視線
第八話
しばらく彼と一緒に色々な話をして過ごした。私はひたすら胸の鼓動が落ち着かない状態で、時々彼に視線を向けては彼から返ってくる笑顔で顔を赤らめていた。
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。スカートのポケットに入れていた携帯も振動していた。
「あの、もう私戻らないと行けなくて……楽しかったです、ありがとうございました」
少しぎこちない挨拶をすれば、彼も立ち上がり言葉を返す。
「こちらこそ。 あー……、まだこっちに居るの?」
携帯のバイブが止まる。聞こえていた声がこちらに近づいてきた。
「はい、あと2日間はこっちに居る予定で…す。」
近づいているのがお父さんがわかり、妙に緊張して語尾が震えた。
「そっか。 ならまた会うこともあるかもしれないね。 今日はありがとう、楽しかったよ。 じゃあ残りの時間も楽しんで。」
最後まで彼は微笑みながら、先にその場を立ち去った。
その後少し怒られたが家族と合流し、目的の店に出向いた。
まだ彼の顔が頭から離れず、そんな私の脳内からはすっかり昨日の出来事は掻き消されていた。
(また会えないかな……)
すると風香が不思議そうに私を覗き込む。顔の見てから、「日焼けした?」 と聞いてくるくらいには私の顔は赤かったようだ。
店に着いて中に入れば、あちこちから人の話し声やら料理の香りやらが充満していた。
店員に席まで案内され、そのままドリンクを先に注文しておいた。
周りの雰囲気はウッドハウスのような落ち着いたもので、所々に様々なお酒が並べられていた。室内を見渡していた私は離れた席に座る一人の男性と目があったが、相手の方は一瞬目を見開いたかと思うとすぐに目を逸らした。
(なんだ、あいつ。 失礼なやつ。)
そんな時席にドリンクが運ばれてきて、注文を済ませた後家族みんなで乾杯をした。さっきの態度に若干ムカついた私は、もう一度視線を向けて思いっきり睨んでおいた。
第九話へ続く。