塾
結局昨日も何も決まらず、渡辺と世間話をするだけで終わってしまった。もう、まるで普通のカップルみたいな感じな一日だった。そいて、今日もお互いに塾があるため集合は無しにして明日集まることとなった。
渡辺は妙に残念そうにしていたが、何故だろうか?………ま、いっか。そんな事を考えながら塾の問題をスラスラ解いていく。一つの教科で、得意不得意の差が激しいのが俺の見所だ。前に得意な部分を解いている時に、塾の先生から「お前、塾来る意味あんのか?」まで言われたほどである。ちなみに、個別指導だ。
今日の俺の担当は女の先生だった。この先生、道原佳奈子は塾では、空気が読める先生として男女問わず話あえる先生として、人気がある。そのお陰で恋愛相談も多いようである。
「もうすぐクリスマスだけど三河君は何か予定でもあるの?」
道原先生が尋ねる様に聞いてくる。
「いえ、特には無いです」
まあ、何も無いなんて事はないが、あんな事を喋る訳にもいかないので、ここは嘘を言っておく。
「あらら、可哀想なクリスマスを送るのねぇ~」
口を手で押さえながら微笑んでくる。すると、この会話が聞こえたのか、周りにいた生徒らが軽く「プッ」と噴き出す音が聞こえた。……訂正する。この先生は全く空気が読めない先生だ。
それか、天然Sだ。
「ハッキリと言ってくれますね。先生はそうなんですか?彼氏いるんですか?」
ちょっと、反抗する感じで聞いてみた。しかし、すぐその後、聞いたこと後悔することになるとは思わなかった。
「失礼しちゃうわね。付き合っている所か結婚してるわよ」
ま、負けた。てっきり付き合ってもいないと思っていたのに………しかし、被害を受けたのは少なからずとも俺だけではなかった。先生が結婚している事にショックを受けたのか、また、驚きを隠せなかったのか、周りの生徒らが手に持っていたシャーペンを落とす様が見えた。男だけだが………
「う、嘘だわよ。そこまで本気にしなくてもいいじゃない」
予想外の周りの反応に、道原先生は慌てて訂正するが既に遅く、男共はみんな机にうつ伏せになりながら、肩を震わせている。ここまで見ればもう何をしているか言わなくても誰でも分かるだろう。
「コホン、話を戻すけど三河君、本当に君一人だけ?一人くらい一緒にいる女の子がいるのじゃない?」
まるで、俺のことを見透かしているように尋ねてくる道原先生にたじろぎながらも、なんとか話を変えようと「あの、男共はなんとかしなくって良いのですか?」と言うものの、道原は「ほっとけばいいのよ♪それより私の質問に答えてくれる?」とほぼ脅迫に近い形で聞いてくるので、流石に吐くしかなかった。
「はい。一応同じクラスの女子と予定はしています。あ、でも彼女じゃありません」
俺がそう言うなり、道原は「ふ~ん」といった後、ちょっと面白そうな笑いを零して一言放った。
「なにをするのかは先生には分からないけど、ちゃんとその女の子の気持ちを分かってあげ
なきゃだめよ?女の子はそういう所に敏感だから」
俺には先生が何を言ってるのかよく分からなかった。俺が分からず首を傾げていると先生は「今は分からなくていいのよ、だって直ぐに分かる時が来るのですもの」と言ってきた。さらに頭が混乱してきた俺に、「まあ、今はとにかく授業を進めましょう」言いながら俺を急かした。その後の授業は話にならなかった。男共はみんな意気消沈してしまい、女子が何もしない男子にイライラし、罵り始めて、大騒ぎになった。その中で俺は一人道原先生に授業を受けていた。
帰宅時間になり、筆記用具をかたずけた後教室の外にでて自転車で帰る準備をしていた所に道原先生が来て「私がさっき言った言葉、ちゃんと覚えておきなさいよ」と注意づけた。俺は「はいはい」と適当に返事をして、「さようなら」と一言告げ、帰路に着いた。
道原は遠ざかっていく三河の背中に「ちゃんと成功させるのよ」と呟いたあと、寒さに体を震わせながら、教室に戻って行った。