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聖夜





結局の所、23日の日曜日も二人で集まったものの、結局世間話で終わってしまった。でも、そんな何気ない会話が楽しかったりしたのは秘密だ。


しかし、クリスマスまで残す所あと二日しか無い!渡辺と話し合いで決めた結果、今日、クリスマスイブに実質調査として、夜に二人で町を歩く事にした。渡辺が言うには「イブだけじゃなくてもクリスマス当日でもカップルが沢山いるから大丈夫じゃない?」とのこと、まあ渡辺がそう言うのだから良いのだろう。



しかし、女の子と二人だけで夜を歩くのだから、しかも聖夜に。

そのため、三河はそれなりのおしゃれをして約束より30分前に集合場所に来て待っていた。


「あ゛あ゛あ゛さみぃ゛こんなに早く来るんじゃなかっだあ゛あ゛」

体を震わせながら吐きだす息で手を温める。その手には手袋を付けていない。これじゃあ馬鹿丸出しな感じがしたので、渡辺と別れるまでポケット手を突っ込んで我慢しようと考えた。


――30分後――


「おまたせ~待った?」

渡辺が俺を見つけると同時に手を振りながら走ってくる。そんな彼女を一瞬可愛いと思ってしまった自分に心のなかで「バカヤロウ!」と一喝しておいた。


「いや、大丈夫だよ。俺も今来たところ」

俺の体感温度がさらに下がった気がした。こんな臭いセリフをよく言えたなと自分でも引くぐらい寒く、臭いセリフだった。

しかし、彼女は特に気にする事無く「そっか~それじゃあ行こうか!」と笑顔で俺の横に並んでくる。まあ、別に嫌でも無かったし、とにかく歩を進めようと歩き始めようとした所で俺は重大な事に気付いた。


「どこに!?」


今日の夜に集まることは決まっていたのだが、何処に行くまでは詳しく決めていなかった。そのため、三河は思わずツッコミを入れる形で叫んでしまった。その声のせいで、周りにいたカップルにクスクスと笑われ、二人は赤面するのだった。


何か良い感じの店があったら入ろう。という事になったので、歩を進める。


しかし、今日は冬。しかも寒さ今年一番。さすがに我慢の限界が来た手を思わず出してしまい。

「寒ぃ゛」と息で暖めてしまった。

やべ、しまった!と思った時には遅く。彼女にばれてしまった。


「え!?三河君手袋はめてきてなかったの!?」

ああ、こりゃ渡辺に弄られるな。と三河は思ったのだが、しかし彼女は、三河の予想を裏切り思いもよらない行動にでた。


「それじゃ寒いでしょ?私の手袋を片方貸してあげる」

そういって、渡辺は左にはめている手袋を外し強引に三河に渡す。三河は、渡辺の優しさを裏切る訳にはいかなかったので素直に左手に手袋をはめる。しかし、疑問に残る事がひとつ。


「渡辺は左手はどうするんだ?寒いだろ?」

俺がそう聞くなり渡辺はニコっと笑い、「大丈夫私はこれで十分!」と言いながら、三河の右手を握った。一瞬三河は何をされたのか分からなかった。しかし、頭を整頓するなり、顔を真っ赤にして慌てふためく。


「ちょっ、渡辺!?いきなり何すんだ!?」

俺が問うと渡辺は


「こうすれば温かいの。だからあまり慌てないでよ?周りの視線が恥ずかしいから……」

そういって渡辺は顔を紅潮させる。

急に大胆な事をしてくると思ったら、子猫のようにモジモジしながら、恥ずかしそうに言葉をだす渡辺に三河は胸の高鳴りが治まらなかった。


これって、悪魔でもそういう風に見立て上げる作戦だよな?そうだよな?


そうやって、なんとか自分を納得させ、顔が真っ赤なまま三河は渡辺と手を繋ぎ町を歩く。

しかし、その繋いでいる手は、自然と温かく感じた。


途中、クリスマスショップがあったので寄っていく事にした。店に入りしだい、三河は「手を放そう」と言ってみたのだが、渡辺は「もう少しこうさせて……」と言うので、仕方なく店の中でも手を繋いで歩く事にした。店を回っていてふと、気づいた事がある。正規のカップルでも手を繋いでいないのだ。しかし、今更断る訳にもいかず、時々感じる視線を受けながら店の中を回ることにした。


折角店に寄ったので、三河は渡辺に何か買ってあげる事にした。三河が買ったのは、赤と白で彩られたクリスマスバージョンの耳あてだった。レジで並んで支払いをしている時に、レジを担当している50歳後半のおばさんが「おやおやカップルかい?いいねぇ若いって」と聞いてきた。三河は素直に否定をしようとしたのだが


「いえ…カップルじゃ「はい!そうです!」

渡辺が肯定してしまった。………え?

「そうかい。そうかい。彼氏はカッコイイかい?」


「は、はい。かっこいいですぅ…」

渡辺は赤面しながら答えるものの、最後の方につれて声が小さくなっていく。しかし、レジのおばさんにも、三河にもはっきりと聞こえていた。

レジのおばさんは「ほぅ…」と零した後、俺の方を向き、

「あんたもこんな可愛い彼女、大切にするんだよ」

と、とんでも発言をしてきた。俺はとりあえずその場のノリで「は、はい」としか言えなかった。


また手を繋ぎながら店を出た二人。渡辺は店を出るなり、耳あてを付けた。そして



「三河君ありがとう」



そう一言だけ言った。俺は「お、おう」としか答えられなかった。先ほどの事で頭がぐちゃぐちゃになっていたからだ。何一つ頭の中のぐしゃぐしゃが無くならないのはもどかしく感じたので、思い切って渡辺に聞いてみることにした。


「あ、あの、渡辺。さっきの言葉はどういう意味なんだ?」

俺が聞くなり、渡辺はやっと落ち着いてきた顔をまた真っ赤にさせ、どぎまぎしながらこっちを向く。震える口を開きながらやっとの事で言葉を発した。


「あああ、あれはね、その、あれだよ!あれ!フ、フリ?フ、フリだよ」

あまりにもの慌てっぷりに少したじろいだが、まあ、渡辺がそういうならそうしておこう。

なんか変な感じだ…フリと言われてちょっと残念な感じがするが………


その後二人は一言も発さず街道を歩いた。



「き、今日はここまでだね。あ、明日、今日と同じ場所で待ち合わせしようね。明日が実行日だよ」


「そりゃ分ってるって」

全く…という感じで渡辺の方を見ると、偶然にも目が合ってしまった。思わず目を背けてしまう。

顔も真っ赤にしてだ。それは、渡辺も同じだった。


「じゃ、じゃあ私は先に帰るね。ば、ばいばい~」

そういって、来た時と同じように手を振って遠ざかっていく渡辺。


その時俺は思わず


「あっ…」

と零してしまった。


そこで、俺は何もかも分かってしまった気がした……


一昨日塾の先生が言っていた言葉。そして今日の彼女の言動。そして、俺の今の気持ち。

彼女が遠ざかっていくに連れて居た堪れない気持ちになる。




もう、自分でも気づいていた。俺は彼女に恋してるのだと。そして彼女もまた俺に恋しているの

ではないかと……


こんな状態で明日を迎えて良いのか?そんな不安が募る。


しかし、三河の頭に彼女の一言が(よぎ)った




『実行日は明日だよ』

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