14
…小さい頃から、私の悪い予感ってよく当たるんだ。
現在、私は魔術師のみなさんに囲まれてボコられそうになっています。
理由は何かって?
誘拐事件の事情聴取が無事終わって、まぁ偉いおじ樣方の前でお話しろと
言われまして。私1人でね。
付いて来てくれた、ラウちゃんと雑貨屋のご主人のアレクシスさんは
別室で待機させられちゃった。この時点で嫌〜な感じがしてた。
部屋に入ったら、なんかいきなり『いくら欲しいんだ』的なことを、
オブラートに包んで、さらに生八つ橋で包んだような遠回りした言い方で、
聞かれたんだよ。
だからね。
「お金も何もいりません。私はどこにも所属しないつもりです。」
私は、素直にそうお答えした。
そうしたら。お偉方が突然、烈火の如くお怒りになった。
『力があるなら持つ者の義務を果たせ。』
『いくらなんでも、無責任じゃないのか。』
『異世界人だかなんだか知らんが、言うことを聞け。』
『これだから女は!』
オイ。一番下はただの男女差別だろう。
しかし、こういう反発が出るのは想定の範囲内だった。
「…私の力が及ぼす影響は、きっと大きいでしょう。
だから、敢えてどこにも所属しない、と言っているのです。
私は、ただ平穏に 愛する人と、それに連なる人々と一緒に暮らしたい、
だけなんです。
それ以上は何も望みません。
貴方たちが、『私の力を求めない』と約束して下さるなら、
私は一生 静かにしています。」
私はそう言ったんだよ。
誠心誠意、心を込めてね。
なのに。
どうして、『協力する気がないなら、倒す!』みたいな話になるの!?
まぁ、こんな規格外の力、放っておいて悪用されたら困ると思ったのかも
しれないけどさぁ……。
さっきまで話していた、会議室から出てすぐの広めの庭園で30人前後の
魔術師のみなさんが私を囲んで、すぐにでも詠唱を始めそうです。
どこに隠してたの、こんなにいっぱい…。
私は、正装と言われたので高校の紺色の三角スカーフの付いたセーラー服に、
空色のカーディガン羽織っている。
ひざより少し上に丈を調節して、薄手のサイハイソックスを穿いてね。
風にフワリと、プリーツスカートが揺れる。
相手は『黒』とはいえ、女1人なのにねー。
…負ける気はないけど。
「本当に、どこにも所属しないというのかね。考え直すなら、今だぞ。」
偉そうな司教のような服装のおじさんが、私に声をかけてきた。
「(そっくりそのまま、同じことを貴方たちに言いたいよ。)」
私は出来るだけ加減が出来るように、魔力を練り始める。
「私は、考えを改める気はありません。」
私の答えに、司教風のおじさんは青筋をピクピクさせて指示を飛ばす。
魔術師たちは詠唱を始め、前列に居た人たちは私に物理攻撃をしようと
殺到する。
基本、魔術師は物理攻撃に弱いものだ。長い詠唱が完了しなければ、
技は発動しない。
けれど、私は少し特殊だ。
「『落とし穴に注意。』」
冷静にイメージを練り上げて、それが現実になるように『言葉』に魔力を
込めて、短く言葉を発する。
すると。
ボコボコボコボコッ!!
地面には私を中心に、大きくて深い落とし穴が発生する。
距離を詰めていた人たちは、野太い悲鳴とともに一気に地上から消えた。
わずかに、詠唱している魔術師たちが動揺して怯えているのが分かった。
『怯えて逃げ出さないかな』と期待したけれど、司祭風のおじさんの命令が
優先されたらしい。
次々と詠唱が完了した技が、私に向かって来る。
電撃、炎、尖った氷柱。かなり容赦ない攻撃だ。
「(当たったら痛そうだなぁ…。)」
技が当たるギリギリまで待って、私は言う。
「『巻き戻し。』」
私に向かって放たれた技は、直前まで辿った軌道を逆回しに進んで全てが
術者に跳ね返される。
魔術師たちは戦いて散り散りに逃げたり、防御結界を張っている。
「まだやりますか?
なんか雨が降りそうだし、洗濯物が心配なので帰りたいのですが。」
私は何気なく、ただ洗濯物の心配をしただけだったんだけど、
司祭風のおじさんとお偉方は、それが挑発に聞こえたらしいね……。
騎士やら兵士たちが50人近く呼ばれて出て来ちゃいましたよ。
だからさ、一体どこにそんな大勢、隠れてたの…?
多分、表情には出ていないと思うけど内心ガクブルだよ!!
実はさっきのが、私に出来る技の全部なんだ…。
レパートリー全然無いんだよぉ!
ここ1週間。
ラウちゃんに練習を手伝ってもらって、ここまで出来るようになったし、
上出来だと思ってたんだけどなぁ…。
私の使っているコレは、この世界の魔術とはタイプが違うみたいだから
探り探り、コントロールを覚えたんだからね!
コレは言葉に魔力を込めて、口にすることによって物理法則すらも、
ねじ曲げることが出来る。
…出来るんだけど、燃費がとっても悪い。すごく疲れるんだ…。
さらに言うとね。
私の瞳は術の発動時『黒』っぽくなるけど、不完全なんだって。
『魔力の上限は『銀』より少し上『金』より少し下くらいじゃないかなー?』
と、ラウちゃんが言ってたんだよね。
なんてさ。
…こうやって、頭の中で現実逃避しつつも、せっせと”落とし穴”攻撃して
いるけど、もう そろそろ限界だよ!! 無理!もう無理!
実戦経験の無い私に、一体どうやって訓練バッチリの筋肉ムキムキ軍団と
戦えっていうの!…あぁ。正直、泣きそう…。泣いて良いかな。
グッ、と涙をこらえて空を見上げると、空から白いものが降って来る。
「え、雪…?」
そんなはずは無い。
確か、こっちの世界も今は春のはずだ。いくらなんでも、こんな時期に
雪なんて…。
「りったーん☆」
声が聞こえた方を急いで向く。
会議室のあった建物の屋上から、見慣れた人影がふたつ降りて来るのが見えた。
「ラ、ラウちゃあぁん!アレクシスさんも…!」
2人は重力を感じさせない動きでフワッと着地して、私の側まで来てくれた。
感動のあまり、ラウちゃんに思いっきりタックルしてしまった。
彼はそれを怒りもせず、抱きしめてくれる。うぅ、そんなあなたが大好き!
「遅くなってごめんね、りったん。もう大丈夫だよー☆」
2人の姿を見て、場に居た人々は騒然となった。
そして、司祭のおじさんが、怒鳴るように叫んだ。
「な、”氷刃の魔術師” に ”黒騎士”…!?
バカなッ!あの厳重な監視を突破したというのか…!!」
通り名(?)を聞いた、騎士や兵士たちが震え上がるのが見えた。
「バカはそっちでしょー?
あれくらいの包囲網や罠じゃ、僕らには通用しないよ♪
…”賢者の杖”を侮ってもらっちゃあ、困るなぁ★」
知らない単語がいっぱいだな…。何のこっちゃ。
私が混乱している隙に、私たちが立っている場所だけが晴れて庭園内は
猛吹雪に見舞われる。
「…これ、もしかして…。」
「ムカついたので、局地的に吹雪にしてみました★」
そんな良い笑顔で言っちゃダメだよ、それは!
…練習に付き合ってもらってる時も思ったけど、この人は加減を知らない
のか…。
危うく、練習で雪に埋まって凍えかけたしなぁ。
天才は教えるのは上手じゃないって、本当なんだね。
*****
吹雪が収まって来ると、全員倒れてたけど息はあるようだ。
あぁ、良かった…人殺しにならなくて。
お偉方はお付きの人に介抱されてどこかへ行ってしまったので、帰ろうかと
思ったんだけど、司祭のおじさんに呼び止められた。
「待て!その娘は国籍も無いのだぞ、我々”聖堂会”を敵に回したら、
どうなるか…!」
ラウちゃんが、ニンマリと悪い顔で笑う。
…そんな顔も出来るのか、ラウちゃん。
「残念だったねぇ。彼女はすでに、パールナ村への立ち入り許可も領主から
もらってるんだよー☆
…貴方たちの保護は必要としないよ。」
「なん、だと!? あの、魔術師しか住んでいないという隠れ里か…!?
場所を知っていても、辿り着けるか分からないと噂の…。
…グッ、あの場所はどこの国にも所属しない、中立地域ではないか…!
どこにそんなツテが…。」
「日頃の行いが良いからかもね★」
えぇ!? そうだったんだ…。
私よく、あの村を発見出来たなぁ。ラッキーだったのかな?
ぐぬぬ、と考えていたらアレクシスさんが、頭を撫でてくれた。
…ぅう!やめて、照れるから!子ども扱いやめて!
「それに、彼女は僕の”未来のお嫁さん”、つまり婚約者なんだ♪
利用しようとするなら、逆にそれを利用して えげつなーい方法でやり返すし、
害を及ぼそうとするなら……僕が、真っ正面から全員ぶっ殺すよ★」
尋常じゃない殺気に、司祭のおじさんはガクガク震えている。
うわぁ…なんて黒い笑みなんだ…。本気だよ、この人。
こういう時、どんな顔したらいいのか 分からないよ……。
「笑えばいいと思うよー☆」
「お願いだから、当たり前のように考えてることを読まないでくれない
かな…。」
はぁ。すっごく疲れた…。
…晩ご飯の仕込みが終わったら昼寝しよう。
2人はまだ、やることがあるらしい。
「先に帰ろうか」
私は ルーちゃんを召喚して、2人と別れて家路についた。
大きいルーちゃんの背中に乗ってウトウトしていると、空がとても綺麗な
藍色で、良い風が吹いて来た。とても、気持ちいい。
私たちは、楽しく空中散歩しながら帰宅したのだった。
次回は、ラウリ視点でお送りすると思います。
頑張ります!
修正:2012/10/02
誤字脱字を直しました。




