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 さざ波と海鳥の声が絶え間なく響いている。

海に来るのなんて、一体何年ぶりだろうか。…俺はただ無言で、立ち尽くす。


「マティアスさん、これって食べられますか?」


幼い顔立ちの少女が、植物で出来たザルの中身を俺に見せる。

その辺に落ちていたらしい海藻がどっさり乗っている。


「お嬢。何でも食べられるか、食べられないかで聞くんじゃねぇよ。」


 そう言いながら、俺はきっと笑っていたのだろう。目を細め、口が弧を描く。

少女、リツキも楽しそうにニコニコと笑った。



*****



「マティアスー。ものすごーく不本意だけど、明日 梨月ちゃんたちの

護衛を頼みたいんだけど。」


 定時報告の後に言われたこの言葉に、俺は首をひねった。


「護衛?お前、幼馴染ちゃんは俺に会わせねぇって言ってなかったか?

しかも明日って随分急じゃねぇか。王族絡みか?」


「…うーん、まぁね〜。

いくら魔術師に身分による格差が無いとはいえ、相手は王族だからね。

向こうの予定に合わせなくちゃならないんだよねぇ。あぁ、面倒くさい…。」


なるほど、幼馴染ちゃんについての話が(こじ)れてる訳か。

ならば仕方ない。


「わかった。

午後からは俺も用事があるから、午前中で帰らすってことでいいか?」






 そして、俺は奴の幼馴染ちゃんとアレクシスのとこの子ども等とその友達で

海に来た訳だ。

エルメル、ヤンネ、オルヴォは波打ち際で遊んでいて、俺たちはその近くの

木陰にいる。



「マティウスさん、この前のパールナ村での騒動の時にあの2人を迎えに来てた

って聞きましたけど…。」


「あぁ。うちの部下が迷惑かけたみたいで、申し訳ねぇな。」


 お嬢(名前で呼ぶと、後々ラウリの奴がうるさそうだから、こう呼ばせてもらうことにした。)は、『いいえ』と困ったような顔をして笑う。


「…エリーサさんは、どうしてますか。」


「あいつか? あれからも元気に仕事してるぞ。

お嬢が気に病むこと無いと思うがなぁ。

勝手にケンカ売りに行ったのはあいつだろ?」


エリーサはたんこぶが1つ出来たくらいで軽傷だった。

精神的なショックはともかく、表面上は普通に仕事をこなしている。

まぁ。リクハルドの方は全身打撲とラウリに氷漬けにされた霜焼けで未だに

自宅療養中だが、余計なことは言わないでいいだろう。


「うーん、確かにそうなんですが…。

エリーサさんの気持ちも、分かるんですよ。


彼にずっと告白出来なかったのは、私も同じですから。

やりすぎたよなぁ、と反省してまして…。


……痛っ!」


ぺちっ、と小気味いい音がした。

俺はお嬢のデコっぱちを軽く指で弾いて、オジサンらしくお説教などしてみる。


「お嬢。落ち込むのは勝手だが、やることがあって来たんだろ?

時間は限られてるんだ、さっさとやんねぇと日が暮れちまうぞ。

あと堅苦しいから、敬語じゃなくていい。」


 お嬢はデコを押さえてハッして、(かたわ)らに置いていた大きな布製の(かばん)を探る。

何の為に海まで来たのかを忘れたらダメだぜ、お嬢…。




※※※※※




「私、今日は色々と実験しに来たんで……だった!

…まずはこれね。」


 私の手にあるのは、小さな白い紙きれだ。

マティウスさんは『意図が掴めない』と言いたげな顔を見て、私は悪戯を

考えている小さい子どもみたいな気持ちになる。

思わずぷぷっと笑ってしまった。


 その拍子に、一昨日荷物の中から発見して無くさないようにネックレス

にした、おばあちゃんの形見の半透明の宝石の()まった指輪が揺れた。



私は『見ててね』と言って紙を両手で包み込んで、


「『飛べ』」


と、いつもより慎重に『言葉』を発する。


途端に紙は、まるで命が宿ったみたいに羽ばたいて、空中をふわふわと

舞うように旋回を始めた。

波打ち際で遊んでいた3人組も、こちらの様子に気付いたらしく走り寄って

来る。


「姉ちゃん!なにそれ!? スゲー…!」


大はしゃぎのヤンネ君が最初に尋ねて来たけれど、後ろのエルメル君と

オルヴォ君も興味津々のキラキラした目でこっちを見てる!?

ま、眩しい!


「これは”式神”といってね。

私の居た国に昔あったっていう、陰陽師の術のひとつなんだよ。

”蝶”っていう虫の形を真似て飛ばしてるの。」


実物を見れて、私が一番感動してるよ!

ドラマや物語とかでは知ってたけど、やっぱりすごいなぁ陰陽師。


「…生きてるの?」


オルヴォ君の問いに、私は首を横に振る。


「この術は、伝言とかを届けたい相手まで飛ばしたりするだけだから、

命令を達成するとただの紙に戻るよ。」


「面白い術ですね。それに可愛いです…良いなぁ。」


エルメル君はこういうのが好きだったらしく、うっとりと白い紙で出来た

”式紙”を指に止まらせている。

喜んでもらえて、お姉さんは嬉しいです!


もっと頑張っちゃうよ!


 調子に乗って、私は次の試したかった物の製作にかかる。


「次はねー。」


紙をチョキン チョキン…と切り抜いていく。

私の手に全員の視線が集まる。

恥ずかしいから凝視しないで欲しいんだが!


「そりゃ、お嬢の国の道具かい?」


あぁ、見慣れない道具なのか。これ。

よしっ説明しょう!


「そうだよー。

(はさみ)”って言ってね、子どもでも安全に扱える刃物なの。

ほら、先端が丸いから危なくない!……よーしっ、完成!」


出来上がった人の形の紙を、この場の全員に見せる。


「これも動くのか!?」


ヤンネ君が、期待でキラキラした目をする。


「あはは。これは動かないよ。

でも、役に立つ物だと思う。成功してると良いんだけど。」


少しガッカリした顔をするヤンネ君。


うぅ、期待に添えなくてごめんね!

今度ゴーレムにもチャレンジしてみるからっ!




※※※※※




 お嬢は羽根ペンを取り出して、見たことが無い字を人型の紙にサラサラと

書き始める。


俺が無学な訳じゃないと信じたい。

元傭兵だったから、この世界の文字はだいたい分かるつもりだ。

きっと彼女の世界の字なのだろう。


「……書けた! マテイウスさん、さっきのデコピンもう一度やってみて!」


「おいおい、良いのか?結構痛がってただろ?」


戸惑う俺を尻目に、お嬢はニコッと笑った後、


「今度は、多分痛くないから平気!強くやっても良いよ!」


と言った。


 俺は怪しみつつも、子ども等が見守る中さっきと同じくらいの力でデコを

弾こうとした。


すると。

お嬢に指が当たる直前、固い何かに(はば)まれる。


間髪入れずにパキン!と素焼きの器が割れるような音が響いて、

お嬢が手に持っていた人型の紙が燃えて灰になった。



「やったぁ痛くない!もうちょっと調整が必要だけど、大成功だよ!」


「…みがわり?」


オルヴォが呟いた言葉に、お嬢は大きく頷いた。


「そう! ”形代(かたしろ)”だよ。

本来の用途は、呪いや汚れを肩替わりしてもらう物だけどダメージに対して

発動するようにしてみたの。

陰陽師の術はイメージがしやすいからか、改造しても成功率が高い気がする!


それに比べて、こっちの魔術とは何故か相性が悪いんだよね…!

発動しなかったり暴発したりするの!


…魔術に詳しい人に相談したいなぁ。」


「ラウリさんは専門家なのでは?」


エルメルの疑問に『うーん』と、お嬢は歯切れの悪い返事をする。


「ラウちゃんはね…。

天才肌だからなのか感覚的っていうか…分析は苦手みたいで。

そりゃあ、ちゃんと学んでない私よりは知識があるんだけど…説明が擬音だらけで分かりづらいんだよ…!


はー…自分で研究するしかないかなぁ。」


ラウリ本人に言ったら、泣きながら暴れそうなので黙っておこう…。


「リツキさん、この文字がたくさん書いてある紙 何?」


 お嬢はオルヴォがそう聞くと、とてもワクワクした様子で折り畳まれた

大きな紙を広げて見せた。



「姉ちゃん…なにこれ?」


「”はい”と”いいえ”の単語と0〜9までの数字が書いてるね。なんだろう?」


「これ、銅貨ですか?見たこと無い銅貨ですね。」



子ども等が各々の感想を口にする中、お嬢がゆっくり説明する。


「これはね、”コックリさん”という降霊術の一種。


呼び出した霊が、この紙を使って質問に答えてくれるんだよ。

ちなみにこの銅貨は私の国のお金ね。


…あ!せっかくだから、実際にやってみようか。

ここの宗教では土葬が主みたいだから、幽霊は出ないかもしれないけど。」


「ゆゆゆゆ、ゆうれい!?ってオバケか!?」


ヤンネが面白いくらい震え出した。…オバケは苦手か。


 降霊術。

そう聞いて俺の脳裏に、内戦で死んだカミさんと生まれて間もなかった娘の

姿がボンヤリ浮かぶ。


…そういえば、最近忙しくて墓参りに行ってないな…。

怒られそうだから、休みに行くとしよう。



「本当は4人でやるんだけど、今日は私だけでやろうかなぁ…。

こっちではどんな風になるか、予測不能だし。


あと一応、用心して全員の形代を作ろう。

とばっちりが無いとは言えないし。攻撃に対しても1回までなら効果ある

はずだから、お守りだと思ってもらっていって。」



ーそして、準備を終えたお嬢が”儀式”を始める。




※※※※※




「『幽霊さん、幽霊さん。いらっしゃいましたら、お答え下さい。』」


 私は、この世界用にアレンジした”コックリさん用の紙”に十円玉に指を

乗せて、反応が来るのをジッと待つ。


元々の”コックリさん”は漢字で見て分かるように、”(キツネ)(イヌ)(タヌキ)”などの低級霊を集めるものだ。

こっち世界に そういう霊が居るかどうか不明なので、敢えて”幽霊さん”と変えてみたんだけど…。


…どうかなぁ?



 辺りはシーンと静まり返っている。


「(やっぱり、ダメか。霊感無いもんね、私。 ……あれ?)」



 おかしい。ここは海だ。

さっきまで、うるさいほど聞こえていた潮騒の音は…!?


景色はそのままで、周りに皆も側に居る。でも、何かが変だ。

時間は経過しているのに、全てが止まっている。なんだコレ!?


 私はその場で、目だけを動かして異変の原因を探す。

この場で正常に動いているのは私だけみたい。

鼓動だけがドクドクと音を刻む。



『むすめ、わたし、をよぶのは、おまえ、か?』


 突然、目の前に人間サイズの真っ黒い影みたいなものが現れた。

声、というより頭に直接語りかけられている感じだ。


驚き過ぎて息が止まりそうになった。


『…むすめ、それ、は…おまえ、のか?』


 黒い影だったものが、徐々に薄くなって人間の姿が見え始める。

恐怖と驚きで、なかなか声が出なかったけど、やっとの思いで言葉を

口にする。


「…それって何ですか?」


『ゆびわ、だ』


自由な方の右手で、首元にかかっている指輪を手繰り寄せる。


「これは、おばあちゃんの形見です。」


そう答えると、すっかり影が消えて人間の姿になった男性が震える声で言う。




『…そう、か。ティーアは、死んだのだな。』




私は目を見開いた。

何故、この人はおばあちゃんの本当の名前を知っているの。




視点切り替えを試したら、大失敗です。

ナンテッコッタイ\(^o^)/


次回からは戻します!

謎の幽霊の正体は、次回明らかにします。

やっと重要な人物が登場させられました…!


なかなか筆が進まないですが、続きを待って下さっている

かもしれない方のため、頑張ってきます!

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