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誠に有り難うごさいます!!
いつも、お礼を言いそびれていたので、この場を
借りて御礼申し上げます。これからも頑張りますね!
さて、今回はラウリ視点です。
今までの謎が少し解けるかもしれません。
「報告を聞こう。まずはマティアスからだよー。」
梨月ちゃんと別れて、”賢者の杖”の会議室の椅子に座ってメンバーからの
報告を聞く。
”賢者の杖”は僕が結成した組織で、自主的に魔術師が魔術師を取り締まる
ものだ。
自警団程度の気持ちで、数人で始めたことが今では大陸の中の魔術師たちの
3分の1の300人前後が加入している。人生、何が起こるか分からない
よね。
「まず、あの誘拐事件の実行犯たちについて。
先日話したように、奴らは金で雇われた傭兵くずれ共で有力な情報は
ひとつも持っちゃいなかったので、各々の所属の国へ強制送還しておいた。
奴らに指示を出していた三流魔術師は、現在尋問中だが…。
まぁ、情報は出て来ねぇだろうな。」
その言いように、僕は少し突っかかってみる。
「ふぅん。もうちょっと怖がらせたら吐くんじゃない?
僕がやってもいーよ?」
場が一気に騒然となる。ここまで来ると滑稽だな。
だけど、マティアスは動じずに言い返して来た。
「ばーか。あの男は下っ端だ。知らないもんは吐けねぇよ。
だいたい、知ってたとしてもお前が拷問かけた後じゃあ、口も聞けなく
なってるだろ。」
僕が期待した通りの反応で、思わず笑みが零れてしまう。
マティアス・オッリ
40代後半にもなるのに、若々しくハツラツとした雰囲気の元傭兵の男。
筋肉質でガタイがいい。口は多少悪いが、色気のある声と面倒見の良い、
僕がこの組織で一番信頼している人だ。
チャームポイントはヒゲって誰かが言ってたな。誰だったかな?
「そう。ありがとう、マティアス。
引き続き、監視の続行と調査をヨロシクねぇ。」
マティアスは、片手を挙げて『了解』と合図する。
「じゃあ次、アレクシス。…さっきの、どう思う?」
僕は、長机の向かいに座っているアレクシスに意見を求めてみた。
何をって?梨月ちゃんが囲まれて襲撃された腹立たしい件についてさ。
目を閉じて 静かに沈黙していた彼が、口を開く。
「いくら、彼女の能力を危惧していたとはいえ、あの行動は性急過ぎる。
…何か、裏がありそうだ。調べさせよう。」
まぁまぁの答えかなぁ。僕は『うちの(じゃないけど)リツキに手を出す
不届き者はシメる』くらい言うのを期待してたんだけどな。
まぁ、公共の場だからそんなこと言わないか。
アレクシス・ハーヴィスト
僕の従姉妹のメルヴィの夫。今は雑貨屋を営んでいるけど、
前々職はなんと!王国の魔法騎士隊長!
かなり強かったらしくて、『黒騎士』なんて通り名があって今でも生きる
伝説なんだって。
何かの理由で、騎士を辞めて魔術教育の機関に転職。その後、僕を通じて
メルヴィに出会った。
話に聞いたところによると、”古の求婚の礼儀”に則って本気で戦って
負けた方が勝った方に嫁いだらしい。
結果は、メルヴィの勝利。だから、今は雑貨屋という訳。
「アレクシスの人脈の広さと情報の信頼度は、周知の事実だからね。
次までに資料、頼むね?」
彼がうなずくのを確認して、にっこり笑う。
さぁ!どんどんこなして、さっさと帰ろーっと。
梨月ちゃんが美味しいご飯作って待ってるぞ!今日は、おかず何かなぁ?
…あ!トリの唐揚げが良いなぁ!あれ、僕大好きなんだぁ。
今日の晩ご飯のことを考えつつも、順調に報告を聞き、意見を述べ、
書類を片付けていく。
…そして、本日最後の報告となった。やったー、帰れるぞー☆
ん?あぁ、アレの報告か。これは。
「エリーサ、リクハルド。報告書はもう出来てるよね?
目を通しておくから、置いていって。…他に、緊急の報告とかあるかな?」
僕は会議を閉じるべく、最後に何か無いかみんなに問い掛ける。
「待って下さい!何故、報告を聞いて頂けませんの!?」
「我輩も同意見ですっ。納得出来る説明をお願いしまぁす!」
ヒステリックに叫んで立ち上がった女性が、エリーサ・プリンシラ。
僕とおなじ18歳で、貴族の出の魔術師。
薄い黄色の髪に、釣り上がった銀の瞳が特徴だ。…正直、苦手なタイプ。
妙な口調(まぁ、僕もだけどさぁ)の男は、リクハルド・ラシムス。
いつも白衣を羽織っていて、常時ニコニコ笑い顔の奇人。
濃いオレンジの髪、分厚いレンズの眼鏡、長身なのに猫背。
歳は、20代前半だったと思う。
見れば見るほど、関わりたくなくなる感じ…。
はーあ、面倒くさいなぁ。
「理由はね、優先順位が低いから。
もしも、お願いしていた人物が発見されたと言うなら報告を聞こう。
…でも、まだ見つかっていないんでしょう?」
「ですが…!」
しつこい。僕は、しつこいの嫌いだよ。
「今日は、お疲れさまぁ。みんな、次回もヨロシクねー。」
僕の号令で、皆がザワザワと帰り始める。
あぁ、早く梨月ちゃんに会いたいなぁ。
帰ったら最初にギュってしよう。えへへ!
廊下へと続く、両開きのドアへと 急いで歩き出そうとしていたから、僕は
エリーサが唇を噛み締めて、俯いているのに気付かなかった。
*****
「ねぇ、マティアス。僕にケンカ売ってるのかな。」
人差し指で、机をトントン叩きながら僕は彼に問う。
表情は笑顔だっけど、多分 目は笑ってないと思う。今。
僕は現在、何故か マティアスに拉致されて酒場に居る。
「売ってねぇよ。
いいじゃねぇか、少しくらい付き合ってくれたってよ。
独りで酒飲んだって、つまんねぇんだ。」
「勝手に独りで晩酌してなよ。
僕は、早くりったんと晩ご飯食べたいのにぃ…。」
目の前に注がれている、水を飲み干す。
「お前の愛しの幼馴染ちゃんか。
どんな子か、まだ会わせてもらってねぇな、そういえば。」
大きな杯を傾けて、金色の酒をグビグビ呑みながら彼は言う。
「マティアスに会わせてあげる気はないよー。残念でしたぁ★」
「はー、独占欲強いしなぁ…お前。オジサンは幼馴染ちゃんが心配だよ。」
そう。僕は独占欲が強い。それはちゃーんと、自覚してるよ。
…だって、梨月ちゃんが来てすぐの時は、冗談でなく本当に僕の家から
一生出さない気でいたくらいだしね?
でも、それはダメなんだって梨月ちゃんが教えてくれたんだ。
閉じた世界じゃ、何も生まれないって。
彼女は、それを言葉にはしなかったけど、なんとなく分かった。
一緒に出掛けると彼女が喜ぶから、毎日村へ買い出しに行った。
すると、最初は僕を怯えて遠巻きにしていた人々が、徐々に、
「いらっしゃい。初々しくて羨ましいわぁ。」
「2人とも、毎日仲良いわねぇ〜」
「お!2人で買い物か、オッチャンの店にも今度寄ってくれよ!」
なんて。声がかけるて来るようになった。
それに向かって、梨月ちゃんがとても嬉しそうに笑って返事しているから、
僕もなんだか嬉しくなった。
胸がぼんやりと温かくて、とても幸福で。時々、無性に不安になる。
彼女を絶対に、失いたくない……。
だから僕は、その為ならなんだってするんだ。
「…なぁ、ずっと聞きたかったんだが、お前って幼馴染ちゃんに
いつ惚れたんだ?
最近、お前が変わったってぇのはよく聞くけどよぉ 1ヶ月前まで、
そんな予兆もなかっただろ。」
「あぁ、そんなこと。
彼女をこっちに召喚して、初めて実体のある彼女を見た時だよ。」
マティウスがポカーンと口を開いて、驚いている。あはは、アホみたい。
「おい、お前ら10年来の幼馴染だったんじゃないのか?」
「うん。幼馴染だよ。
だけど、以前の僕は 彼女の事を面白い友人であり、泣き虫の妹くらいにしか
思ってなかったんだ。
でも、あの時…僕は、彼女しか見えなくなったんだ。
あんな事にならなきゃ、気付かないかったのが 今でも悔しくてたまらない
けどねぇ。 …まぁ、気付いちゃったらする事はひとつでしょ?
抱きしめて、キスしてプロポーズしてねぇ。
サクッと婚約してもらっちゃったんだー♡」
「しちゃったってなぁ…。
普通は、”そんな急に言われても”ってなるだろうに…。
その子も、ずいぶん変わった子だな。
益々その幼馴染ちゃんに興味が出て会ってみたくなるじゃねぇか。」
「絶対に会わせてやんない★」
マティアスは3杯目の酒を飲み干して、急に真剣な顔になる。
「なぁ、お前幼馴染ちゃんに言ったのか?」
言う?…うーん、一体どれのことかなぁ?
こっちに来てすぐ、『言語の自動翻訳の魔術』をかけたよっていうのは
ちゃんと言ったし、彼女にも『ありがとう!』って言われた。
あ、内緒でこっちの味覚に合うようになる薬を、お茶に混ぜてたのは…
…言ってない…。
言ったら怒られるかなぁ…?
はっ!それとも、たまに梨月ちゃんが、夜寝てる時や
昼寝してる時に添い寝してることがバレた?
いや、それよりアレやアレのことかなぁ…うん、一番ありそう。
いずれ言わないと…。
「…おい。今、漏れ聞こえたのは聞かなかったことにしとくが、何個か
犯罪だぞ…。
ゴホンッ!
俺が言ってるのは、しばらくは外出の時は気をつけろって伝言だ。
…証言によれば、事件の犯人たちはランダムに転送陣作ってる
みてぇだし、一度助かったとはいえ次も上手くいくとは限らねぇ。
むしろ、危険だ。黒幕に目を付けられてるかもな。」
僕は、その言葉に苦々しく思いつつ、頷く。
「あぁ。彼女は今かなり危ういところにいる。
さっさと不安の種は潰さなくちゃねー♪
僕と彼女の幸せのために、ね。
まぁ、僕は自分と彼女が幸福なら、他はどうなったって良いんだけどさー。
…彼女は、周りの人も幸せじゃないと幸せじゃなさそうなんだもん…。
彼女のおまけで、助けてあげよっかなーって。」
マティウスは、興味深そうに僕を見ている。何さ。
「やっぱり、お前変わったよ。人間らしくなった。
幼馴染ちゃんがこっちに来てくれたことに、感謝しねぇとな。」
彼女が褒められて嬉しいような、嫉妬で腹立たしいような。
(グルルルー、と腹の虫が鳴く。)
あーもう、限界だ。お腹がペコペコだよ。
「…帰ろっと。あぁ、でも最後に1個だけ聞いても良い?」
5杯目を飲むのを途中で止めて、不思議そうにマティアスが笑う。
「おぉ?珍しいな、お前が俺に個人的に何か聞くなんて。何だよ?」
「……僕って、汚かったり悪いことを割といっぱいやってきたでしょ?
最近、すごく不安になるんだ。昔のことを、彼女に知られたらどうしよう、
嫌われたら、どうしょうって。
らしくないけど、本当に彼女の隣に僕が居ても良いのかなって。
…どう思う?」
マティアスは、ククッと愉快そうにまた笑う。
「本当にお前らしくねぇな。
…それだけ、本気ってことか。好きか?幼馴染ちゃんのこと。」
その問いに、僕は素直に胸の内を言葉にする。
「好きだよ。でもこんなの初めてかも。
胸がチクチクするのに、すごく温かくて。離れたくなくなる。
時々ムラッとなってもさ、彼女が笑ってると、ほっこりして忘れちゃう。」
こんな、穏やかな気持ちを 僕は知らない。
「ククク…ッ、こりゃあ重症だな。
まっ!お前は、『だから何?それも含めて好きって言いなよ』くらいに
ふんぞり返っておきゃ良いんだよ。んな、女々しいこたぁ考えんでヨシ!」
…何それ。僕は頬杖をつきながら、眉をひそめる。
「そんな厚顔無恥で不遜に見えてるの?僕って。心外だなぁ。」
ワッハッハッと、マティアスは豪快に笑う。
ついに6杯目の酒。
…飲み過ぎだよ。ゴクゴクという音とともに、喉仏が上下する。
「はぁ。相談した僕がバカだった。
じゃあ、またねー。程々にして帰りなよー?」
僕は席を立って、帰路へ着く。
少しだけ、心が楽になった。
…そのうち彼女にマティウスを紹介してあげよう。
その日の晩ご飯は、僕の希望通りの トリの唐揚げだった。
ラウリ側から書くと、なんだか手品のタネ明かしを
しているような気分になりますw
さて、新キャラがやっと出せました。
あと1人重要人物が出れば、役者が揃います!
次回も楽しんでもらえるよう、頑張ります!!
修正:2012/10/02
誤字脱字を直しました。