32>エピローグ
ーー300年前にも起こった危機が、再び世界を襲おうとした時。
どこからか 現れた ”魔女とその仲間達” によって、世界は救われました。ーー
めでたし、めでたし。
… … …。
まぁ、お伽噺ならば そんな締めくくりで良いですよねぇ。
でもでも。これはこの世界で、実際にあった出来事。
たくさんの面倒臭〜い後始末やら、表には語られない 裏話があるんです。
あの戦いの後は、文字通り ”眠る暇もない” くらい慌ただしかった。
各地の魔獣による被害状況を調べつつ、壊された家屋の修理や怪我人の介抱。
退治しきれなかったはぐれ魔獣の討伐、報告書の作成…その他諸々の雑事。
”賢者の杖”総動員、いえ各国の騎士団やら関係各所もでバタバタ走り回ってい
ましたね〜。
正直、何度ぶっ倒れてそのまま永眠してしまうと思ったか…ははは。
そして狙ったようなタイミングで、黒騎士殿の奥方が産気付いてしまって
さらに、我々は殺人的な速度で仕事を消化する事を余儀なくされたのです。
三・四週間かかるはずの予定の仕事を、ほぼ不眠不休で一週間でやり遂げました。
よく生きていたものですよ。うちのボスもさすがに憔悴した様子で、
『こっちが本当のラスボスだったかもしれない…。』と、意味不明な事を呟いて
いましたよぅ。
意味を聞いても、結局は教えてもらえませんでした。
黒騎士殿は、愛妻家で子煩悩なのは 仲間内では周知の事実…『命が惜しくば、
奥方と子ども達を優先させておく』というのが、暗黙の了解となっている位です。
こればっかりは、仕方ない。そういうものなんです。
むしろ、誰一人も脱落せず 発狂せずに、完了出来た事が奇跡だと思います…!
あぁ。そういえば…ボスや我々が、出掛ける前よりも満身創痍なのを見た
お嬢さんが大層驚いて、顔を青くしてオロオロしていましたねぇ。
でもさすがに、『”寝たら殴るルール”を始めたら、全員 顔がボッコボコになる
まで止めなくなって、もう わざわざ治すのもバカバカしいから、痛み止めだけ
飲んで湿布のままなんです。』
なんて言えないじゃないですかぁ。格好悪いですし。
お嬢さんには『残っていた魔獣が少し強かった』と言って、誤摩化しました。
それで、ですね。ここからが重要なんですよ。
心身ともに、ボロボロになったのが少し回復した頃に 黒騎士殿のお宅へ
お邪魔したんです。
色々と、確認して頂きたい書類をボスと黒騎士殿に届ける為にね。
そうしたら。
うちのボスがご執心の、あのお嬢さんが話しかけて来たではないですか。
どういう心境の変化でしょう、と思いました。
以前は かなり避けられていたようですし。
…まぁ、原因なんて 第一印象が最悪であった所為だと、想像に難くないですが。
我輩はその時、やっと安眠出来るようになって、体調バツグンでご機嫌だった
のです。
だから『お嬢さんとゆっくりお話でもしてみようかなぁ〜?』と、思ったん
ですよー。
疾しい事は 何ひとつ 考えてませんでしたよ! 本当ですっ!
なので。背後からの刺すような視線を気に留めつつ、
「あらあら、何か我輩に御用ですか〜 お嬢さん?
うちのボスなら、ここには居ませんよー?」
と、返事をしました。
ボスには一度 凍死一歩手前のお仕置きされているので、下手な事は出来ません。
お嬢さんは、単に世間話をしに来ただけでした。
何だか 黒騎士殿の奥方のお産に携わったらしくて、とっても感銘を受けて
いました。
我輩に話しかけたのは 近くに居たからであって、特に理由は無いと言っていた
気がします。
『ただ 誰かに聞いてもらいたいだけなので、気にしないで欲しい』と。
なら、真後ろで気配を消して我輩の命を狙っていた頼もしいボスに話してあげて
欲しかったんですけどねー。あはは。
「今まで 考えた事もなかったけど、私もあんな風に祝われて生まれて来たんだ
と思うんです。
ずっと両親から疎まれていると 誤解をしていましたが、祖母のおかげで
そうじゃなかったんだって信じられるようになって。
…私も、いつか メルヴィさんみたいに…。な、なぁんて!なな 内緒ですよ!」
お嬢さん。
残念ですが、一番内密にしたい相手には筒抜けです。
我等がボスが 貴女のそんな発言を聞き流したりするとお思いですか?
答えは いいえ です。
「メルヴィの出産祝いをしたいなぁって、前々から思っていたんだ。
ほら。おめでたいし、僕らもここらで『夫婦になります』って皆に発表しようよ。
ねっ。」
用件を終えて、そそくさと帰ろうとしていた時、蕩けるような微笑みを浮かべ
ボスはそう言い放ちました…。
お嬢さんの嬉しそうで恥ずかしそうな表情を横目で見つつ、
『ヨカッタデスネー』
と、現実逃避していたくなるほど、背筋がゾワリとしたのですよ。
悪寒なんて、お化けが怖かった子ども時代以来でしたねぇ。
…あぁ、思い出したら、また鳥肌がぁ…!ヒィー…ッ!
我輩は厄介な事に関わりたくないと、逃走を試みました…!
が、しかし。
結局はボスに捕まってしまい、宴会の準備で 四方八方に駆り出されたんです。
『伝説の傭兵』…マティウス殿に援護を頼んで正解だったと、今でも思いますよ。
我輩が人付き合いを苦手としているのを承知で、あぁいう無理難題を
吹っかけて来るのですから…困ったお人です。嫉妬とか、正直やめて頂きたい。
はははっ、すいません。話が逸れました。
宴会は、パールナ村の村人のほとんどと 知人友人を呼べるだけ呼んで、盛大
に行われました。
生まれたばかりの赤ん坊は、奥方の腕に抱かれてお披露目されていましたねぇ。
確かー…、髪が深緑で瞳が銀瞳でしたっけ?すいません、人の顔を覚えるのって
苦手で。
ただ、ねぇ。
知らない人間がわんさか来て、自分を見ているというのに 一声も泣かなかった
んですよー。
それが不気味だったのは、ちゃんと覚えていますね。
あ。 いえいえ、だからといって別に予見していた訳では無いです。
数年後にあぁなったから、余計にそういう印象だったと記憶が捏造されたのかも
しれないですねぇ。記憶なんて、そんなものです。
もう一人の主役のお嬢さんは、なんというか…落ち着きが無かったですよね。
あは、嘘ですよ。冗談ですって。
村の奥樣方の尽力もあってか、とっても綺麗でしたねー。
お嬢さんの郷里の風習で、白い丈長の衣服にこれまた白い薄衣を頭に被っていて。
編み込んだ髪に挿した桃色がかった白い花がまた似合っていた覚えが有ります。
あれって、何の花だったんでしょうねぇ。
おやおや、教えて下さるんですか?
え? ナシの花? そういう名前なんですか?
…これはまた不思議な名前の花ですね、『有る』のに『無し』の花なんて。
お嬢さんの郷里の樹木の花なんですね。本当に興味深い。ふふふ。
あぁ、また話が脇道にズレてしまいましたね。
…本題を早く話せ、ですか。
まったく、ちょっとくらい良いでしょう。変人の我輩を尋ねて来てくれる奇特な
人間なんて貴方達くらいですよぅ?
もう少しお話ししたいじゃないですかぁ。
やれやれ、学生さんは時間に追われているんですね。仕方ありません。
…君は、どれの辺りまで知っていますか?
ほうほう。なるほど、なるほど。
では、全ての鍵となる話を教えましょう。
このキルシッカ王国領の上にあるにも拘らず、どの国からも治外法権である
『パールナ村』。
あの村では、よく魔術師の才を持った子どもが多く見られるんです。
そして 今でこそ 髪色や眼の色が多彩なこの大陸ですが、面白い事に500年ほど
歴史を遡ると銀色の髪に、銅色の瞳の人間しか居なかったという記述が見られ
るんです。えぇ、その色だけしか居ませんでした。
さらに言えば、髪の黒い者や片手で足りる数しか存在が確認されていない金瞳は、
『パールナ村』でしか生まれていないんですよ。
この意味が、分かりますか?
「…まさか、僕らのご先祖様は『レイヴン』…とか?」
本当にそうなのか?信じられない…と、でも聞きたそうに見開かれている少年の
銅色の瞳に、我輩は笑いかけます。
頭の回転が速い人は好きですよ。
そうなのです。
我々は、遠い昔に滅びかけ 異世界の人々をこちら側に呼び寄せて、その血を
取り込む事によって永らえようとした大きな大国の生き残りなのですよ。
きっかけは、雨乞いの儀式の失敗でやって来た 異世界の男とこの大陸の娘が
成した子どもが、強い魔力と画期的な技術を知っていた事でした。
術者達は、躍起になって衰退していく一族の為に、異世界から人間を攫う方法を
編み出した訳です。
けれど、それはとても惨たらしい術でした。
異世界人を呼ぶ為には、こちらの人間の命を引き換えにしなければいけなかった。
許されざる禁忌の法を用い、異世界の人を利用し続け 繁栄した一族なんですよ、
我々の先祖は。
…この話は、今有る王家の中でもキルシッカと他いくつかにしか伝わって
いません。
戦争やら飢饉やらで、世の中がごたごたした時に 伝える人間が激減しました
からねぇ。
あぁ、そんな話を何故に我輩が知っているかと思っているでしょう?
ぬっふっふっふ!
我輩、実は王子様なんですっ!
ちょ、『ふーん』で済ませないでっ!
こちらのレディのように、『すごい!』って目で見てもらえませんか!?
まー 所謂妾の子なので、厳密には違うようなものですけどね。
え?なんで、そんな我輩が 医者をしているのか、ですか?
それはですねぇ!深ぁ〜い理由があるんですよ!!
正室さんも、その子どもの義理の兄さんも、弟や妹も なんでか優しい人達
なんで逆に居心地が悪いんですよぅ!
居たたまれなくって!
「なんか、複雑なんですね…。
で、もうひとつの質問にも答えてもらえますか?」
さらっと流そうとしないでくれませんかぁっ!?
ちぇー、いいです。いいです。
うーんと、もう一個って六年前の『集団夢』にまつわる事件でしょう?
それは そこのレディのご両親に聞いた方が早いですよ。
と、いうか我輩のような第三者に聞かずとも、君は全てを知っているのでは?
まさに当事者だったんですから。
そうでしょう?
『オルヴォ・ヒューティア』君。
魔術学校では、成績は中の上だけれど教えるのが 上手くて人気者らしいと、
風の噂で聞いていますよ。
少年は、短く切られた茶色い髪の頭を軽く掻きながら 困ったように眉間に浅く
シワを寄せて伏し目がちに答える。
「僕は、確かに六年前のあの日にリツキさん達と行動を共にしたり、幽霊の
ティーアさんやネストリ師匠と話をしました。
でも、年々少しずつ忘れていくんです。どんなに忘れたくなくても。
…課題を ”古代の魔術” なんて難しい物にしたのも、繋がりを失いたくなかった。
それだけなんです。」
あの小さかった男の子が立派になったなぁ…!なんて、親戚のおじさんのような
気持ちになっていると、すぐさま 彼はこんな事を言いました。
「…ん?
そういえば、今聞いた話は書いても大丈夫なんですか?
これって割と外に漏れると不味い話ですよ。最悪、僕達 消されたりしますよね。
なんで国家機密っぽい事、ツルッと話すんですか。迂闊過ぎじゃないですか。」
14歳に、叱られてしまいました。
正論です、確かに正しい事を彼は言っているのですが…!
何故でしょうっ!さっきの感動を返して欲しいです!!
「あの、」
ふと、自分の白衣の袖を引く感覚が有り、続いてか細い声を聞き取りました。
「あぁ、トワさん。
どうしました?お菓子ならまだ奥に有りますし、食べますか?」
青みがかった銀色の髪を白いリボンでひとつに束ね、薄い茶金色の大きな
ドングリ眼の幼い少女が椅子に座っている我輩の白衣を握ったままモジモジ
しています。
少女の名は、『トワ・トゥフカサーリ』。
あの優しげなのにジッとしていられないお嬢さんと、我輩よりも年下なのに
魔術師としては誰より尊敬する我らがボスの愛娘であります。
可愛い盛りの5歳児さんですねぇ。
「いえ、おかし…おいしかったです。ありがとうです。
おーちゃんに、くっついてきて、その、じゃましちゃったみたい。すみません。
あの、えと、でも。また…きてもいいですか?リクせんせいおもしろい、から。
きょうはリーナちゃんと、おやくそくしたので、だめだけど。
また、きたいです。」
顔立ちといい、性格といい、お嫁さんの方に似ている様子です。
どうか、そのまま育って欲しいものですねぇ。
「えぇ、お待ちしていますよぅ。
帰り道、気をつけて下さい。今度はお母様と来て下さいねぇ!デュフフ。」
「…次回も僕が一緒に来るから。トワちゃん、行こうか。」
我輩を、明らかに不審者を見る目で睨んだ後、慈愛に満ちた仕草で小さな少女
の左手を取って帰っていく少年。
手を引かれている少女…トワさんが はにかみながらも微笑んで我輩を振り返り、
右手を振ってくれました。本当に可愛いです。
その可愛気を、是非 お隣のお兄さんに分けてあげて下さい。是非とも。
あーぁ…、我輩にもそろそろ春が来ないでしょうかねぇ〜…。
*****
コトコト。火にかけたお鍋からは、美味しそうな匂いがしている。
あともう少し煮込んだら、完成かな。
「おかあさん、ただいまぁ。」
「トワちゃんのママ!うちのかーさんが、『今日は何作ったの』ってー!」
いつも通り、メルヴィさんとアレクシスさん家と『どこでもドア』のように
直通で繋がっている、便利な台所横の木製の扉から子ども達が顔をのぞかせて
いた。
「おかえり!
お父さんもすぐに帰って来るから、手洗い・うがいしておいで。」
「うん。」
扉を出て、こちらへ来て 洗面所へ駆けていく長女。走ると こけるよー。
あ、つまづいた!でもなんとか持ち直したわ。
うふふ。可愛いなー…って、あれれ。これって、やっぱり親バカかなぁ。
「…あっ!
リーナちゃん、うちは『肉じゃが』ですって伝えて!今持っていくからね。」
「あいあいさー! かぁーさーん!」
深緑の柔らかそうな髪をした、銀色のキラキラした瞳の女の子がパタパタと
あちら側の家の廊下を駆け抜けていった。
うーん、今日もリーナちゃんは 元気そうでなによりだ。
けど 昨日か、一昨日に お姉ちゃんのカティちゃんと取っ組み合いのケンカ
したって聞いたけど、大丈夫かな?
「こら、リーナ!あたしの木刀どこやったのよぉ!?」
「カティ姉の木刀とか、知らないよぉ!ロッタ姉に聞けばいーじゃん!
ねっ、トワちゃん。」
「え、あの、えと…ふぇ…、」
「あああ、トワちゃん涙と鼻水が…!はい、タオル!」
「ちょっと!アンタ達、リツキちゃん家に迷惑かけちゃダメよー!」
「「はぁーい!」」
唐突に始まる、がやがやした声。どうやら何かあったみたい。
堪えきれず 笑みが零れてしまった。
「(あぁ、幸せだなぁ。)」
急いで お鍋を火から下ろして、愛娘を助けに行こう。
ちょっと気の弱いところがあるのよね、あの子。
「永遠。おいで!」
泣きながら 飛び込んで来る娘を、むぎゅっと抱き締めると 温かい温度。
おまけでコチョコチョとくすぐれば、嬉しそうに笑い声が上がる。
「あ、おとうさんと、るーちゃんきた、よ!」
振り向けば、玄関から開き 彼がこちらを見て微笑みながらやって来た。
その肩の上には、ちゃんと夕焼け色のトカゲが ちょん、と乗っている。
「たっだいまぁー♪
二人とも仲良しでいいなぁ、おとーさんもいーれてっ!」
目の前に、小さな鏡。
私の顔を映している。もう別のどこかに繋がらなくても大丈夫なんだ。
欲しかったものは、全て ここにある。
ーーー今日も、明日も、きっと明後日も。
私の鏡に映るのは、本日も騒がしくも 楽しげな、この世界だけ。ーーー
お、終わったぁあ!(泣
なんか、あっちこっち めちゃくちゃな感じがありますが…!
一ヶ月以上更新しなかったのに、これかよ!とお叱りを受けそうですが!
完結だ!
補足や足りない分は、番外編と後日談という名の蛇足でやります。(土下座
そして、web拍手が作れたらば 梨月とラウリの立ち絵がある…よ。たぶん!
(需要無いと思いますが)頑張って来ます!




