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六階へ

「空を飛んでいるみたいですねー」


 現在、石の棍を伸ばしながら向こう岸へと向かっている。

 普通なら吊り橋が落ちた時点でゲームオーバーなのだろうが、伸縮自在の能力には助けられてばかりだ。


「龍虎ちゃんは、いつ狂っちゃったのかな」

「さあな。元からかもしれないし、あのダンジョンでの経験がそうさせたのかもしれない」


 俺が殺した人の中には最後に発狂した人もいた。本間がああなったことも特別なことではないのだろう。


「死んじゃいましたよね……この高さだもん」

「だといいが」


 目も眩むような高さから落ちて濁流に流されていったので普通は死ぬ。

 下が水とはいえこの高さなら運が良くても骨折や体を損傷するだろう。下が水だから高いところから落ちても大丈夫! なんて展開は、物語の世界だけで通用する常識だ。

 ある一定の高さ以上になると、水面であろうとコンクリートの床と変わらない硬さになるそうだから、あの高さから落ちたら普通は無事では済まない。

 ただ、この世界には魂技がある。水泳や水関連があったとしたら生存している可能性は高い。相手の能力がわからないので楽観視するわけにはいかないよな。

 二度と会いたくないけど、こういう敵は何度も登場するのが王道だから困る。


「油断はしないでおこう」

「そう、ですね」


 向こうへ渡り終えたので石の棍を小さくしてポケットに入れておく。

 そこは何もない荒れ地でポツンと寂しそうに両開きの扉だけが立っている。いつものように幸が先に扉へ向かい慎重に開けてもらう。

 扉の先には前と同じ白い空間――休憩所が広がっている。

 コンパウンドボウのスコープで内部を覗き、不審な点が見つからなかったので俺も中へと入った。

 四階クリアー後に入った休憩所と同じ内装だな。ガラス板も相変わらずど真ん中に堂々と立っている。


「説明文の確認しておこうか」

「そうですね」


『五階クリアーおめでとう。これで邪神の塔を半分クリアーとなる。誘惑に負けなかったようで何よりだよ。この先も難所が待ち受けているが、キミなら最上階まで到達できると信じている』


 やはり、邪神はクリアーされることを望んでいるのか。まあ、そんなことよりも有益で重要な情報が含まれていた。


「半分! ってことは十階建てなんですね、この塔は!」

「これは朗報だな」


 正直、百階ぐらいの無茶振りをされるものだと構えていたから、十階で終わりだというのは思わず拳を握りしめるぐらい嬉しかった。

 半分突破したということはここから難易度が跳ね上がるとも考えられる。そう考えると胃が痛いが。


「どうする、休憩してから進むかい?」

「大丈夫です! 正直、そんなに疲れてないですから」


 まあ、吊り橋燃やして石の棍を伸ばしただけだからな。享楽の町を出てから一時間も経過していない。


「進もうか」

「そうですね」


 荷物を背負い先に繋がる扉を開く。

 すると長い階段が待っていた。今回は足場がレンガのようだ、幅は二メートル程度でちょっと狭いが傾斜はきつくない、長さは結構あるようだが。

 そして背景は何故か大海原だ。海の上に浮かぶ点を目指して伸びる木製の階段。今回はそういう演出らしい。上の階へ進む階段のシチュエーションも毎回変えてきているが、ここはマンネリな感じでもいいと思う。


「何というか壮大ですね。まだ半ばなのに」

「ラスボスに挑む前か、敵の本拠地に乗り込む感じだよな」


 階段を上りながら、お互いの感想を口にする。

 この演出はやり過ぎじゃないだろうか、ラストステージに挑むのであればありだが。

 階段がずっと続き上の階に繋がっていると思っていたのだが、その階段は途中で失われた。代わりに目の前に真っ直ぐ伸びるレンガの道がある。

 道幅は階段と同じなので、二人並んで歩くには少し狭いぐらいの幅。

 で、その道なのだがかなり歪なのだ。真っ直ぐ伸びているが途中で道が途切れて、ジャンプしなければ先に行けなくなっていたり、何故か段差があり上下に道が分かれていたりする。


「あれ、これって何処かで見たことあるような」


 俺の背後から覗き込んでいた幸の言葉を聞いて、もう一度じっくり先を観察する。

 進路方向の上部に不自然に浮かんでいるブロックの塊。重力に逆らって単体で宙に浮かんでいる。いや、浮かんでいるというより固定しているといった感じか、全く揺れもしない。

 恐る恐る伸ばした棍で軽く小突いてみた。

 ピコン、と軽い電子音が響くとコンクリートブロックが一度大きく振動する。


『六階、アクションステージにようこそ。ここは下に落ちないように進むステージだよ。落ちたら一巻の終わりだから気を付けてね。どちらかがゴールしたら一面クリアーだから、頑張って』


 明るく楽しそうな女の子の声がブロックから流れてきた。

 俺は無表情のまま後方へ振り返ると、しかめ面の幸と目が合う。


「思い出しました。これって2Dアクションゲームに似ていません? あれって横から見た画面ですけど、正面から見たらこんな感じなのかなって」


 言われてみれば昔に大流行して今も根強い人気がある、横スクロールアクションゲームを正面から見たらこんな感じなのかもしれない。

 そうか、横スクロールアクションゲームの主人公たちは、こんなに細く頼りない足場の上で大暴れしていたのか。そりゃ、何度も落ちて死ぬわけだ。


「ど、どうしましょう」

「進むしかないけど……落ちたら終わりか」


 これこそ、前のダンジョンのように命を百もらえませんかね。

 難易度にもよるが横スクロールアクションを一回も死なずに乗り越えるなんて無茶過ぎる。普通は罠とマップを死に覚えをしながら進むものだ。

 初見殺しの罠が仕込まれていたらどうやって乗り越えろと。

 でも、落ちたところでこの高さなら、今の身体能力だとギリギリ死なずに耐えられる気がする。

 遥か下の海に目を向けると、海面から尋常ではない大きさのサメが現れ、ぐるぐると円を描いて泳いでいる。落ちたらあれに喰われるのか。

 ホラー要素もあり、カジノを含んだミニゲームもあり、だったら2Dアクション風ぐらいあっても不思議じゃないよな……勘弁してくれ。


「あ、あの、私ってアクションゲーム苦手なのですけど」

「俺は結構やり込んできたが、生身で挑むのは初めてだな」


 どうしよう、進む気が起こらない。

 身体能力も上がっているから、それこそゲームの主人公のようなジャンプ力や尋常ではない体力も保有しているが、初見復活無しプレイはきつい。


「幸は『跳躍』とか『瞬足』持っていたよな。ほら、こういったゲームにピッタリじゃないか。レディーファーストと言うし、お先にどうぞ」

「ええええっ、嫌ですよ! こういう時の女性扱い必要ないです!」


 頭を激しく振って生首が抵抗している。

 このステージが何処まで続いているのかはわからないが、普通なら序盤は難易度が低くて徐々に上がっていく流れだよな。


「あ、あの、やっぱり私から先に行きます!」


 何だ? 幸が急に意見を変えてきたぞ。俺の上空をチラチラ見て気にしているようだが。

 首を傾けて真上を見ると、57という数字が不自然に浮かんでいた。

それは56、55、54と徐々に数字が減っていき……あっ。

 俺は迷わず走ることにした。


「あっ、ずるい!」


 後ろから足音が聞こえてくるので付いてきているようだ。

 あのカウントダウンはステージごとの時間制限だよな。ということはあれが0になるまでに、少なくともこのステージはクリアーしなければならない。

 一直線の道を疾走すると、先の頭上に浮いている宝箱が見える。こういった場合、ジャンプして下から叩くか武器で殴るとアイテムが出てくるのが決まり事だ。

 石の棍を伸ばして宝箱を叩くと、中から両刃の小さな手斧が出て来て目の前に落ちた。

 振り回すにしては柄が短すぎるデザインをしている。

 これが罠の可能性もあるが、重要アイテムだった場合無視するとクリアーできないというオチが待っている。

 危険を承知の上で手斧を走りながら拾う。


 しばらく進むと、行く先にタケノコに蜘蛛の脚を生やしたような敵が三体通路から現れる。

 大きさは俺の腰辺りぐらいだ。迫る俺が見えている筈なのに興味がないのか、前後に同じリズムで動いているだけ。

 ゲームっぽい動きだな。通路が狭く一直線に並んでいるので倒すのは楽でいい。

 走る速度を落とさずに棍を伸ばし、体重を乗せて相手に突っ込んでいく。敵の体格からして、この勢いで突っ込めば通路外に弾き飛ばせるだろう。


「どういう、ことだ」


 そう思って突撃したのだが石の棍は魔物の前でピタリと止まり、俺の体も急停止させられた。

 この威力なら体格のいい魔物でも相当のダメージが与えられる自信のある一撃だったのに、相手は傷一つ負っていない。

 それどころかこっちに向かって歩いてくるのだが、俺は相手の動きを押し留めることができずに押されていく。

 タケノコ蜘蛛が俺に気づいたようで、タケノコの外皮のようなものを飛ばしてきた。

 それを棍で弾こうとして払うと――通り抜けた⁉


「うおおっ!」


 勢いを落とさずに俺に向かってくるソレをギリギリで躱す。

 い、今のは危なかった。


「変ですよ、網綱さん、これは変です!」


 取り乱す幸に、そんなのは言われるまでもなくわかっている。と言い返しそうになったが、ここで冷静にならなければ相手の思うつぼだ。

 大きく深呼吸をして石の棍を縮めると、今度はコンパウンドボウを構える。

 そして今度は尻を向けて後退していくタケノコの化け物に矢を放つ。

 その体のど真ん中を射抜いたはずの矢は弾かれると海へと落ちていった。どういうことだ、相手は俺の攻撃に気づいた素振りも見せていない。

 攻撃完全無効化のスキルでもついているようだ。

 相手の攻撃は武器に当てることができず、こちらの攻撃は無効化される……。

 これがこのステージのルールなのか。ってことは、このステージの難易度は格段に跳ね上がるぞ。


「時間が、時間がないです!」


 秒数が30を切っている。やばい、敵を避けて進むか。いや、近づいたらどんな反応をするかわからない相手に無策で接近するのは無謀だ。

 だが、攻撃無効化の相手にどうやって……攻撃無効化の相手なのに、この手斧は何だ。

 その時、ゲーマーとしての知識に引っかかるものがあった。

 横スクロールアクションっぽいステージでブロックの足場。そのせいで、イメージが固定化されていた。こういったアクションゲームは他にも無数に存在する。

 その内の一つに武器を拾うことで装備している武器が変更されて、攻撃方法が異なるゲームも結構あった。

 つまりこの武器の正解は……投げつける!

 振り回すにしては短すぎる両刃の斧を投げつけると、それは真っ直ぐ飛んでいき敵を両断すると手元へ戻ってきた。

 やはり、ここでは拾った武器しか敵に通用しないというオチか。

 よっし、それがわかればこっちのものだ。制限時間までにクリアーするぞ。


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― 新着の感想 ―
[一言] レディファーストは元々英国が地雷原を歩く際に戦力にならない女子供を先に歩かせるのが起源なので表現としては非常にマッチしてますね。 網綱の性格ともマッチしててわらう
[良い点] 前回から配管工かと思ったら魔界だった…!? ハイブリッドかもしれないけど
[一言] どちらかが、と言ってるから録音では無くどこからか声の主が見てリアルタイムで喋っている……?
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