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再び


目の前に想像以上に迫力のある回遊船が着港した。興奮が頂点に達し、妹の風香と共に駆け込むようにして乗船する。お父さん、お母さん、兄さんはゆっくりと後を追ってくるが、お構いなしな2人で先々に船の中を探索し始めた。

室内は木で作られているかのような装飾で、オレンジのライトが仄かに中を照らしていた。完全に海賊船のような雰囲気に飲まれた私達は、はしゃいでキーホルダーの宝探しを始める。

「これ兄さんに隠してもらわない? 先に見つけたら私がジュース奢ったげるよ。」

「え、ほんと!? なら絶対先に見つけるしー。 私はどうしよっかなー。」

賞金の代わりになるものを考えつつ兄さんに隠してもらうことにした。

兄さんも少し呆れつつ私達を見たが承諾してくれ、早速第一回戦が開幕した。


風香は先に一階から探し始め、私は3階から攻めた。しかしさすがに小さなキーホルダーをこの大きな船の中から見つけるのは簡単ではない。他の乗船客の邪魔にならない程度に兄さんが隠しそうな場所を選んで探していく。


探し始めて10分くらい経過した頃、後ろから突然声をかけられた。





「和樹も紘斗も初めての体験だったよなー。 実は俺も初めてでさ。」

雅也は一人嬉しそうに船の中をきょろきょろと見回している。

俺は特別こういった乗り物に興味がなかったので今まで見向きもしていなかった。

和樹はと言うと、少しそわそわしつつ室内の様子を伺っていた。

「おい、気になるなら行ってこいよ。 俺らも適当に見て回るし。」

その言葉に目を輝かせた和樹は途端に喋り出した。

「俺さ、こういうインテリアとかに前から少し興味あったんだよ。 ちょっと見てくるな!」

和樹は足早に室内へと入って行った。

「んじゃ俺らも各自行動しますか。」

そして雅也と別れ、とりあえず上から順に見て回ることにした。


最上階はオープンになっていて潮風が気持ちがいい。飲み物でも買ってしばらくくつろいでいようと考えた俺は、3階にある売店へと足を運んだ。



売店までの道のりの途中、一人の女がやけに辺りを見回しながら何か探しているようだった。声を掛けた方がいいのか、様子を見た方がいいのか迷っていたら、彼女に一人の男が近づいた。男の声に反応した女が顔を上げたときだ。

見たことのある、あの彼女の顔がはっきりと見えた。

そして思わず俺は壁際に身体を隠し、そっと様子をうかがった。





「どうしました? 何か落としたんですか? ……あれ、君こないだの…。」

後ろからかかって来た声に反応して顔を上げると、目の前に夕日を見ていた時のあの男の人が立っていた。

「あ、あの時のお兄さん! あ、えと、お久しぶりです。」

ぎこちない挨拶に彼は少し笑いながらも返事を返してくれた。

「久しぶり。 まさか同じ船に乗っているなんてね。 で、何探してたの?」

大学生にもなって妹と宝探ししていると思われると少し恥ずかしい気がしたが、なかなかすぐにいい代案が見つからず結局素直に事情を話した。

「へぇー、宝探しかー。 なんか懐かしいな。 俺もよく小さいときは似たようなことやってたわ。」

楽しそうに話す彼に思わず私も嬉しくなる。すると彼から素敵な提案をもらった。

「宝が見つかった後さ、良かったら一緒に上で話さない? 飲みもん奢るよ。」

そんな貴重な誘いを断れるわけもないがどうしても気になったことを聞いておきたくなり、躊躇いながらも言葉を繋いだ。

「お兄さん、…お連れさんとかいらっしゃらないですか? 私邪魔しちゃ悪いし……」

失礼だったと思いつつ彼の顔を少し覗く。すると全く変わらない笑顔で、

「一人だよ。 この船、色んな場所を巡るからいい写真撮れると思って来たんだ。」

そう答えて彼は私を見る。

すっかり嬉しくなって、私は宝を見つけ次第最上階に向かうことを告げてその場から離れようとした。


その場を誰かに見られていたとも知らずに。




第十二話へ続く。

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