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05



「私は、地球の日本という場所から来ました。

…この世界では、”異世界人”です。」


 ただいま、事情聴取中です。

メルヴィさん、アレクシスさん夫妻が私とラウちゃんの向かいに、

『さぁ、どんどん話して』と、ばかりに腕を組んで座ってて怖いなぁ…。


 雑貨屋さんは、今だけ次男のエルメル君(10歳)が店番していて、

ヤンネ君とカティちゃんは、オルヴォ君や村の子たちと遊んでいる。


「はぁー。本当にそうなのね?

それで。このバカとは、いつ出会ったの?」


「…ラウちゃん、説明お願いしていい?」


魔法関連のことはさっぱりわからないので、彼に声をかける。


 しかし。

私の肩にもたれて、グッタリしているラウちゃんはピクリとも動かない。

なんか、昨晩から木にぶら下げられてみたいだし、可哀想だ。

仕方ない。もう少し、このままにしておいてあげよう。


「えぇと…私と彼が出会ったのは、私が6歳の頃のことです。


その時の私は、母方の祖母の家に預けられていました。

一人で遊ぶのに飽きて、家の一番奥の物置を探検していた時に、

不思議な鏡を見つけました。


角の取れた長方形の、美しい(つる)バラの縁取(ふちど)りの古い鏡です。

母か、祖母の物かな?と、恐る恐る私は鏡にそっと触れました。


すると。


鏡に、私以外の人物の姿が映し出されました。

そこに映ったのが、ラウちゃんだった訳です。」


「ふむ…それで?」


夫妻が、相づちを打つながら続きを促す。


「当時の彼に聞いたことなので、あまりよく覚えてないんですが、

『とおくをみるまほうをやろーとしたら、こうなっちゃった』って。

確か、そんな感じのことを言ってました。」


「うーん、普通は間違えないはずなんだけどね?」


メルヴィさんが、ぎゅぎゅっと眉間にシワを寄せる。


「そうなんですか?」


私には魔法の知識が無いので、すごさがわからなかった。



「そりゃあ、そうよ!異世界の間で、姿や声を届けるような高度な術、

うっかりじゃできないわ!」


よくわからないけど、きっとすごく遠い小惑星に砂を採取しに行ったアレ

みたいな、気が遠くなるような難易度の魔法だったんだろう。


「…それを10年も続けてたなんて、ラウちゃんってすごかったんですね。」


「彼は、我々が監視してきた魔術師の中でもかなり強力な魔力を持った、

”金瞳”(ゴールド)持ちだからな。不可能ではなかっただろうが…。」



 アレクシスさんが、唐突によくわからないことを言う。

”金瞳”(ゴールド)? それより、監視って…。

私の様子を察して、メルヴィさんが教えてくれる。


「アレクシスは、今はこんなところで雑貨屋してるけど、昔は魔術師でね。

魔術師の素養がある子ども達を、教育する機関で働いていたの。」


そんな機関があるのか、この世界は。

魔術の学校みたいなものかな?


「彼は、幼い時期から魔力を持て余していた。

感情の振り幅が大きくなると、それだけで唱えてもいない術が発動したり、

大変危険だった。8歳の頃には、暴走を起こしかけて隔離されていた。」


…隔離、


「りったんに会ったのは、隔離施設の中庭に出来た水たまりだったなー。」


寝ぼけた声が、耳の横から聞こえた。


「あの時が、僕の人生のドン底だったけどさぁ。

君と話せるようになってから精神が安定したみたいでね、魔力の制御が

しやすくなったんだ。僕がこうやって笑って生きてるのは、りったんの

おかげなんだよ?」



彼のきれいな黄金色の瞳に私が映っている。



小さかった私は、初めて会った日その瞳をほめる言葉が思いつかなくて、

バカみたいに、『きれい!』と言っていた気がする。


「ありがとね。」


じわり、と涙で視界が歪んだ。


「こちらこそ、ありがとう…っ。

私、きっと、ラウちゃんが居なかったら、あの誰もいない家で過ごす毎日に

耐えられなかった。」



 鏡の中の触れない彼だけが、私とたくさんの時間を過ごしてくれた。

両親が、『産まなければよかった』と言った私と。


あの日。お母さんが包丁を持って、私を殺そうと襲いかかって時に、彼は私を

こちらへ召喚してくれた。

あのままだったら、きっと私は刺されて死んでいただろう。

ラウちゃんは、命の恩人だ。


それなのに。


「うぅ…ラウちゃんが、そんな状況だったのに、いっぱい()(ごと)…っぐず、

ひっく…、私…っ……ご、ごめんなさ、うあぁあぁあん…っ」


「うあーっ!泣かないでぇ!大丈夫だから、ね!」


どこから出したのかわからない、ふかふかの布で彼が顔を拭ってくれた。


「…ちょっとぉ!夫婦して僕のカノジョいじめないでくれます?」


「い、いじめられてないよ。」


ちょっと涙腺がゆるんだだけ。昔っから泣き虫なのだ、私は。


「すまない。」


あぁ、アレクシスさん、いいんですよ!律儀に謝らないで!


「…コホン!

で、話を戻すんだけどね?『召喚』された後、リツキちゃん、このバカの

家に居たのよね?コイツの家は、誰も発見出来ないって、魔術師の仲間内

でも有名らしくてねー。そんなところから、どうやって来たのかしらって、

気になっちゃって。」


 い、言えない!

彼が私と一緒に観ていたジ◯リ映画の影響で、海の上に◯ピュタみたいに、

大きな庭園とログハウスを敷地ごと浮遊させているなんて…!

さらには、ハ◯ルの動く城のドア(どこでもドアみたいの)を使っている

だなんて…!


今回、私がこっそり出て来れたのも、そのドアのおかげだったんだ。

森の中をひたすら歩いて、パールナ村に辿り着いたんだよね…。怖かった…!

道中、モンスターに1匹も出会わなかったのは、本当にラッキーだったけどね!


「ひみつですー。黙秘しまーす。」


本人も、言う気がないようなので私も黙っていよう。うん。


「…なぜ、この村まで来た?」


アレクシスさんが質問を…!あれ、いつになく眼光が鋭い気がするんですが…?


「アレクシスも、なにかリツキちゃんがラウリにひどいことされて逃げて

来たんじゃないかって、疑ってるのよね?だから、昨日も…ととっ。」


 えー!?そんな風に思われていたとは…!

心配してもらえるのは、ものすごく嬉しいんだけど、ね。


家を飛び出したのは、私が勝手に焦ってバカなことしただけなんですよ…。


あ、昨日の吊るし上げも、その容疑のせいだったのかな。

これは、誤解を解かなくては…!


「ひどいことなんて、されてません!

えっと。召喚された直後は、かなり混乱してましたけど、こんなことが

ありました。」




******回想中…******



突如。

足下に現れた魔法陣が光ったかと思うと、水の中でした。

ラウちゃんに、急いで助け出されて、それが彼の庭の池だとわかりました。

どうやら、私だけ出現する座標がズレて落ちてしまったらしいです。


ギュムッと初めて抱きしめられて、心臓が止まるかと思いました。


太陽の光に、彼の髪が空色につやつや光ります。

髪の長さは、少し長めの短髪です。

サイドの毛が後ろより少し長いのが特徴でしょうか。

ちょっとタレ目で、瞳が真ん丸で、上り始めの満月みたいな優しい

黄金色をしています。


背の高さは、160センチの私より15センチほど高いので175センチくらい

だと思います。いつも鏡で見ていた、にっこりと柔らかい笑みをした、

男の人が私の目の前に居ました。全身を見れたのは、初めてです。


無意識に、私は彼の髪に手を伸ばしていました。


「(思ってたより、ふかふかしてるーー!!)」


昔から、ずっと触ってみたかったのです!大興奮ですよ!

ラウちゃんは、私が満足するまで髪をモフモフさせてくれました。

本当に、彼は優しい人なんだなって。そう思ったんです。


ところが。



むちゅーーーっ。



いきなり引き寄せられたと思ったら、キスされました。


「…えへっ、うばっちゃったぁー♡」


私は事態が飲み込めず、ポカンとした後、ハッとして言いました.


「う、え?なん、で?」


「んー?だってしたかったんだもん~(*´ω`*)」


彼は、頬を赤く染めてそんなことを言います。


頭が真っ白になりました。

それって、もしかして…。

期待で心臓が、今まで刻んだことが無いような早さで脈打ちました。


私は、全身真っ赤だったんじゃないのでしょうか。

声も出せずジッと彼を見つめました。息が止まりそうになります。


「…君のことが、好きなんだ。だから、したの。嫌だった?」


好き?

本当に?

うぁあっ!

滅多に見ない、すごく真剣な顔をしないで下さい!カッコイイから!


「わ、私、ずっと前から、ラウちゃんが好きだから、あの。えぇと。

…全然、嫌じゃないよ。」


それに、泣きそうな顔でそんな事を言われたら、正直に白状するしか無い

じゃないですか!!嬉しくて本気で死ぬかと思いましたよ!



「よかったぁ!じゃあさぁ~」


にぱーっ!と、でも擬音が出そうな素晴らしい笑顔で、彼は言ったのです。




「僕と結婚を前提に、同棲しよーよ☆」




こんな、冗談みたいなプロポーズ(?)に、ときめいてしまった私は、

きっと重傷です。



******回想終了。******




「…それ、了承したの?」


「喜んで了承しましたよ?その場で。

…飛び出して来ちゃったのは、ちょっとした行き違い、というか。

だけど、もうちゃんと解決したので大丈夫ですよ!」


アレクシスさん、納得してくれたかな?

むむ、まだ難しい顔してる…。


「失礼だがリツキ、君の年齢はいくつだ?」


年齢?


「私は今年で16歳ですよ。」


「正確には、あと11日でね☆」


あぁ。そういえば、そうだったなぁ。

召喚されたのは、地球の日付で4月9日で、私は4月20日生まれなのだ。


「まぁ!てっきり、13歳くらいだと思ってたわ…。」


「すまない…。私はアルヴィと同じ12かと。」


 ぬぅ…。まぁ、お約束なんだけどね…。

異世界で日本人って、なんで幼くみられるんだろうね?

やっぱり、平和ボケしてるから頼りなくみえるのかな?


 それとも私の胸ですか?確かにメルヴィさんに比べれば、ささやかだけど!

これでもCカップなんだよ!?それに、まだ大きくなるかもしれないし!

…そういえば。


「ねぇ。ラウちゃん、この世界の成人っていくつなの?」


「16歳だよ♪こっちでは、新年にみんなで歳をとる感じだから、りったんは

もう『成人』ってことになるね。結婚もできるよー♡」



その時。

それまで思案するように、じっと目を閉じていたアレクシスさんが突然、


カッ!と、目を見開いて静かに言う。


「確かに、リツキは既に成人している…だが、結婚は認めない。」


「な…っ!?…なにそれぇ!

そんなこと、あなたに反対される理由がないでしょー!?」


「落ち着いて、ラウちゃん!」


ラウちゃんが怒って立ち上がろうとするのを、私がしがみついて押さえる。

私を見ると、眉を八の字になって、シュン…と席に座る。少し可愛かった。


「理由を、聞いていい?」


「あぁ。……私は君が気にくわない。それが理由だ。」


おもむろに、アレクシスさんが席から立ち上がり言い放った。


「この子(リツキ)を嫁にしたければ、私を倒してからにしろ!!」


な、なんだってーーー!!!

以外と、体育会系の人だったんですね!?


「フン!望むところだよ!

ソッコー倒して、りったんと結婚の許可もらうよ!!」


えっ、ラウちゃんまで…!?どうなってるの…!?

2人はそのまま、中庭へ走って出て行ってしまった。


「あぅ、あの?」


戸惑う私に、メルヴィさんが肩を叩いて笑いかける。


「安心して!ウチの人、白兵戦だったら絶対負けないから!」


「安心できる要素が皆無じゃないですか!」


ケラケラと楽しそうにしながら、メルヴィさんは私に言う。


「あの人も、私も、ウチの子どもたちも。

貴女のことを、もう家族だと思っているわ。


だから、すごーく大切にしてあげたい。


『会って間もないじゃないか』なんて言わないでね?

貴女には、ここをこの世界の実家だと思って、いつでも遊びに来て欲しいの。

ね、お願い。」


また零れそうなった涙をぎゅっと耐えたら、私は笑ってそれを言えた。


「っはい…!」




その後。

全身ボロボロになって2人が帰ってきたが、決着はつかなかったらしい。


引き分けたので、結婚の許可は次回に持ち越しになったんだとか。


だけど。

私を心配したメルヴィさんのお願い(・・・)によって、かなり無理やりに、

”アンタの自宅から雑貨屋への直通通路を魔術で作る”という約束をさせられた!

と、後になってラウちゃんから聞いた。


ラウちゃんはふて(くさ)れていたけれど、私はすごく嬉しかった。




ーーーこうして。私の異世界へ来てから初めての、小さな冒険は幕を閉じた。




シリアス 3:7 ギャグになっちゃいました…。うーん。

だけど、書きたかったことは、またひとつ消化出来ました!

次に向けて頑張ります!

ここまで読んでいただき、有り難うございました!まだ続きます!


修正:2012/10/02

誤字脱字を直しました。

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