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困った。本当に困った。
あの事件から、3日が経った。
私は2日目の昼には起きることが出来た。
目が覚めたら、雑貨屋さん一家のお家に居た。
すごく丁寧に治療してもらったみたいで、傷跡がひとつも
残ってなくて、びっくりした。
そして。起きて早々、雑貨屋さんの一家に ぎゅうぎゅうと
抱きしめられて、
『やっと起きた!良かったー!!』
と喜ばれて、思わず 私は大泣きしてしまった。
さらに、アルヴィ君とオルヴォ君の元気な姿を確認出来て、
また泣いた。
元日本人で、平和に慣れていた私には、あの状況はとても
キツかったし、やっぱり無理をしていたんだな、と思い知った。
…それにさ。
気が付いたら魔法が使えるようになったって、どういうことなの!?
ルーちゃんが使い魔?になってるし!
訳が分からないよ!
一気にたくさんのことがあり過ぎて、頭がパンクしそうだよ…。
そして、なにより。今、一番困っているのは……。
「……ん? どうしたのー?」
この人。
ラウちゃんが、私の寝ているベッドから離れてくれません。
いやいや。
どうしたのじゃないよ、ラウちゃん。
君が、『どうしたの』だよ。
いつもの調子で、ワイワイ騒がしければ追い返せるのに…。
静かに黙って、私をジーッと見ているだけなので、どうすることもできない。
「ええと、私、もう大丈夫だよ?
仕事、あるんでしょ? 行かなくていいの!?」
「昨日、全部 終わらせて来た。」
なん、だと…!
「帰って来てすぐ、メルヴィのところに君を預けて、行って来た。」
うひゃぁ…。
メルヴィさんたちには、感謝してもしきれないな…。
…後日、はちみつプリンでも作ってお礼しなくては!!
それにしても。私が寝こけてる間に、ラウちゃんは頑張ってたのか。
なんか、よく見るとクマが出来てる。徹夜したのかなぁ。
「…大丈夫?疲れてるみたいだけど、ちゃんと寝た?」
私が聞くと、優しく微笑んで彼が答える。
「大丈夫。
少しは眠ったし、これくらいどうってことないよー。
連日徹夜で仕事したことも何度かあるからぁ。
心配しないで?
早く、君の顔を見たくて、いつもよりも頑張っちゃっただけだよ。」
「ラウちゃん…。」
感極まって、また泣きそうになった。
「あ。そうだ、これを君に渡そうと思って。はい。」
カシャン。
「す、すいません。これはなんですか…。」
左腕に何か金属っぽい感触が…。
まさか、ついに監禁フラグが立ってしまったんじゃ…!?
彼は、とろけるような笑顔で告げる。
「…婚約腕輪。
こっちでは、指輪じゃなくてブレスレットなんだ。
…本当は、りったんの誕生日に渡すつもりで用意してたんだ。
過ぎちゃったけど、16歳の誕生日 おめでとう。」
えぇぇッ!? う、嬉しい! 疑ってごめんね!!
「わぁ、ありがとう…! すごく嬉しいよ…っ!!」
私がさらわれる直前、用事があるって言ったのは、これを取りに行ってたの
かな?
腕輪は、金と銀が螺旋を描いて絡み合っていて、表面に植物の繊細な模様が
彫られている。とっても綺麗だ。
あれ?これ継ぎ目が無い…さっき、どうやって嵌めたんだろう?
…魔法?
私がソワソワと腕輪を見ていると、本当に嬉しそうに彼が言った。
「喜んでもらえたみたいで、よかったぁ〜…。
特別に、りったんの現在位置が分かる魔術かけんだぁ。
これでもう、どこに居ても大丈夫☆」
おーう?私の感動を返して欲しいんだけど…。
しかし、よく見てみると。
彼の左腕にも、私と同じデザインの腕輪が嵌まっている。
お揃いで、ちょっと嬉しくなる。
なんとなく。もう一度、確かめるように腕輪を指でなぞる。
幸福で、ぽかぽかした気持ちになれて、あの事件以来 初めて笑うことが
出来た。
あの事件のことは、すぐには忘れられないだろう。
でも、こうやって嬉しいことや幸せな気持ちで上書きしていけたらいいな。
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…なぁんて。思って、ほっこりしていたんだけどね…。
1週間後にあの事件と私の力について、事情聴取があるらしい。
ラウちゃんと、雑貨屋のご主人のアレクシスさんが一緒に来てくれるって言ってたけど…。
なんだか、めちゃくちゃ 嫌な予感がするんだよね……。
…まだ、私は平穏に暮らせそうにありません。
腕輪は、同じ世界に居る限りどこにいてもわかってしまう、
チートでストーカーっぽい代物ですw
でも、別にラウリは病んでる訳じゃなくて、普通に心配で
着けて欲しかっただけです!過保護なだけです!w
修正:2012/10/02
誤字脱字を直しました。




