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マトリョーシカ

作者: 桜悠木

初の小説投稿です。あまりにもリアルな拡張現実だとどういった事が起こるのかを考えた結果がこの小説です。短いですがよろしくお願いします。




目が覚めたのは昼頃だった。僕は自室のベッドから起き上がり、部屋を出る。二階にある自室から階段を下りて一階のリビングに来たが誰もいない。ここは僕の家だから当たり前か。忘れていた。

今日は近くの友人と集まって話をする事にしていた。すぐに家を出て、街の喫茶店に出向いた。喫茶店に入り、見渡すと窓際の一番奥の席に友人が集まっていた。この日は友人が二人。集まりが良い時は五人程やって来る。友人と集まって話というのは、基本は唯の他愛もない談笑だ。会える日は皆不定期だから、少しでも会える日はこうして集まっている。一対一でも集まって話をする事だってある。そして、集まる場所は決まってこの喫茶店だ。

この日集まった二人の友人は、一人がHirokiという男性、もう一人がmimiという女性。どういった関係かと言われると、同じ街に住む同年代の男女、としか言えない。何か特別なきっかけがあった訳ではなく、この街に誰かがやって来ると通知が来て、ネームと年齢、性別が伝えられるのだ。その時に年齢を知り、僕と同じ歳だと分かれば積極的に会いに行って、話しているうちに仲良くなっていった。友人が多くなってきた時に、僕が立てたコミュニティに友人を招いてやりとりをし、集まれる日を伝え合い、こうして会っている。僕がコミュニティに招いた友人は、最近では少なくなってきた。多い時は十人以上いたが、抜けていったり放置されていたりで基本的に会えるのは五・六人しかいなくなった。うち一人は最近放置ぎみで怪しい。いつ来なくなってもおかしくないと今も話している。

この日の話題は「バーチャルリアリティのありがたみ」。今やバーチャルの世界は現実とかなりリンクしていて、そのバーチャルの世界で色んな場所の色んな人と出会う事が出来る。バーチャル世界を出歩くのは実際の体とは違い、カスタムしたアバターではあるが、本人はヘッドマウンドディスプレイを使ってアバターの見ている世界を実際に見ているように体験出来るのだ。そのバーチャル世界は正にリアルで、比喩などでは無く現実と殆ど見分けがつかない。これぞ第二の世界。バーチャル世界に入り浸る者も少なくない。あくまでバーチャルだから、対人関係に不安を抱える人も現実世界より圧倒的にコミュニケーションが取りやすい。更に、バーチャル世界上でビジネスが起こり、企業間の取引や営業もこのバーチャル世界上で行われる事が多くなった。バーチャル世界も元はネットと変わらないのだが、これ程までに世の中に浸透するとは誰も思わなかっただろう。驚くべきは、この世界が流行したのがここ四・五年の話である事だ。十年前は拡張現実が流行して間も無い頃だった。

友人との世間話を終えて家に戻った僕は自室のベッドに寝転んだ。さて、そろそろ戻るか。そうして僕は、メニューを開いて『セーブ』ボタンを押し、これまでの出来事をセーブ。眠りについた。




目を覚ますと、今は夕方。俺は先程セーブしたばかりのバーチャル世界から戻ってきたのだ。ヘッドマウンドディスプレイを頭から取り外し、ベッドの上で上体を起こす。あの世界で、割と結構話し込んだな。彼らと会えたのは久しぶりだったからだろう。俺のいるこの家は普通のマンションの一室。大学に通っているのだが、俺の故郷から大学は毎朝通うには遠かった為、このマンションで下宿している。今日は土曜で大学の講義も無い。さて、これからどうしようか。そう思っていると、携帯から着信を告げる音がした。着信音が鳴ると妙に慌ててしまう。俺は急いで『PAUSE』ボタンを押した。




ヘッドマウンドディスプレイを取り外し、近くに置いておいた携帯を手に取って応答した。相手はオレの友人であるダイチだった。ダイチが言う。

「よう、暇してたか?」

「まぁな。今から何しようかバーチャル世界で考えてたところだ。」

「そうかい。そんじゃあさ、これから俺っちのコミュニティでサイクリングやるつもりなんだが来ねえか?」

「いいぜ、どうせ暇だし。何時からやるんだ?」

「今から・・・一時間後だな。いつもの公園に集合。」

「了解。準備していくから待っててくれ。」

電話を終えると俺は先程一時停止しておいたバーチャル世界のセーブをしてから電源を落とし、この世界で着替える。身体をまともに動かすのも久しぶりになりそうだ。バーチャル世界と現実の帳尻を合わせる為に、オレ本人で室内バイクに乗らないとな。オレはメニューを開いて『セーブ』ボタンを押してセーブした。




室内バイクはどこにあっただろうか、なんて考えながらヘッドマウンドディスプレイを外していると、この部屋の同居人であるマイコが話しかけてきた。ぼくの彼女だ。

「あら、どうしたの?」

「うん、ちょっと・・・サイクリングする事にした。」

「たまには私にも構ってよお」

「うん、サイクリングが終わったら」

「そう言ってこの間も暫く戻って来なかったじゃない。今度は本当なの?」

「うん、本当だよ」

「約束する?」

「うん、約束するよ」

「ならいいわ。思う存分サイクリングしてから、私とちゃんとお話してね」

「うん、ありがとう。楽しんでくるよ」

そう言ってぼくはメニューから『セーブ』ボタンでセーブを行った。




マイコと話しながらも室内バイクがどこにあったかを思い出そうとしていたが、なかなか思い出せない。困ったな。見つからないなんて事になると一度断りに戻らないと。あった筈だ、とは思うが自信が持てない。どっち付かずだ。無いなら無いで今からダイチのいる世界まで戻って断りを入れたい。しかし思い出せないなら、やっぱり現実まで戻るしか無いな。確かボクの生きる現実に戻るには、あと十五回はセーブを繰り返さないといけない。準備するのにも面倒だからいつしか身体は動かさなくなった。やはりサイクリングは断ろうか。そういえば、ボクが女性に扮しているデータの世界で女子会があるとか言っていた気がする。そっちに行こう。あ、でもさっきマイコとお話しするって約束したんだっけ。いや待てよ。小学四年の子供に扮した世界では秘密基地を皆で作る約束もしてたし、初老の男性に扮した世界では麻雀をやる予定も入れていた。いつの間に、これ程掛け持ちしていただろうか。バーチャル世界に入り浸り始めたのが確か・・・何歳の時だったかな?二年前とは覚えているが、その時が何歳で、今のボクの実年齢は何歳か、それが思い出せない。バーチャル世界がリアルすぎて、年齢も性別も掛け持ち出来る。そのちょっとした弊害が、これだ。





長い小説を書くのは難しいですが、短いのは短いでまた難しいです。短い中でも世界観を伝え切らなくてはなりませんから。でも、かなり凝った世界観なら短い方がいいかもしれません。長くするとどこかで世界観との矛盾が起きかねないので。

短いと多少は手軽に書けるのでそれも利点ですね。これからもこれくらいの短い小説を書いていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バーチャルリアリティについて、深い考察があって、最初いやに素っ気ない書き方かなと思ったけど、それも主人公が入り浸っている、リアルだけど質量のないバーチャルの世界だからなのかと思った。タイト…
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