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「つまり。私たち家族が襲撃されたのは3月5日。

犯人はお父さんのストーカーで、うっかり自宅がバレたせいで事件が発生。

お母さんとお父さんは存命で、あの後 近所の人が通報したおかげですぐに逮捕

された、と。

ここまでは、とりあえず理解したよ。

はぁ…2人が生きていて、本当に良かった。


…で。

私が死ぬって時になって うっかり好意に気付いてくれたラウちゃんが、

慌てて試作中だった召喚陣で私を喚んで、死にかけだった私を治療してくれた

訳ね?」



 尻尾を掴んで、睨みつけられている 可哀想なイルカのぬいぐるみ。


「うん…。」


…もとい、何故か ぬいぐるみに入っているラウちゃんが、すっかりぐったり

している。

命を救われた事、好意に気が付いてくれた感謝の念はある。あるのだが…。

まだまだ怒りが収まらず、厳しい口調になってしまう。



「よし、準備が出来たわ。

梨月 おいで。ちゃんと説明するから。」



 ティーア(”少女の姿のおばあちゃん”はすごく違和感があるので、今はこう

呼ばせてもらう)が私たちを手招く。


あれだけ 悪夢のような光景が広がっていた場所が、今は” 学校の視聴覚室 ”風に

変貌していた。

…とても静かで、落ち着いた風景。


「どういう原理なのかなぁ…。」


「あぁ、ここは人の見る夢のさらに奥なのよ。

個人の夢を細い水路とするならば、この場所は海へと続く大河ね。

皆の見ている夢の源流みたいなものと言えば、想像しやすいかしら。


まぁ 結論から言えば、今見えている部屋は 梨月のイメージが作っている物よ。

梨月の『話を聞きたい』という気持ちが形になった姿。

さっきのあれは、”彼女”に少し影響されて見ていただけなのよ。

…まぁ、この話は長くなるから置いておいて!


とりあえずは、こっちを先に説明させてもらうわね。」


ティーアが壁の前に立って、何かの映像を見せる。



「これって…。」


「まぁ、”再現ぶいてーあーる”よね。」


その言い回しにガクッとずっこけながら、じっと様子を見つめた。

一人称視点の、とても悲惨な戦争の様子が壁いっぱいに投影されている。



「ネストリに聞いていると思うけど、300年前大きな災いがあの世界を襲った。


その原因となったのが、民衆の間で人気のあった女神様。

祀られた当初は、願いを全て叶えてくれると参拝客が引っ切りなしだったらしい

んだけど…。


戦争や飢饉で荒れた 民衆の心を癒し、願いを叶え続けるには、少しだけ力が

足りなかったの。


女神様は思った。


”どんなに死力を尽くしても『まだ足りぬ』と言って 皆で私を責めるのか。”と。

そして、我慢し続けた彼女は…ある時、ついに爆発してしまった。


風に乗った彼女の怨嗟(えんさ)の声が、多くの人々を呪い 死に至らしめた。

…結果は、歴史に残された通り。


私たちが、彼女を討ち滅ぼした。」



 映像を見つめる ティーアの表情は、とても悲しげに見えた。

恐らく、長い間このことを気にしたまま亡くなったんだろうな、と思う。

きっかけが きっかけだもの、迷わない方がおかしいよね。



「でも。これだけは、誰も知らなかった。

彼女が消滅の際に、ネストリの魂に呪いをかけ地中に閉じ込め、私に彼女の

一部が取り憑いていて、時空を渡ったことは。


私も 彼女に気が付いたのは、梨月がずいぶん大きくなってからだったわ。

梨月が嬉しいと、異常に幸運だったのは彼女の力の片鱗が漏れていたからなの。


静かにしているから、このままにしておこうと思ったけれど…まさかこちらへ

渡る機会を狙っていたなんて、夢にも思わなかったわ…。」


「私の、中に?」


「そう。小さくて、巧妙に隠れていたから発見が遅れたわ。

最初から同じ(からだ)に入っているから下手に分離も出来なかったのよ。


…ごめんなさい。」


 額に手を当てて、疲れたように笑ったティーアに私は尋ねる。

今の話を聞いていて感じた、ひとつの可能性について。


「…もしかして、鏡で世界を繋いだのも。」


「断言は出来ないけれど、そうでしょうね。

そこのお坊ちゃんの力量だけでは、説明がつかないから。」



なるほど。

ちらり、とイルカのラウちゃんを見遣れば、彼もこちらを見ている気配がする。


「それで? ラウちゃんはこんな姿で、一体 何をしに来たの?」


尋ねられた彼が、何だか しゅーんと垂れながら答える。


「僕は これから元凶の女神をもう一度、消し去りに行こうとしてたんだけど、

何故かティーアに捕まってこの姿にされてたんだよ。 


わけがわからないよ。」


お前はどこぞの契約を迫る白いケモノか、と突っ込みつつ ぬいぐるみを

ティーアに渡す。

こんなぬいぐるみじゃ、倒すも何もないだろうに。馬鹿だなぁ。



「ひとつだけ、聞いて良い?ティーア。…女神様はこっちに来て、今現在は何を

してるの?」


「ちょ、梨月ちゃん!?」


不穏な空気を感じたのか、彼は上擦った声を上げる。

私はその抗議の声を聞こえないフリをして、ティーアの黒い瞳を見つめる。


ティーアは、ただ悲しげに微笑んで、私へ言った。



「今は あなたの体を使って、世界にもう一度 呪詛をかけようとしているわ。

このままでは、300年前の悪夢が再び起きる事になる。」


完結に告げられたその言葉は、私の心を静かにメラリ、と炎上させる。





…本気で、ふざけるなよ。

300年も経った今やるとか、完全に逆恨みじゃないか。呆れて言葉も出ない。

関係のない人を巻き込んで、今も私の顔でヘラヘラ笑ってるのか、ムカツク。




「私、その身勝手なカミサマ殴って来る。…絶対に泣かす。」




 丁度良く、掃除用具入れにあったデッキブラシを掴んで 壁の前に立つ。



「ちょっと待って!

梨月ちゃんの力じゃ絶対に無理だってば!


君の力は、ほとんどがアイツの力で、君には…っ」



言い(よど)む彼の態度に、とても腹が立つ。

力が無い?絶対に敵わない? そんな理由じゃ、私はもう止まれないよ。



「…だからなんだっていうの?


この世界に生きているみんなの命は、みんな悩みや苦悩を抱えながら頑張って

生きているんだよ?

そんなワガママで呪われて殺されるなんて、許されない。


勝手に刈り取られるなんて、あってはならない。

その行動にどんな理由があったって、どんな恨みがあったって、絶対に許され

ちゃいけないことだよ。



…そんなことも分からない、生意気なカミサマとやらに教えてあげるの。」



 私は大きく深呼吸を繰り返しながら、デッキブラシに、


『あなたは、どんな堅固なものも必ず打ち砕く 最高の武器』


と、繰り返し『言葉』で強化し、攻撃力を上げられるだけ上昇させた。



そして。



「『私は、絶対に負けない!』って!!」



振りかぶったデッキブラシは、固そうな壁を 薄焼き煎餅のように破壊する。



「梨月! この子も、連れて行ってやって!」


後ろからかかるティーアの声に振り向くと、イルカのラウちゃんが飛んで来た。

慌てながらも、しっかり両腕でキャッチする。



「………えー。」


心とは裏腹に、不満げな声を出してしまった 私。

…まぁ、まだ怒ってるからね。すごく。

ティーアはそんな私の心理を読んでいるのか、にこにこ微笑んでいる。



「”もう無くしちゃだめよ”って言ったでしょ?いってらっしゃい、ふたりで。」



私は、彼を見つめる。 彼も、たぶん私を見ている。

うーん…。やっぱり この可愛い容姿でも、彼が入っていると思うと腹が立つ。



「ダメって言われたって、付いて行く。

最後の最後で 君に死なれたら、僕は どうしたらいいのか 分からないから。


嘘吐きで、どうしようもない馬鹿だけど、側に居させて…。」



この人も勝手だな…!と、苛々のメーターが先程から ぎゅんぎゅん最高値を

更新していく。


…だけど。

一度 暴れる感情を抑えて、肩の上に彼を乗せ、言ってやった。



「…ラウちゃんは、本当に馬鹿だよ。この大馬鹿者。

なんで最初から私に相談しないかったのかと、小一時間お説教したいくらい

だよ。


一体 何回、私が話されないことに苛立っていたと…っ! …って。

うん、いや。えっとね。

…こんなことになるまで、嫌われたくなくて、思っていることを言わなかった、

私も悪かったと思うんだけどさ…。うん。


もっと、ちゃんと 話し合わなきゃいけなかったんだよ。私たち。

…だから、ね。


一緒に戦ってくれないなら、全力でお断りして1人で行く…けど、どうする?」



答えは、もう聞かなくても分かるけれど。




「…ふふっ、君と一緒なら カミサマにだって、負ける気がしないよ。」




言葉にしなくちゃ、始まらないんだ。

私たちは笑い合って(うなず)く。





行こう、ふたりで!





ーー助走をつけて、私と彼は世界の命運を掛けた戦いへと 飛び込んでいった。







やっと、ここまで来られました…!

ラスボスが、次回ぐらいに出せますように!


修正:2012/10/02

誤字脱字と加筆修正をしました。

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