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更に先へ

 金網の通路を進み続けているのだが、足下に広がる地底湖らしき水場から敵が現れることもない。

 気配を殺すだけで敵が全く寄ってこない。水中の敵は気配のみで敵の姿を察して現れているようだ。

 この階は足場が悪く水に落ちる危険性が高いので、敵との遭遇を控えた方が良い。魔素集めも水使いのプレイヤーを倒して得た分があるので、この階ではもう必要がない。

 『暗殺』の能力である『忍び足』『隠蔽』『気配操作』を併用すれば、この階の魔物は全て無視して進めるようだ。

 細く長いだけの通路の終わりが見えてきた。


 金網の通路が途切れた先は土の地面があり、ここからは人工的な洞窟になっているようだ。

 高さは四、五メートル、道幅も同じぐらいで円形の筒に土を敷き詰めているような……昔、溜池の排水管の中を探索した時の感じに似ている。

 壁もさっきまでの岩肌剥き出しではなくコンクリートのように滑らかで、本当に地下水路をイメージして作られたのかもしれないな。


「おっ、明かりもつくのか」


 頭上に視線を向けると裸電球がぶら下がっている。ここはファンタジーじゃなくて現代風なデザインなのか。よくよく考えると金網の通路とかファンタジーではあまり見かけたことがなかったな。

 石の棍を振り回すには少し狭いが、逆に弓を撃つには適した場所だ。これだけ狭いと適当に矢を撃っていても命中しそうだ。

 っと気配がするな、小さな気が無数に……数は十、二十……四十以上いるのか。

 これは弓で倒せる数じゃないな、かなりの速度でこっちに迫ってきているので、いつでも逃げられるように腰をかがめる。

 暗闇の中からカサカサという不快な音と共に現れたのは、手のひらサイズのゴキブリっぽい虫の群れだった。


「お、おおおおっ」


 精神力が上がって少々なことでは動揺しなくなった筈なのに思わず声が漏れる。

 これは生理的に無理だと本能が叫んでいるが強引に押し殺す。相手の戦闘力は不明だが接近されたら終わる! 色んな意味で!

 全身に炎を纏いゴキブリもどきに触れられないように体を守る。その状態で両手の炎の火力を上げて伸ばすと鞭状にして振り回す。

 虫だから火には弱いと判断して炎の鞭で薙ぎ払っていく。耐久力は弱いようで炎で炙られると瞬時に消し炭と化していく。

 思ったよりも弱いことに安堵しながら敵を殲滅していると、余裕も出てきたのでゴキブリもどきをじっと観察してみる。


「見るんじゃなかった……」


 ゴキブリの顔が老人だった。それも目が四つあって、口からはだらしなく舌が伸びている。おまけに足だと思っていたのは全て人間の腕だった。

 ただでさえ苦手な姿なのにおぞましさが倍増しだ。見た目はゴキブリっぽいけど実は実害のない虫だという展開も考慮していたが、容赦なく焼き尽くそう。

 通路を黒く染め上げていたゴキブリもどきの群れを全て焼却処分すると、黒い靄になり俺の体へと吸い込まれていく。こいつの魔素は生理的にお断りしたいのだが。

 死体も消えると、そこには無数の小さなビー玉のような物が落ちていた。これがアレのドロップアイテムか。

 触るのも嫌だがアイテムに罪はない。どんなアイテムかは不明だが小袋に入れておこう。

 その小袋はバックパックに放り込んでおく。これでゴキブリもどきが打ち止めだといいけど。いや、あれだけ燃やしたからもう居ないだろう。

 淡い願望を抱いたまま進む最中に、もう三度ほど焼却処分を実行することになったのは正直、予想通りだった。





 地下水路っぽい通路は幾つも分岐点があり、片っ端から潰していったのだが五時間ほど迷い続け、ようやく当たりを引けたようだ。

 目の前には通路の行き止まりがあり、そこに大きな扉が設置されている。


「早いな」


 四階に来てからまだ半日も過ぎてないのに、もう次の階へ移動できるのか。

 俺に不利な条件が揃っている場所なのでとっとと次に進みたい気持ちはあるが、この展開を素直に喜べるピュアな心は消え去っている。

 扉付近を念入りに調べるが罠はない。鍵もかかってないから押せば簡単に開くだろう。

 扉の向こうの気配を探ってみるが何も感じない。そもそも、先の気配は感じない仕組みになっているのかもしれない。

 手を掛けてそっと押すが動かない……ここは引くのか、そんなフェイントいらん。


 さっきは扉の先が真黒で見えなかったのだが普通に見えるな。そこは白い部屋で一階を彷彿させた。

 だが、そこには俺には見慣れたものが設置されている。邪神の塔では初めてになるが。

 部屋の左隅に水が湧き出ている洗面台。右隅には青白い光を放つ球体。そして、正面には俺の身長とさほど変わらない大きさのガラス板。


「懐かしいな、殺意が湧き上がってくるぐらいに」


 邪神の塔に挑む前にやらされたダンジョンの休憩部屋と瓜二つの内装。ここだけは安全が確保されていたが、邪神の塔が同じ仕様の保証なんて何処にもない。

 俺は部屋に入らないで石の棍を伸ばし、白い部屋の隅々を叩いて調べる。

 床に仕掛けがないと判明すると、今度は開いた扉が閉まらないよう両開き扉の片側の下部に、矢が引っ掛かるよう地面に突き刺しておく。

 これで部屋に入った途端、扉が自動で閉まるというべたな展開は防げるだろう。

 一歩だけ部屋に踏み入れるが変化はない。更にもう二歩進み完全に体が白い部屋の中に入ると、扉が勢いよく背後で閉じた――片側だけ。

 もう片方の扉も閉まろうと努力はしているようだが、矢が邪魔でどうにもならないようだ。


 それを無視して部屋を調べていく。水は澄んでいて毒が含まれている感じはしない。まあ、水筒の水があるので飲むことはないだろうけど。

 浮かんでいる青白い玉は前のダンジョンなら手を触れたらセーブが発生して、次回死んだときにここから蘇生された。ゲームのセーブポイントそのままの仕様だった。

 今回は一度限りの命だ、これに何の意味があるのだろうか。

 そして、問題は部屋のど真ん中に堂々と立っているガラス板。前と同じなら触れると説明の文章やステータスが表示されたのだが。

 石の棍で触れてみたが反応はない。直接、触るしかないのか。

 意を決してガラス板に触れると文字が浮かび上がってきた。


『よくぞ、邪神の塔四階まで辿り着いた。ここまでのゲーム内容はどうだったかな、楽しんで貰えたなら製作者としても喜ばしい』


 これって邪神のメッセージなのか。重要なヒントが隠されているかもしれないから、一文字たりとも見逃さないで読み進めなければならない。


『ここまでは、いわばチュートリアル。ここから先は本格的に難易度が上がっていく。邪神の塔が何階まであるのかは後に伝えるとしよう。今はそれよりも重要なことを伝えねばならぬのでな。この先に扉があるのは見ての通りだが』


 入り口の対面方向にもう一枚扉がある。


『そこが次のステージへの入り口となっている。そうそう、ここはまだ四階でこの先も四階なのを追記しておこう』


 やっぱりまだ途中だったのか。


『この先はステージのルールが異なる。よく目を通してくれたまえ』


 ルールって、ミニゲームでも仕込んでくれているのかもしれないな。余計なお世話過ぎる。普通にダンジョン攻略だけをさせてくれよ。

 そう思いはしたが何を言っても無駄なことはわかっているので、視線を下へと移動させた。


『ルールは単純明快。追跡者から逃げるそれだけ。マップの先に出口の扉があり、それに触れたらゲームクリアー。追跡者に殺されたらそこで終わりとなっている』


 鬼ごっこか。ただし、命懸けの。


『追跡者には魂技を幾つか与えている。『気配操作』『物理攻撃無効化』『魂技無効化』『状態異常無効化』『無限の体力』『地獄耳』『千里眼』となっている。つまり無敵のキャラだな』


 なるほど、倒せない仕様になっているのか……性質悪すぎるだろ。本気で鬼ごっこをさせるつもりのようだ。


『追跡者の見た目は直ぐにわかると思うよ。扉の向こうからゴールまで魔物は追跡者しかいないから安心してくれ』


 今の説明の何処に安心する要素があった。他の魔物が少しでもいた方が、逆に足止めに使えたかもしれないのに。

 この邪神の塔はひたすら敵を倒して進むだけじゃなく、別の要素を取り入れたゲームもやらされる場合があるということか。

 この異世界ではあらゆるゲームが流行っていたらしいから、邪神もその影響を受けているのは間違いない。

 パズルとかクイズとかは勘弁してくれよ。ゲームとしては嫌いじゃないが、それの勝敗で命を賭けるのはきつい。

 っと、話はまだ続きがあるのか。悩むのは全て目を通してからにしよう。


『どんな手段を使っても構わない。ゴールまで辿り着けば追跡者はキミを敵とみなさなくなり、次の階層へと進むことが可能となる。是非、頑張ってくれたまえ。それではキミの奮闘を期待している――あ、そうそう。ここは安全な部屋で罠も何もないので安心して体を休めてくれ。あのセーブポイントっぽいのは照明器具なので気にしないでいい』


 これで終わりみたいだな。完全に人のプレイ内容を眺めて楽しんでいる製作者目線か。

 邪神を楽しませる義理はないのだが、生き延びた結果、喜ばせることになるかもしれないのが少し腹立たしい。

 兎も角だ、ここで充分に休養を取ってから挑むとしよう。

 この説明文が全て信じるかどうかだが、ここで嘘を吐かれたらもうどうしようもない。全てを疑ってかかることになる。

 なので、一応信じてみようと思う。ルールが存在して、それを守ってくれるならゲーマーとして挑めばいい。

 全てが嘘だった場合は二度と信じなければいい、それだけの話だ。


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