージに入ってから二十回以上死んでいる。たぶん、ここが最終ステージだ。
「エグいぞ、これは」
「本当にこんなステージが私達の進む先にあるんでしょうか?」
「ここまでじゃないと……信じたいけどな。これと同じだったら初見クリアーは不可能だ」
俺達はここでゲームをして攻略方法を見出すことができるが、前準備もなく挑んだら死ぬ自信がある。
そもそも、ここでゲームをクリアーしても実際に挑んで上手くやれるかは……正直、怪しい。
「これが日本なら攻略サイトを見て作戦を練れるんですけどね」
「もしかして、幸は攻略サイトを見るタイプなのか?」
「はい。難しかったり迷ったりすると見ますよ。あとレベル上げの場所を調べたりとか」
悪びれることもなく語る幸を見て、大きなため息を吐く。
がっかりだよ。ゲーム好きだと言っていたから期待していたのだが。
「な、なんですか、その反応は」
「あれか。ハメ通とかシックスゲームズとかの大手攻略サイトを愛用していただろ」
「あったり前じゃないですか。その攻略サイトは私の師匠みたいなものです!」
こいつ……堂々と言い放ったぞ。
「ゲームは試行錯誤して自力で楽しむべきだろ。ゲームをやる前には事前に情報を殆ど入れないで挑み、時に悩み、苦戦しながらも前に進むのが最高の楽しみ方だ」
「えーーー。何度も同じところで死んだりしたらイライラするじゃないですか。ゲームは娯楽ですよ。楽しむためにしているのにストレス溜めるのはおかしいです!」
なるほど、楽しみ優先派か。
ゲーム好きではあるが、やり込み派とは対極の存在。
「あれだ、格闘ゲームとか対戦ゲームやらないだろ」
「そんなことないですよ。格闘ゲームとかキャラかわいいですし、最近はストーリーがしっかりしているのもありますからね」
「イージーモードで?」
「はい、もちろん。人との対戦はしませんよ、負けるの嫌なので」
よっし、分かった。幸とはゲームで分かり合えない。
これ以上の言い争いは不毛になるのでやめよう。今は塔の攻略を優先するぞ。
何度も死にながら少しずつ攻略していく。そして、ステージ最後に現れたのは首が十もあるドラゴンだった。
その首の一つ一つが別の攻撃をしてくるので、画面の七割近くが攻撃で埋まる。
三十回連続でやられたときはスマホを投げ出したくなった。精神力が上がっている今の状況だから耐えられるが、以前の俺なら苛立ってスマホを真っ二つにしていたかもしれない。
「いやいや、これはクリアーさせる気ないだろ」
「一つの頭に攻撃を五発入れると首が消滅しますけど、それを十回やるの無茶ですよね……」
これだけ挑んで攻撃パターンも覚えたが、それでも二つ首を減らすので精一杯。
おまけに首が減っていくと、残された頭からの攻撃が激しくなっていく仕様になっていた。
「あれですよね、ボスまではスムーズに行けるようになりましたね……」
「コンテニューしてもステージの最初からやり直しだからな。ボスまでの道のりは走破できるんだが」
罠も敵の配置も攻撃感覚パターンも完全に覚えた。
初めは無茶な設定だと思っていたが覚えてしまえばあとは作業だ。
問題はこの世界の敵がゲームと同じ動き思考をしているか。死に戻りで覚えるというゲームの基本戦略が使えない今、確かめようがない。
「主人公は三回ダメージを受けたら死にますよね? 私たちもそういうルールなのでしょうか」
「そこまで再現できているかは不明だけどな。一度試してみる……のはデメリットが大きい」
ゲームとそっくりに作られてはいるが、何処まで再現されているか試すには危険だ。
もし一撃で即死だったとしたら、コンテニューはできない。
「ともかく、もう一度3-4からやり直して、5-4までノーミスで行けるようにやり込むぞ」
「きっと、大丈夫ですよね! この身体能力があれば!」
楽観的な意見だが、ここでネガティブになれるよりマシだ。俺だって信じたい。
何度も何度もやり直して、まずはラスボス前のステージまでを攻略する。
「や、やりましたよ! 私たち完璧ですよね!」
「ああ、なんとかなったな」
5-4ステージをクリアーして休憩ポイントに座り込む。
あのスマホのゲームと完全に同じとはいかなかったが、九割以上は再現できているようだった。
罠の配置と敵の動きのパターンが同じだったので、何とか対応できて今に至る。
「問題のラストステージ前にかなり武器も温存できたな」
ゲームをやり込んでどこにどんなアイテムがあるかも把握していたので、使ったら消耗する飛び道具のナイフとバクダンは最低限しか使わずにここまで来た。
オノ、ムチ、ソードは回数制限がないので、それを活用してなんとかやってきたのだが。
「ナイフとバクダンはどれぐらい残ってます?」
「ナイフ三十、バクダン十だな」
これでもラスボスに挑むには心許ない。
ナイフの仕様は二十メートル先まで真っすぐ飛ばせるが、そこまで達すると何故か突然失速して地面に向けて落ちる。敵に当たるか地面につくと消え失せて回収不可能となっているのがいやらしい。
バクダンは野球のボール程度の大きさで投げてから五秒後に爆発する仕組みだ。
他の武器の射程はムチが二メートル。
オノは投げると五メートル先まで届く。
剣は一メートルちょい。
「妥当な方法は一番射程の長いナイフが届くギリギリの範囲から一方的に攻撃。……だけど、ナイフの射程に入ると敵が動き始めるんだよな」
「そうなんですよね。それに頭を一つ潰すたびに攻撃が激しくなりますし」
幸の言う通り、頭の数が減れば減るほど攻撃が激しさを増すので、頭を削っても楽になるどころか辛くなっていく。
「ラスボスの前に大きな橋があって、そこを超えると大きな広間があって敵が動き始める……」
ゲームと違う点があるとしたら奥行きだ。
初めの頃のステージは道幅も狭かったのだが5-4は城内部で休憩ポイントから向こうのステージを覗き見した感じだと、かなり通路に幅がある。
最後の大広間もかなりの大きさがあると思っていいだろう。
「まずはゲームでラスボスを一回でも倒さないとダメですよね」
「そうだが……。よっし、ラスボスまではやるからボス戦は幸がやってくれ。俺は後ろから見学して何か攻略法がないか探してみる。客観的な視点も必要だからな」
「なるほど。ゲーム実況プレイを見て勉強するみたいな感じですね!」
人のやるプレイというのは意外と参考になる。
自分では思いもつかなかった攻略法を見つける糸口になるといいのだが。
もう完全に覚えた道中をあっさり突破して、ラスボス前になるとスマホを幸に渡す。
手と頭だけが見えている幸が続きを始めた。
「ぬおっ、なんとっ! ああっ、ズルい!」
幸はアクションゲームをすると体が動くタイプなので、頭とスマホが激しく揺れるので見えにくいが我慢しよう。
アクションが苦手だと言っていた割には結構うまくやれている。
それに俺に少しでも長い時間ラスボスを見せようとしているのか、攻撃よりも避けるのに専念してくれているようだ。
ドラゴンの頭一つ一つが別属性の攻撃をしてきて、それはドラゴンの頭の色で判断できる。
赤い頭のドラゴンは広範囲に炎を。
黄色い頭は直線に飛ぶ雷を。
青い頭のドラゴンは濁流を。
攻撃パターンを覚えても頭が一つ潰れると攻撃が激しくなり、攻撃範囲が変化していく。
十の頭一つ一つに十パターンの攻撃方法が存在することになる。
「全部覚えるのは骨だが、やるしかないか」
ゲームの攻略は記憶。
これはあの最悪のダンジョンでも同じだった。
頭でなく体が無意識に反応するぐらい、相手の攻撃パターンを覚えて攻略するしかない。
まだマシというかゲームの仕様で助かるのは、相手の攻撃にこっちの攻撃が重なっても突き抜けるところだ。
これが現実なら相手の吐き出す攻撃にすべて弾かれて、飛び道具なんて相手のもとにすら届かない。
「うわー、やられましたー」
初回で頭を三つまで潰せれば上出来だ。
俺の後ろからじっくり観察していたから幸もある程度は対応できていた。
「もう一回いいか。そしたら次は代わるから」
「はい、まだまだ大丈夫ですよ! なんなら私がクリアーしちゃいますから」
ここで落ち込まない幸の明るさに助けられている気がする。
同行者はもういらない、一人の方が楽だと思っていた。でも、今のこの状況はそんなに悪くない。
あっさりと考えを覆す自分に呆れてしまうが、一人ではなく二人いるのだから頼れるところは頼るのも立派な戦略だ。と強引に納得しておこう。
ただ……俺が他人に対して心を許すことはない。もう二度と信じた相手に裏切られるのはごめんだ。