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「さて、今回のドロップアイテムは何かな」


 二階のボスを倒したのだからそれなりに良い品が落ちていることだろう。

 理想としては無限にアイテムが入って出し入れ自由な小袋とか、むしろ袋さえ必要としない異空間の収納ボックスとかが欲しい。

 ゲームなら結構な量のアイテムが袋に入ったりするが現実はそんなに甘くない。バックパックは容量に限界がある。


「これがゲームなら課金してアイテムボックスの容量を増やせるのだけどな」


 ネットゲームあるあるネタだ。基本無料をうたっているゲームでは定番の課金システム。

 日本ではそういう課金システムには殆ど手を出さなかったが、このバックパックの容量が二倍になるなら喜んで課金するぞ。

 と昔を懐かしんでもしょうがない。今はアイテムアイテム。

 黒く焼け焦げた地面に近寄ると、そこには布製の小袋が一つ落ちていた。上部が紐で縛ってあって側面にはわざわざ刺繍で文字が縫われている。


 『種』


 それだけだ。種ってあの種だよな。

 袋を開けて中を覗いてみると様々な種類の種が詰まっている。


「種だこれ」


 何処からどう見ても植物の種だった。植えると異様に成長速度が速いのだろうか。だとしたら、いずれ拠点ができた時に植えたら有益だけど……後で一粒だけ試してみよう。

 もっと実用的な物が欲しかったのだが、こういう物が実は重要アイテムだったりすることもあるので、大事に収納しておかないと。

 他に何も落としていないことを確認してから、巨大な墓石近くまで歩み寄っていく。周りの墓石は何の反応もなく、このボスが呼び出さなければ現れない仕様のようだ。

 念の為に、石の棍に炎を纏わせて周辺にある墓石の前の地面を突いておいた。何かに突き刺さる手応えと地面の中から聞こえてくる呻き声。やっぱり、中に誰かいたのか。

 全部の墓石を調べ埋まっているゾンビを処分すると、ボスが現れた十字架の墓石が金色に輝いた。これは一階のスライムが出て来た時と同じ演出か?

 新たな隠しボスが出るのかと石の棍を身構えたが、気配はなく何かが現れることもない。


「何だったんだ、今のは」


 警戒しながら十字架に近寄ると正面にポツンと一つアイテムが落ちていた。

 それは四角い透明の小箱で中に茶色い物体が詰まっている。これにもラベルが貼っていたので見てみると『味噌』と書かれている。

 たぶん、これは隠し要素をクリアーしたことによる褒美のアイテムだと思うのだが、調味料しか渡す気がないのか。

 醤油に引き続き味噌を手に入れてしまった。醤油と同じく賞味期限もなく品質も保証されているとの注意書きがある。

 これで味付けのレパートリーが増えたな、うん。


 しかし、何でこのアイテムが貰えたのかが疑問だ。墓に埋まったままの敵を倒し尽くしたと同時に現れたということは、条件はマップ内の敵の殲滅ということか。

 自分の為にやったこととはいえ、苦労と報酬が見合っていないよな。何も貰えないよりマシだけど。

 これで敵を全て討伐したことになるみたいだから少し休憩するか。

 折角なのでもらった味噌を使って豚汁もどきを制作した。感想としては驚くほど美味だ。味噌だけの味付けだというのに豊潤な……能書きはいらないか。今はこの味を堪能しよう。


 食事前に地面に種を一つ植えて水も与えてみたが芽が出たりはしていない。眠った後にもう一度確認しておくか。

 眠る前に周辺の墓石を加工して石の杭を大量生産して、ボスが出てきた地面に打ち込んでおく。万が一、復活してきた場合を考えて先手を打っておいた。

 これで再び湧いても石の杭が突き刺さった状態になるか押し出されて、敵を感知するのに役立ってくれる。

 では一眠りするとしよう。





 目が覚めるとそこは墓場だった。

 更に念を入れて周辺にワイヤーを張り巡らせていたのだが、魔物が近寄った形跡がない。触れたらわかるように枯れ木を加工して鳴子も設置していたが、鳴ることがなかった。

 石の杭もそのままだし、やはり一度倒した敵は復活しない仕様のようだ。

 折角の安全地帯なのだからと、ボスの十字架の一部を砕いて石の矢を制作しておいた。これで矢はかなり補充されたので、今後はもう少し矢を頻繁に使ってもいいな。

 もう二階でやるべきことはないか。ゾンビも掃討したし、アイテムも特になし。携帯食料と回復薬が無駄に増えてきた。バックパックは有限なので消費したいところだが、このアイテムたちを信じ切れない自分がいる。

 口にしたら毒というオチはないだろうな。何処かのゲームだと食料が腐っていて毒が付与されたりする。まあ『毒耐性』あるからどっちにしろ効かないだろうけど。

 それでも万が一を考慮して手が出せない。後で魔物にでも試食してもらうとしよう。ゾンビだと毒があっても効き目ないだろうし。


「よっし、三階に行くとしますか」


 扉を開け放つと長い螺旋階段が上へと伸びていた。

 また無駄に上らないといけないのか。頭上は暗闇だが『暗殺』に『暗視』能力が含まれているので普通に良く見える。


「先が見えない程の高さとか、もういいって」


 愚痴を零しても相槌を打ってくれる人もいないので、一人寂しく黙々と階段を進むしかない。

 一階の時に比べて良心的な作りなのか、今度は三時間程度で目的地へと到達した。螺旋階段の最上部には扉だけがあり、一応周囲を石の棍で叩いてみたが罠はない。


「さてと、今度はどんなマップかな」


 ドアノブを握り開け放つと、そこは乾いた砂の舞う廃墟だった。

 地面は砂漠の砂のように渇き、至る所に建造物があるのだがどれも風化している。既に崩壊している建物もあるのだが、大半は原形を保っている。

 まるで建てられてから百年以上時が過ぎたかのような廃れ具合だ。


「これってビルだよな」


 まず驚いたのが、建造物が全て現代風なのだ。それもビル街のようで高層ビルが立ち並び、折れ曲がった信号機も幾つか見える。


「墓地の後は廃墟か」


 地球の滅びた後のような光景に思わず息を呑む。

 近未来を題材にした作品で何度か見たことあるな、こんな感じの街並み。

 殆どの窓が割れて人の気配は全くない。コンビニらしき建物もあるが食べられる物が置いてないだろうな。あったとしても口を付けたくない。

 こういった場合、文明が廃れて世紀末と化した世界で荒くれ者どもが幅を利かせるパターンか、謎のウイルスが蔓延してゾンビたちが徘徊しているか……後は化け物が現れるパニックホラー的流れだろうか。

 まずは高い位置を確保して町の全貌を確認がベストだな。

 ビルの中でも比較的だが崩壊具合が少ない高層ビルを見つけ、機能していない入り口の自動扉から中へと滑り込んだ。


「頑張って作りこんでいるな」


 如何にも大企業の一階といった感じの内装だ。正面に受付があり、ちょっとした話し合いもできるようにソファーや椅子が窓際に並んでいる。

 邪神がこの階も作ったというのなら、そういったゲームや映画を参考にしてデザインしたのだろうか。そう考えると親しみが持てるな。

 エレベーターもあるが起動していたとしても乗る気にはなれない。

 非常階段を探し出し、またもひたすら階段の旅を実行する。

 この高層ビルは二十二階建てで、普通なら階段を上りきったところで疲れ果てる筈なのだが、疲労感は殆どない。この体もう人間じゃないよな。


 屋上は風の通りが良く眺めも壮観だ。

 コンパウンドボウのスコープを取り外して辺りを見回してみた。

 見下ろしてわかったのだが地面が全て砂漠化していた。乾いた砂の色が一面に広がり、その上に古びた建物が生えている。

 この近くはビルが多いが少し先に進むと元は閑静な住宅街といった感じのエリアだ。豪邸と呼んで差し支えのない建物が残っているな。

 スコープの性能が良いのでこの高さでも地上が確認できる。

 っと、生物を数体発見。お、おぅ、今度の魔物は中々凝ったデザインだ。


 体の大きさはたぶん俺と同じか少し大きいぐらいで、人のような姿をしているが腕が三本ある。三本目の腕は何故か胸元から生えている……骨格が非常に気になる。

 そして全ての手に武器が握られているのだが、棍棒といった原始的な武器ではなく刀や斧やメイスといった凝った作りの武器だ。魔物の武器屋でもあるのかね。

 体型もかなり気持ち悪いが顔がそれを上回っている。輪郭は猿っぽいが顔に真黒な目が八つあって、口が都市伝説の口裂け女も真っ青なぐらいに裂けていた。


「化け物感があるな」


 あれが大量に徘徊していたら町が壊滅したのも納得だと思わせる存在感。

 この高さだと矢は当たらないだろうから、三階ぐらいまで降りてみるか。このマップは把握できたのでビルの三階まで降りることにした。

 上って直ぐに降りるのはもったいない気もするが、ここに来る前に休憩をしたばかりなので体力には余裕がある。早いうちに相手の実力を探っておくべきだ。

 駆け足で階段を三段飛ばしで降りていく。上りの際も気配は探っていたが、今も念の為に周囲の気配と物音に気を配っている。

『暗殺』の能力のおかげか、結構激しく動いているのに着地音が全くしていないのは便利だ。


 三階にたどり着くと非常階段へと繋がる扉に張り付き音を探る。何も聞こえない。

 そーっと扉を開けて静かに閉じる。ここは元オフィスという設定なのか。ありがちな机と椅子が規則正しく並んでいる。当たり前だが人っ子一人いない。

 ここは窓が大きくそのまま外に出られる仕組みになっている。外にはベランダがあり高さ一メートルを越えるコンクリートの手すりが見えた。

 しゃがんだ状態でガラスの失われた窓からベランダに出ると、壁の一部が割れて穴が開いていたのでそこから覗き見る。

 歪な気配の場所へ視線を向けると、さっき屋上から見た化け物が一体ぶらついていた。

 気配を読んだ限りでは他の個体は近くにいない。相手の実力を確かめるには今がチャンスだ。


 弓に矢をつがえて限界まで弦を引いた状態で立ち上がった。

 相手はこっちに背を向けているので、今なら問題なく殺れる。

 後頭部目掛けて放たれた矢が、狙い通り脳天を撃ち抜いた。勢い余って矢が地面深く突き刺さったということは、相手の皮膚はそれ程硬くないということか。

 不意打ちとはいえ倒せたことに安堵した俺は、手すりに背を預けてその場に座り込んだ。


注:墓場のボスは追い詰められると墓場を爆走する。

  倒されていないゾンビたちを回収して傷の回復、パワーアップする仕様でした。


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