怒り
彼の口から告げられた真実を朱里はすぐに飲み込めるはずはなく、戸惑いすら感じられないままただ呆然と口を開けることしかできなかった。
そんな朱里の態度に表情を曇らせた
紘斗は押さえていた朱里の肩に更に力を込める。
「お前、一人で浜辺で寝てただろ。 俺たまたま側を通ったんだよ。 そしたらお前が寝てて。 近づいても起きねぇし……」
あの時の状況を説明し始めた紘斗の言葉を遮るように、突然朱里は言葉を被せた。
「あんた、自分が言ってる意味わかってる? 何で知りもしない相手の側通って起きないからってキスなんてするわけ? あー、そうやって誰にでもしてるんだね。」
朱里は彼の淡々と続ける口調が気に入らず、表情に怒りを含ませ冷たく言い放つ。そして目の前の彼から顔を背け唇を噛んだ。
(なんでこんな奴に……)
急に泣きたい気持ちが体の奥から込み上げてきて朱里は涙を堪えるが、溢れてくるものは止められなかった。
すると、消えかかりそうな小さな声が目の前から零れた。
「…………ごめん」
その声に思わず朱里は逸らしていた視線をゆっくり元に戻すと、目に入ってきた彼の表情は先程までの強気なものではなく、今にも泣き出しそうなぐらい歪んで見えた。
「…………泣いてるの?」
頭で考えるより先に口が動き、更に朱里の声は自然と優しくなった。
紘斗は俯いたまま首を小さく横に振り、朱里を押さえていた肩に乗せた手は微かに震えている。
「ごめん、言い過ぎた。 ついカッとなっちゃっただけで…。」
彼の態度にどうすればいいのかわからなくなり、朱里は一歩彼に近づいて一瞬戸惑いながらも紘斗の頭に手を乗せて、そっと撫でた。
だが恥ずかしさもあり、何も言葉をかけられず、しばらくその場は静寂に包まれた。
「俺、あの日からずっと頭から離れなくて……でもあんなことしたから……でもなんでか近くにいるし、男と一緒にいるしで……俺、…ごめん。」
ゆっくりと話し始めた紘斗の言葉は、ぽつぽつと途切れて語尾は細く消えていく。
でも朱里はその一つ一つの言葉に相槌を打ちながら、ただずっと彼の言葉を受け止め続けた。
第十五話へ続く。




