ピアス
第七話
今日は家族で男女分かれての自由行動をすることになっていた。お父さんと兄さんは釣りに行くと朝早くからホテルを出て行った。私はお母さんと妹とともに街へ買い物に行くことにしている。
「ねぇ朱里ちゃん、これ可愛くない?」
妹の風香が手にしていたのは、光にかざすと色を変えるピアスだった。
「これ、絶対朱里ちゃんに似合う!! ね、お母さんもそう思わない?」
お母さんは風香からピアスを受け取り私に照らし合わせながら、薄水色だった色が赤に変わった時、「朱里らしいね」 と微笑んだ。
2人の言葉を受け自分用に買うことに決めた私は律にもブレスレッドを買って店を出た後、すぐに買ったばかりのピアスを耳に付けてみた。鏡のように店の前のガラスは私を映す。自分の髪色とピアスがマッチしていることに嬉しくなった。
ひたすら気になる店に入ったり出たりを繰り返していたらお昼の時間を迎えた。
近くに海の見える場所があったので、テイクアウトできる食べ物を買って3人で風に当たりながら海を前にお昼を済ませた。
ぼちぼち日も落ちかけ、満足に買い物した私たちはホテルに戻るべく来た道を戻っていた。
歩き疲れていたお母さんは少しだけ休むと言い残して先に部屋に戻り、それに風香もついて行った。
夕食は外で食べるつもりだったので、少し時間より早く着いていた私たちは間を開けて男子チームと合流することになった。
私はもう少し外の空気に当たっていたくて、ホテルの出入口からほんの少し離れた場所にあった木の下に腰を下ろした。
夕日が水平線に近づいていく。
私は一つだけピアスを外し夕日にかざしてみた。朝みた時は薄水色から赤に変わるだけだったが、今は夕陽のオレンジと混ざり紅になった中で小さな粒の結晶がきらりと光る。
(こんな色に変わるなんて知らなかったな…綺麗……)
思わず一人で宝物を見つけたような嬉しさで顔が綻ぶ。
その時後ろで草の揺れる音がした。勢い良く振り返ると、眩しそうに顔を顰めた男の人が立っていた。一瞬吹いた風に柔らかそうな髪がふわりと動く。男の人は私と目が合うと小さく微笑む。
「海、見てたの?」
物腰柔らかそうな声に私も返事を返す。
「海もなんですけど、夕日を見てたんです。 水面に映る夕日が綺麗だなって思って…」
「そうなんだ…隣、いい?」
そして彼は私に近づき、隣に少し間を空けて腰を下ろした。
すると隣からそっと手が私の髪をかきあげ耳に指が触れた。
「綺麗なピアスをしてるね。」
私はその仕草と耳に触る指の熱に息が上がった。でも何だろう、この感覚は初めてじゃない気がする。彼はまた私と目があって先ほどと同じように笑いかける。
私はもう夕日を見るどころではなくなっていた……。
第八話へ続く。