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※注意※
今回、人によっては気分を悪くする可能性がある表現がございます。
ご注意下さい。
ーーその昔、世界には争いと悲しみに満ちていた。
きっかけは、日照りが続いたことで起こった飢饉であった。
飢えて人が死に始めた時、国同士でも衝突が絶えなくなり さらに民を苦しめた。
民衆は、世界を見守る女神に毎日祈っていた。
「私たちをお助け下さい。」「苦しみを、悲しみを肩替わりして下さい。」
しかし、そんな願いも虚しく争いは長引き、苛烈をきわめていくばかり。
民は生きることに疲れ、絶望していった。
そんな時、突如として世界の現状に異議を唱える者たちが現れた。
彼らは、総じて黒い瞳をしていて、神懸かり的な大きな力を兼ね備えていたと言う。
その集団の中で最も賢く、年長者であった 後に『救世の賢者』と呼ばれる男が
彼らを率いて、戦場となった世界を駆け抜けた。
ある者は、多くの将の首を討ち取り 兵士を戦かせた。
ある者は、多くの民の傷と病を癒し 予防の概念を授けた。
ある者は、多くの国と通じ 数多の秘密や情報を明らかにした。
ある者は、多くの植物の品種改良に挑み 民に農法を教授した。
そして。
ある2人の者たちは国王たちを説き伏せ、停戦協定を各国に調印させた。
「二度と妄りに争いを起こさないこと。」
「全ての民に恥じない、良き統治者であり続けること。」
この取り決めは、現在も各国の王家に受け継がれている。
後の世で『黒き瞳』として、崇められる彼らは、民を長きに渡り苦しめた
戦に終止符を打ち、そのことにより 世界は安寧を手に入れたかに思われた。
…ところが。
停戦の数日後から原因不明の病が世界に蔓延し、次々と奇怪な死に方をする者が
出始めた。
体の末端から、皮膚が炭のように真っ黒くなり 最後には干涸びて死んでしまう。
発症すれば、手の施す術もなく7日間で誰もが、例外無く命を落とした。
人々は、レイヴン達に助けを乞うた。
レイヴン達もそれに応え、原因を突き止めるために奔走し、ついには真実に
辿り着いた。
だが、その原因を 民衆に伝えることなく、
「皆は救われる。3日間待っていてくれ。」
と、言い残して レイヴン達は消息を絶った。
3日後。 謎の奇病は、今までの猛威が嘘か夢だったように消え失せた。
人々は、歓喜に打ち震えてレイヴン達を探したが、見つかったのは無惨に
引き裂かれた死体のみだったと言われている。
「一体、彼らは何と戦っていたのか。」「どうして亡くなったのか。」
皆、悲しみに暮れながらも、彼らの働きに感謝して死体を祀り、祠を建てた。
ーー多くの謎を抱いたまま、彼らは弔われ『伝説』として歴史に名を残した。
・
・
・
「…ここまでが、俺が習った歴史だ。」
『レイヴンと呼ばれた人達』の歴史を、アルヴィ君が話し終えて 一息吐く。
私たちは、現在メルヴィさん家の図書室にいる。
何故かと言うと、私がどうしても 隠されていることを大至急、教えて欲し
かったから。
ラウちゃん、オルヴォ君、ネストリ師匠…。3人は、何か重大なことを隠して
いる。
私に関わる、でも私が知ると問題が生じる何か…。
もうね、ウジウジ悩んでても仕方ないと開き直ることにしたんだ。
思い切って、尋ねてやろうと思うのですよ。
「さぁ 師匠。
本当の、真実の歴史はどうなんですか?」
師匠が、不思議な黒色の目で、私を見つめて来た。
「真実、とは?」
「なんだよ、本当って。これが史実だろ?」
アルヴィ君は意味が分からない、という顔をしている。
まだ12歳だもんね…。
世界のブラックな部分なんて知らない方が良いんだけどね。
少しぼかして、彼に言う。
「アルヴィ君。
歴史というのは、書き手が都合よく足したり引いたり出来るんだよ。
もちろん、ちゃんと書かれた物もあったかもしれない。
でも、時間が経てば経つほど、正確な情報から遠ざかっていく。
伝言ゲームみたいにね。」
彼はまだ首をひねって考えていたが、師匠には意図が伝わったらしい。
伏し目がちに、重い口を開く。
「まずひとつ。私達が停戦まで成し得たのは、事実であり真実だ。
これは、各々の能力を駆使した上、努力と根気強さ、強運があったからのこと。
満足のいく結果であった。
だが…。
奇病についての記述には、いくつかの虚言と語られていない部分がある。」
私は息を飲んで、師匠の言葉の続きの待つ。
が。
…コンコン
「りったーん、いーれーてー。」
「……。」
ドンドン!
「開けてー!このドア開けてよぉー!!」
くっ…飛ばした手紙には、
”メルヴィさんと井戸端会議してます。晩ご飯までには帰ります”
と、書いておいたはず。
腕輪の盗聴機能も、解除済みなのに 何故ここにラウちゃんが!?
「リツキさん、いいの?」
「オ、オルヴォ君?」
本棚の後ろから、ひょっこり現れたオルヴォ君に驚いた。
い、一体いつから…!?
「ずっと、居たよ。 みんなが知らないで、話し始めちゃっただけ。」
図書室の外で、ドタンバタンと物音が響く。
「…とりあえず、師匠の話が最優先事項です。
恐らく、メルヴィさんがラウちゃんを食い止めてくれるはずだから。」
師匠が頷いて、続きを語り始める。
「奇病について、調べ始めた当初は 患者達に関連性がないのように思われた。
ところが、患者の住む場所の付近の神殿や崇拝されているはずの女神像が、
破壊されているのが立て続けに発見された。
患者の家族から 聞き出してみれば、患者達は共通して熱心な女神信者で、
『自分達が困窮していた時に何もしてくれなかった』
と、逆恨みをしていたらしい。」
「まさか、」
私の頭に、嫌な想像が浮かんだ。
「…女神像を砕いたのが、彼らである証拠はなかった。
だが、周囲の人々の証言が正しければ、間違いなくそうだったのだろう。」
複数の人間が 恐ろしい形相でひとつの像を壊す光景を想像して、身震いした。
いくら、精神的に追い詰められていたと言っても、あまりにも惨い。
「もうひとつ、語るべきことがある。
…私達は、自発的に奇病の解決に動いた訳ではない。
ティーア、リツキ…君の祖母に当たる人物を人質に取られて、了承させられた
ことだったのだ。」
突然出たおばあちゃんの名前に、動きが止まる。
「人質…?」
「このパールナ村があった場所には、暴君が治める小国があった。
その国王が、女遊びを好む男でな。
ティーアは 奴に無理やり、側室にされそうになったのだ。
丁度、その頃は奇病が流行った為に、王の正室が瀕死の状態だった。
本当は遊ぶだけのつもりだったものを、人質にしようと考えついただろうな。」
「ひどい王様だね。」
「家臣の誰も、王の暴挙を止めなかったんですか?」
オルヴォ君とアルヴィ君から、それぞれ感想があがる。
「民も家臣も、病を治す手段が見つかるならば 身分の低い娘1人くらい、
平気で見殺しに出来る。 …そういう、時代だったのだよ。」
図書室が しん…と、静まり返る。
「… ”原因を知って消息を絶った” と、歴史には残っていますが…一体、何と戦ったんですか?」
アルヴィ君が、この話の核心に迫った。
…私もさっきから、ずっと気になっていたんだ。
歴史に記されていない、当事者だけが知る『本当』を知りたい。
「…君達は、『神』というものが ”どこ” に宿ると思う。」
質問を、質問で返されたのかと焦ったが、師匠の話には続きがあった。
「『神』は、 ”人間の心” に宿る。
怒りと怨みに囚われた女神が、人間の心に巣食って奇病を振り撒いているだ
なんて言ったなら、世界には また混乱に陥る。
ならば、情報は明かさずに少数精鋭で討伐に向かい、被害を最小限にする他ない
だろう。」
「討伐って、神様をですか?」
ーーそんなことが可能なのだろうか?
「向こうは、精神体だ。肉体という名の檻に閉じ込められた状態で、宿主が死亡
すれば神とはいえ無事ではいられない。」
師匠、それって。
「私は…、別に世界なぞ、自分の命など、どうでも良かった。
ただ ティーアが、皆を助けたいと願ったから それを叶えたかった。
まさか、あの死にかけの女神が、最後にティーアだけを異世界へと飛ばし、
私に よりにもよって、こんな呪いを置いていくとは思わなんだが…。」
師匠は、女神を退治する為の生け贄になったんだ。
そして、呪われて霊体だけがこの世に残ってしまった…。
「…それにしても、師匠が 私のおばあちゃんの為に…。
あぁっ! もしかして、好きだったんですか!?」
暗くなった空気をなんとかしようと、茶化してみると 思わぬ回答をされた。
「まぁ、妹だからな。…そういえば、言っていなかったか…?」
一瞬。 ぽかんとして、意味を理解し 声を上げた。
「「 聞いてない!! 」」
おぉ!? 誰だ、私とシンクロったのは!?
「『救世の賢者』…。まさか、梨月ちゃんの伯父さんだったとはっ…。」
ラウちゃん、ドアからの侵入は諦めて窓に切り換えたのか。
窓枠から入って来ると、私を捕まえ、師匠から距離をとった。 な、何?
「伯父さんだからって、気安く近づかないでよねっ!」
えぇー…。なんじゃそりゃ。
…ほら。
アルヴィ君は呆れちゃってるし、オルヴォ君は珍しく笑っちゃってるじゃないか。
あぁ、そういえば。
ラウちゃんが師匠にギャンギャン噛み付いている間に、こっそり尋ねてみた。
「オルヴォ君は、まだ教えてくれるは気ないの?」
「まだ、ダメ。
でも、すぐに分かるよ。……ねぇ、本当に 気をつけてね。」
オルヴォ君が、あまりにも不安そうな顔をしているので、ワシャワシャと
撫でてあげた。
すると、年相応の笑顔に 少しだけ戻ってくれた。
うん。そっちの方がカワイイよ。
ーーさて、じゃあ一番やっかいな人に質問してみようかな。
先程から、私を腕の中に閉じ込めている 空色頭の愛しい彼を、私は見つめた。
かなり間が開いて、すいません。
皆様の応援があったおかげで、なんとか20話目まで来ることが出来ました!
そろそろゴールが見えるように、頑張って書いて来ます!
修正:2012/10/02
誤字脱字を直しました。




