真実
(まさか兄貴だったとか、どんだけ俺は焦ってたんだよ)
自嘲気味に笑う。そんな俺の様子にまるで拍子抜けしたように、強張っていた彼女の表情が緩む。彼女はその自分の顔の変化に気づいていないようだった。
百面相の様にころころ変わる表情とその姿が、あまりに面白くて愛しくて顔が綻んだ。ふっと笑みがこぼれる。
*
(え、何? なんか変なこと言ったっけ…?)
目の前で急に笑顔を見せる彼の変わり様に彼の顔を凝視してしまう。
彼の笑顔が、険しい顔しか見ていなかったものだからとても可愛く見えたのだ。少年のように笑う彼に少し変な感じがして、そんな自分に驚いた。
(あ、やばい、お兄さん待たせてるかも。)
はっとして目の前の彼から目を逸らし、その場をさりげなく出て行こうとした。しかし彼はそれを見逃さず、またもや腕を掴まれ壁に引きつけられた。
「痛い! もう許してもらえませんか?」
今思うと軽く肩がぶつかった程度でここまでされる覚えはない。早くしないとお兄さんがいなくなるかもしれない。そんな気持ちが出てきて早くこの場を去りたかったが、彼はそれを許してくれない。
「でさ、何処行くつもりなの?」
またしつこく同じ質問をされ、だんだん面倒くさくなってきた私は、
「別にどうでもいいじゃん。」
と適当に答えて、さっさと離してというように彼を睨む。
いきなりチッ、っと舌打ちされ完全に意味のわからない理不尽な怒りをぶつけられ、私もついに戸惑いが怒りへ完全に変わった。
「ぶつかった私も悪いけど、なんでそこまで言われないといけない訳? 関係ないことまでいちいち言われる筋合いないと思うけど。 ほんと早く出たいから離してよ。」
ここまで言えば離してもらえると思い、柄にもなく思うがままにぶつけた。すると、彼は私の想像を超える態度をとったのだった。
いきなり壁に力任せに押し付けられ、唇を奪われた。
(……は?)
目の前に男の顔。いきなりのことすぎて、頭がついていかない。
だが、すぐに彼は唇を離す。
「あのさ、あんたは覚えてないだろうけど浜辺で俺、あんたにキスしたんだよ。」
第十四話へ続く。




