07
ピーッヒュルルルルー…。
黒い大きな鳥が、空の向こうへ飛び去っていく。
ここは塔の上。しかも朽ちかけの錆びた鉄格子の牢の中。
あぁ…どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ。
「お腹、空いたねぇ…。」
「うん。」
「…あと、縛られている手足がとっても痛い。」
「そうだね。」
私は傍らで同じく縛られて、座っているオルヴォ君が同意を返してくれる。
荒縄とかふざけるなよ!と叫びたいところだけど、今はガマンしよう。
今この牢屋にいるのは私と、オルヴォくんと、フードを被った人の3人だけだ。
フードの人は、体は小さいが男か女か分からない。
ずっと沈黙したまま、縛られて牢の隅にうずくまっている。
私たちは、3人同時に同じ場所からここへ転送されて来た。
ーーー遡ること、だいたい半日前のパールナ村でそれは起こった…。
私が、『そろそろ塩が切れそうだから、村に買い出しに行く。』と言って、
身支度して”雑貨屋さん直通ドア”へ向かおうとしたところ、ラウちゃんも、
『僕も用事があるから、行く!』と、一緒にくっ付いて来た。
断る理由もないので、一緒に村へ出かけたんだ。
村を歩いていて、気付いた。
数日前から、2人で村で買い出ししていた成果か、村の人たちが彼を見ても
怯えなくなってきた。人間、なんでも3日で慣れるものだって言うもんね。
嬉しくて、心の中で小さくガッツポーズしつつ、市場で塩を探す。
目的の塩を買って、『ラウちゃんの用事って何?』と尋ねたら、
何故かモジモジしながら、
『えっと、時間かかると思うから、先に家に帰ってて♡』なんて言う。
なんだろうな?と思いつつ、『うん、わかった。メルヴィさんのところで
お茶して帰るから、ゆっくりでいいよ。気をつけて行って来てね。』と、
彼を見送った。
もう何度も来ている場所だし、何より昼間だったから危険なことなんて
無いって、思い込んでいたんだ。今思えば、甘かったよ…。
雑貨屋さんへ向かって歩いていたら、どこからかヤンネ君が怒鳴って
いる声が聞こえて、声のする方向へ進んで行ったんだ。
ケンカかもしれない!と思って。
現場(?)に到着すると、本当にヤンネ君と誰かがケンカ中だった。
林の少し拓けた場所で、近くにオルヴォ君や他のお友達が居た。
ヤンネ君は、フードを目深に被っている人に何か怒っている。
遠いからなのか、話の内容は聞き取れない。
心配になって、駆け寄りながら声をかけてみたんだ。
「おーい、どうしたのー?」
「っ! アンタ、こっちに来るな!」
「えっ」
フードの人が突然、私の方を見て叫んだかと思うと、ヤンネ君を突き飛ばした。
呆然としていると、オルヴォ君が手を繋いでいる。びっくりして彼を見たら、
彼は何でもないようにこう言った。
「大丈夫。」
すると突然、足下の地面に真っ黒い大きな穴が開いた。
吸い込まれるように落ちて、落ちて、出た先が牢屋だった。
「なんか、ゴッツイ人たちに縛られたけど、何が目的なんだろう…。
身代金?それとも奴隷?」
「わからない。でも、ここにいたら悪いことしかないのは確かだよね。」
うーん。オルヴォ君、的確な意見だね…。
とりあえず、気になっているそこの人に声をかけてみようか。
「…そういえば。そこのフードのあなた、ヤンネ君と知り合いだったみたいですけど…?」
「……。」
声がちゃんと聞こえたらしく、フードの人がわずかに顔を上げる。
「私は、リツキといいます。
こっちの子はオルヴォ君、あなたのお名前はなんていうんですか?」
丁度、雲が晴れて窓から西へ沈もうとする夕陽が差し込む。
フードの人の容姿が、ちゃんと確認出来た。
フードから覗く、春に芽吹く若葉のような萌黄色の髪、この世界では良くある色
だと言う赤銅の瞳。
意思が強そうな切れ長の目をして、一目で男の子とわかる凛々しい顔立ち。
…ん?なんか似た顔立ちの人たちを知っているような…?
私が考えている間に、フードの人が口を開いた。
「…アンタのことは、親父とお袋の手紙で知ってる。
俺の名前は、アルヴィ・ハーヴィスト。
魔術研究生で、不本意だがあの馬鹿ヤンネの兄だ。」
今回は、短めです。事件の始まりですよ!
修正:2012/10/02
誤字脱字を直しました。