12
※注意※
※暴力表現が多く含まれます。
※シリアスで長いです。
以上を、ご了承の上で閲覧して頂けると嬉しいです。
ーーあぁ、焼けるように体が熱い…。
なのに、末端は凍っているみたいに冷たくなって上手く動かない。
あれから、どれくらいの時間が経ったんだろう?分からない…。
血を流し過ぎたせいかな…頭もクラクラする。
体中、切り傷だらけになってしまった。
あの男。多分、わざと急所を外して攻撃してるな。…悪趣味だなぁ。
2人は、ちゃんと逃げられたかな?
ペロペロ…
「いたた…、ルーちゃん気持ちは嬉しいけど、舐めなくていいよ。
おいしくないよ?」
そう、声を殺して言って、肩に乗ったルーちゃんを撫でる。
その時。
隠れていた茂みが大きく2つに割れて、
「やぁーっと、見つけたぜぇ?ケケケ、追いかけっこは飽きちまったし、
もうオワリにしよーぜぇ?」
……私は、男に髪を掴まれて茂みから引きづり出された。
絶望の中で、『そういえば、明日は私の16歳の誕生日だった』と、人事の
ように思い出していた。
*****
俺たちは、手を繋いで真っ暗な林の中を駆け抜けていた。
もっと、俺に力があったら。
そうしたら、あの人をあの場所に置いて逃げるなんて真似、しなくて良かった。
悔しくて、くやしくて、どうしようもなく、自分に腹が立つ。
「ねぇ、なんか周りがさわがしいよ。追っ手かな…?」
オルヴォに言われて、足を止める。
ザワザワ…ギャー…ッ
確かに、音は遠いが怒号のような声が耳に届いて来る。
背筋に冷たいものが走った。
どうする、このまま進んだら見つかってしまう…!
迷っている間に、前方の獣道から誰かが飛び出して来る。
「あ?…お、お前ら!こんなところに居たのか!お前らのせいで、
タコ殴りにされたんだぞ!!」
あのパンと水を持って来させられていた、仮面の男だ。
松明によって照らされている顔は、本当にゾンビのように傷だらけだ。
「せめて、お前らだけでも捕まえて、許してもらうぜ…!」
もうダメだ。
俺は、オルヴォを後ろにかばって、目をギュッと固く閉じる。
「そぉいう訳にはいかないんだよねー? …よっと!」
「ギャーー!?」
ピシッ!パキパキパキッ
聞き覚えのある声に、ハッとなって目を開く。
…仮面の男は、顔だけ除いて、全身氷漬けになっていた。
「ラウリ、さん?」
「やぁ。アルヴィと悪戯少年。ケガはしてないかな?」
まぎれも無く、自分が憧れているラウリ・トゥフカサーリその人だ。
安心感と歓喜で、涙が零れそうになった。
しかし。泣く前に、重大なことを伝えなければならない!と、必死に
ラウリさんに しがみついて告げる。
「あの人が、リツキさんが!俺たちを逃がすために、囮になって…!
今、魔術師に一方的に攻撃されていますっ!」
ラウリさんは、目を見開いた後、俺たちの来た道をにらんでいる。
そして、オレ達に手を伸ばす。
「(怒られる…!)」
だが。
触れられた手は予想外にも、グシャグシャと髪をかき回して、離れていく。
「ここまで、よく頑張ったね。もう大丈夫、僕たちが全部片付ける。」
今まで見たことの無い、笑顔で。聞いたことも無い、優し声で。
オレは驚いて、目と耳を疑った。
オルヴォも同じみたいで、口が開いたままだ。
「マティアス、こっちは頼んだ。…敵、殲滅してくる。」
目に鋭い殺気を光らせ、オレたちの来た道へ駆け出すラウリさん、
俺はただ、それを呆然と見ていて、
「まったく…ありゃあ、相当キレてんな…。敵さん、死なねえといいが。」
「!?」
いつの間にか、背後に居た髭が似合うおじさんに保護された。
*****
痛い。
苦しい。
放して。
「ど、こ、か、ら、切ろう、かなっ♪クククッ」
うるさい。
やめて。
「反応悪ぃなー? …今から、あの小せぇ方のガキ共を追いかけて、
グチャグチャにぶっ殺してもいいんだぜぇ?」
ギリ、と首が絞まる。
やめて、やめて、やめて…!
「…っ、やめてぇ、」
「そー、そー!最後まで抵抗してくれなきゃ、ツマンナイだろぉ?
オレはぁ、女やガキが怯えて、泣き叫んで、抵抗してるところを、
原型無くなるまで切り刻むのが、だぁああい好きなんだからよぉ!!」
体が、熱い。
まるで沸騰してるみたい。
沸いて、沸いて、沸いて、沸いて。吹きこぼれそう。
この男を、止めル、チカラガ、ホシイ。
「お前を殺ったら、すぐにあのガキ共もぶっ殺して、後を追わせてやんよ!!」
刃渡りの 長い刃物が、私を 貫こうと 迫る。
時間が 引き延ばされた みたいに 永い。
曲がれ。
曲がれ、曲がれ。
曲がれ、曲がれっ、曲がれぇ…!!
「『曲がれぇええええええぇええっ!!!』」
「!?…ギャァァアアッ!!う、腕がぁあ!!!」
ミシ、ミシミシ、バキンッ!!
ナイフを握っていた男の右手は、捻るような形で複雑骨折した。
その場に、ゴゥッ!と、ものすごい熱風が吹き荒れる。
「ひぃ…っ!」
辺りは、火の海。赤い炎が湿原を包む。
赤は、徐々にオレンジへ変わり、青色に近づいていく。
地面から、水分が失われて、ヒビ割れる。
私からも乾いた泥が、パラパラと落ちていく。
熱い。
苦しい。
止めないと。
出来ない。
どうしよう。
大きな力は、私の言うことを聞いてくれない。
私は、途方にくれてしまう。
<リツキさん、…いえ、ご主人。>
誰?
<貴女の肩の上に、お邪魔させて頂いている者です。>
その声は優しい、落ち着いた女性の声だ。
そっと、肩へ手を伸ばす。触れたのは、ルーちゃんだ。
<このままでは、貴女まで壊れてしまいます。契約を結びましょう。
そうすれば、貴女が今出している炎を、私は打ち消すことが出来ます。>
本当に?
お願い。
私と契約して。
ルーちゃんは、器用に空中で一回転して、飛び出し、こちらを見てうなづく。
<了解です。契約は、成立致しました。
…ご主人、少々お待ちを。すぐに終わらせますので。>
*****
遭遇する敵を、片っ端から氷漬けにしていく。
後処理は、後ろから来てるマティアスたちに任せればいいよね。
もう、あんな思いは嫌だ。
…早く、早く彼女と合流しないと…!
お願いだから、間に合ってくれ…!
しばらく林を行くと、拓けた場所に出た。
すると、突然の光と強い熱風に見舞われる。
とっさに目を覆う。
防御結界を張って、木を掴んで、衝撃に耐える。
やがて 風が止んで、目を開けた僕の前に現れた光景は、
予期せぬものだった。
”龍”だ。
この世界の”ドラゴン”ではない。
梨月ちゃんの世界の、空想上の生き物の”龍”。
輝く鱗に覆われた、細長い体がうねる。
一体、何がどうなっているんだ?
赤い龍が、梨月ちゃんを守るように前に出て、何かを踏み潰している。
…男だ。あれが、アルヴィの言った魔術師か?
「ねぇ。お前は、梨月ちゃんの味方?」
警戒しながら、距離を詰めて、龍に問いかける。
話が通じるものなら良いんだけど…。
まぁ、ダメなら倒そう。
<はい。私は、ご主人と契約させて頂いた、使い魔です。
ご主人の魔力が、周囲を焼き払う勢いでしたので差し出がましくも
姿を変えて頂き、協力を致しました。…それと、倒さないで下さいね。>
ふぅん。テレパシーが出来るのか。
それより、梨月ちゃんが心配だな。大丈夫なの?
<ご主人は…命に別状はありませんが、満身創痍です…。
早く手当てをして差し上げて下さい。>
「分かった。…それで?そこで君に踏まれているのが、梨月ちゃんを
傷つけて苦しめた張本人なの?」
龍は足元をチラリ、と見た後、忌々しそうにコクンと うなずいた。
「うぅ…っ」
「ははっ。よかったー。まだ息があるみたいだねぇ?」
僕は、右腕が歪に骨折した、火傷の男に近づいて言ってやった。
「喜びな。これから、お前には死んだ方がまだマシだったってくらい、
痛くって、辛くって、長ぁーーい拷問が待ってるよぉ★
覚悟しとけよぉ〜♪首謀者 吐くまで、お仕置きしてあげるからさぁ★
…彼女の痛みを思い知れ。」
男が身動き出来ないよう氷で固めて(あ、空気穴開けてないや(笑))、
彼女のもとへと、急ぐ。
龍が退いて、彼女の姿が現れた。
梨月ちゃんは、虚ろな、いつもよりさらに『黒』い瞳で僕を見る。
…見れば、体は血まみれでボロボロだ。所々、焦げた痕もあった。
泣きたくなった。
「血、止めるから。動いちゃダメだよ?」
彼女は、わずかに首を縦に振る。
あぁ…良かった。少しは意識はあるみたいだ。
出血を止め、傷を全て塞ぐと、梨月ちゃんは脱力して、僕へ倒れ込む。
落とさないように、しっかり抱きとめる。
「っ! …梨月…っ」
彼女の肩口に顔を埋めて、嗚咽を漏らす。
この子の前では、僕は たちまち弱い僕に戻ってしまう。
魔術は強くなっても、心はちっとも強くなれない。
*****
「ぐす…っ」
意識がゆっくり明瞭になっていく。
誰かが泣いてる。誰?
…目を開いて、しばらく待つ。視界がはっきりして来た。
「ぅ、う?…何?…あっ、ラウちゃん!?」
驚いた。目を覚ましたら、ラウちゃんが泣いている。
ここは…さっきの湿原じゃなくて林の中だ。いつの間に?
ラウちゃんのローブに包んでもらって、寒くないのは大変有り難いんだが…。
…何故、ラウちゃんの胡座の上に抱えられてる!?
「ひっく…うぁあああん!りったぁあん!!」
ギュムゥウウゥ…ッ!
「うぐぅ…!?
…私も、会えて嬉しいけど…っ く、苦しい!力を緩めて!」
なんとか、数分の攻防の後、腕は緩められた。
だが。私は血が足りず、ひどい目眩でまともに動けなくて、
俗に『お姫様抱っこ』と呼ばれるもので、運ばれることになってしまった。
まぁ、仕方ない…。あれだけ、血がドバドバ出てたもんね。
「2人は……アルヴィ君とオルヴォ君は、無事…?」
「大丈夫。ちゃんと保護してもらってる。心配ないよ。」
ラウちゃんが微笑んで、答える。
あぁ。よかったぁ…。
一番、気にかかっていたことだったんだ。安心したら、
睡魔が襲って来る。
………。
…はっ! もうひとつあった!無理に目をこじ開ける。
「ルーちゃん、おいで。一緒に帰ろう。」
後ろから、低空飛行で付いて来ていた彼女に声をかける。
大きなルーちゃんは、小さなルーちゃんの時と同じ綺麗な
ルビーの瞳をキラキラさせて、私に尋ねる。
<…よろしいのですか…?>
「うん。これも、何かの縁だしね。
…あ、でもまだラウちゃんの許可取ってなかった…。ダメかな?」
「むぅ…本当はダメって言いたいところだけど…。
飼うからには、責任もって面倒見るって約束できる?」
あははっ、ラウちゃん それじゃ犬を拾って来た時みたいだよ!
「ふふふ、ちゃんと面倒は見ます!ほら、おいでー。」
ルーちゃんは うなづいて、ボフンッ!と音と煙を出したかと思うと
あの小さい姿で、私のおなかへと落ちて来た。不思議と、重さを感じない。
「あー、これヘビだったんだぁ。」
「えっ!?この子トカゲじゃないの…?手足あるよ?」
「ん?こっちでは足が無いニュルッとしたのがトカゲで、足があるのは
ヘビだよ?」
…わーお。ややこしいなぁ。
それにしても。
疲れた…。
うーん…眠い。目蓋がすっごく重い。
「…梨月ちゃん。
今は、眠ってて。色々な説明は、次に君が起きた時にするから。」
そう…。
うん…おやすみなさい。
<おやすみなさい、ご主人。>
ルーちゃんも疲れたのか、私のおなかの上で丸くなって眠る。
ーーーこの事件が、後々まで私と周りの人々を悩ませるとは知らず、私は幸せに寝こけていた。
謎の誘拐事件編、ひとまず終了です。
次回、ほのぼのと甘い成分を補給してから、
色々と真相を追って行きたいと思います。
ここまで、お疲れさまでした。
次回も楽しんで頂けるよう、頑張ります!
修正:2012/10/02
誤字脱字を直しました。




