表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/34

12

※注意※


※暴力表現が多く含まれます。

※シリアスで長いです。


以上を、ご了承の上で閲覧して頂けると嬉しいです。

ーーあぁ、焼けるように体が熱い…。


なのに、末端は凍っているみたいに冷たくなって上手く動かない。


あれから、どれくらいの時間が経ったんだろう?分からない…。


血を流し過ぎたせいかな…頭もクラクラする。

体中、切り傷だらけになってしまった。

あの男。多分、わざと急所を外して攻撃してるな。…悪趣味だなぁ。



2人は、ちゃんと逃げられたかな?


ペロペロ…


「いたた…、ルーちゃん気持ちは嬉しいけど、舐めなくていいよ。

おいしくないよ?」


そう、声を殺して言って、肩に乗ったルーちゃんを撫でる。


その時。

隠れていた茂みが大きく2つに割れて、



「やぁーっと、見つけたぜぇ?ケケケ、追いかけっこは飽きちまったし、

もうオワリにしよーぜぇ?」



……私は、男に髪を掴まれて茂みから引きづり出された。


絶望の中で、『そういえば、明日は私の16歳の誕生日だった』と、人事の

ように思い出していた。



*****




 俺たちは、手を繋いで真っ暗な林の中を駆け抜けていた。


もっと、俺に力があったら。

そうしたら、あの人をあの場所に置いて逃げるなんて真似、しなくて良かった。


悔しくて、くやしくて、どうしようもなく、自分に腹が立つ。



「ねぇ、なんか周りがさわがしいよ。追っ手かな…?」


オルヴォに言われて、足を止める。


ザワザワ…ギャー…ッ


確かに、音は遠いが怒号のような声が耳に届いて来る。

背筋に冷たいものが走った。


どうする、このまま進んだら見つかってしまう…!


迷っている間に、前方の獣道から誰かが飛び出して来る。



「あ?…お、お前ら!こんなところに居たのか!お前らのせいで、

タコ殴りにされたんだぞ!!」


あのパンと水を持って来させられていた、仮面の男だ。

松明によって照らされている顔は、本当にゾンビのように傷だらけだ。


「せめて、お前らだけでも捕まえて、許してもらうぜ…!」


もうダメだ。

俺は、オルヴォを後ろにかばって、目をギュッと固く閉じる。



「そぉいう訳にはいかないんだよねー? …よっと!」


「ギャーー!?」


ピシッ!パキパキパキッ



 聞き覚えのある声に、ハッとなって目を開く。

…仮面の男は、顔だけ除いて、全身氷漬けになっていた。


「ラウリ、さん?」


「やぁ。アルヴィと悪戯(いたずら)少年。ケガはしてないかな?」


まぎれも無く、自分が憧れているラウリ・トゥフカサーリその人だ。

安心感と歓喜で、涙が零れそうになった。


しかし。泣く前に、重大なことを伝えなければならない!と、必死に

ラウリさんに しがみついて告げる。



「あの人が、リツキさんが!俺たちを逃がすために、囮になって…!

今、魔術師に一方的に攻撃されていますっ!」


ラウリさんは、目を見開いた後、俺たちの来た道をにらんでいる。

そして、オレ達に手を伸ばす。


「(怒られる…!)」


だが。

触れられた手は予想外にも、グシャグシャと髪をかき回して、離れていく。


「ここまで、よく頑張ったね。もう大丈夫、僕たちが全部片付ける。」


今まで見たことの無い、笑顔で。聞いたことも無い、優し声で。

オレは驚いて、目と耳を疑った。

オルヴォも同じみたいで、口が開いたままだ。



「マティアス、こっちは頼んだ。…敵、殲滅(せんめつ)してくる。」


目に鋭い殺気を光らせ、オレたちの来た道へ駆け出すラウリさん、

俺はただ、それを呆然と見ていて、


「まったく…ありゃあ、相当キレてんな…。敵さん、死なねえといいが。」



「!?」


いつの間にか、背後に居た(ヒゲ)が似合うおじさんに保護された。



*****




痛い。


苦しい。


放して。


「ど、こ、か、ら、切ろう、かなっ♪クククッ」


うるさい。


やめて。



「反応悪ぃなー? …今から、あの小せぇ方のガキ共を追いかけて、

グチャグチャにぶっ殺してもいいんだぜぇ?」


ギリ、と首が絞まる。


やめて、やめて、やめて…!


「…っ、やめてぇ、」


「そー、そー!最後まで抵抗してくれなきゃ、ツマンナイだろぉ?

オレはぁ、女やガキが怯えて、泣き叫んで、抵抗してるところを、

原型無くなるまで切り刻むのが、だぁああい好きなんだからよぉ!!」



体が、熱い。


まるで沸騰してるみたい。


()いて、()いて、()いて、()いて。吹きこぼれそう。


この男を、止めル、チカラガ、ホシイ。


「お前を殺ったら、すぐにあのガキ共もぶっ殺して、後を追わせてやんよ!!」


刃渡りの 長い刃物が、私を 貫こうと (せま)る。

時間が 引き延ばされた みたいに (なが)い。


曲がれ。

曲がれ、曲がれ。

曲がれ、曲がれっ、曲がれぇ…!!




「『曲がれぇええええええぇええっ!!!』」




「!?…ギャァァアアッ!!う、腕がぁあ!!!」


ミシ、ミシミシ、バキンッ!!


ナイフを握っていた男の右手は、(ねじ)るような形で複雑骨折した。

その場に、ゴゥッ!と、ものすごい熱風が吹き荒れる。


「ひぃ…っ!」


辺りは、火の海。赤い炎が湿原を包む。


赤は、徐々にオレンジへ変わり、青色に近づいていく。


地面から、水分が失われて、ヒビ割れる。

私からも乾いた泥が、パラパラと落ちていく。




熱い。



苦しい。



止めないと。



出来ない。



どうしよう。




大きな力は、私の言うことを聞いてくれない。

私は、途方にくれてしまう。



<リツキさん、…いえ、ご主人。>


誰?


<貴女の肩の上に、お邪魔させて頂いている者です。>


その声は優しい、落ち着いた女性の声だ。

そっと、肩へ手を伸ばす。触れたのは、ルーちゃんだ。


<このままでは、貴女まで壊れてしまいます。契約を結びましょう。

そうすれば、貴女が今出している炎を、私は打ち消すことが出来ます。>



本当に?


お願い。


私と契約して。



ルーちゃんは、器用に空中で一回転して、飛び出し、こちらを見てうなづく。


<了解です。契約は、成立致しました。

…ご主人、少々お待ちを。すぐに終わらせますので。>




*****



 遭遇(そうぐう)する敵を、片っ端から氷漬けにしていく。

後処理は、後ろから来てるマティアスたちに任せればいいよね。



もう、あんな思いは嫌だ。


…早く、早く彼女と合流しないと…!


お願いだから、間に合ってくれ…!


しばらく林を行くと、拓けた場所に出た。



すると、突然の光と強い熱風に見舞われる。


とっさに目を覆う。

防御結界を張って、木を掴んで、衝撃に耐える。


やがて 風が止んで、目を開けた僕の前に現れた光景は、

予期せぬものだった。



”龍”だ。



 この世界の”ドラゴン”ではない。

梨月ちゃんの世界の、空想上の生き物の”龍”。

輝く鱗に覆われた、細長い体がうねる。


一体、何がどうなっているんだ?


赤い龍が、梨月ちゃんを守るように前に出て、何かを踏み潰している。

…男だ。あれが、アルヴィの言った魔術師か?



「ねぇ。お前は、梨月ちゃんの味方?」


 警戒しながら、距離を詰めて、龍に問いかける。

話が通じるものなら良いんだけど…。


まぁ、ダメなら倒そう。


<はい。私は、ご主人と契約させて頂いた、使い魔です。


ご主人の魔力が、周囲を焼き払う勢いでしたので差し出がましくも

姿を変えて頂き、協力を致しました。…それと、倒さないで下さいね。>


ふぅん。テレパシーが出来るのか。

それより、梨月ちゃんが心配だな。大丈夫なの?


<ご主人は…命に別状はありませんが、満身創痍(まんしんそうい)です…。

早く手当てをして差し上げて下さい。>


「分かった。…それで?そこで君に踏まれているのが、梨月ちゃんを

傷つけて苦しめた張本人なの?」


龍は足元をチラリ、と見た後、忌々しそうにコクンと うなずいた。



「うぅ…っ」


「ははっ。よかったー。まだ息があるみたいだねぇ?」


僕は、右腕が歪に骨折した、火傷の男に近づいて言ってやった。


「喜びな。これから、お前には死んだ方がまだマシだったってくらい、

痛くって、辛くって、長ぁーーい拷問が待ってるよぉ★

覚悟しとけよぉ〜♪首謀者 吐くまで、お仕置きしてあげるからさぁ★


…彼女の痛みを思い知れ。」


男が身動き出来ないよう氷で固めて(あ、空気穴開けてないや(笑))、

彼女のもとへと、急ぐ。



龍が退いて、彼女の姿が現れた。


梨月ちゃんは、虚ろな、いつもよりさらに『黒』い瞳で僕を見る。

…見れば、体は血まみれでボロボロだ。所々、焦げた痕もあった。

泣きたくなった。


「血、止めるから。動いちゃダメだよ?」


彼女は、わずかに首を縦に振る。

あぁ…良かった。少しは意識はあるみたいだ。


出血を止め、傷を全て塞ぐと、梨月ちゃんは脱力して、僕へ倒れ込む。

落とさないように、しっかり抱きとめる。


「っ! …梨月…っ」


彼女の肩口に顔を埋めて、嗚咽(おえつ)を漏らす。

この子の前では、僕は たちまち弱い僕に戻ってしまう。




魔術は強くなっても、心はちっとも強くなれない。




*****




「ぐす…っ」


 意識がゆっくり明瞭(めいりょう)になっていく。

誰かが泣いてる。誰?


…目を開いて、しばらく待つ。視界がはっきりして来た。


「ぅ、う?…何?…あっ、ラウちゃん!?」


驚いた。目を覚ましたら、ラウちゃんが泣いている。


ここは…さっきの湿原じゃなくて林の中だ。いつの間に?

ラウちゃんのローブに包んでもらって、寒くないのは大変有り難いんだが…。

…何故、ラウちゃんの胡座(あぐら)の上に抱えられてる!?


「ひっく…うぁあああん!りったぁあん!!」


ギュムゥウウゥ…ッ!


「うぐぅ…!?

…私も、会えて嬉しいけど…っ く、苦しい!力を(ゆる)めて!」



 なんとか、数分の攻防の後、腕は(ゆる)められた。


だが。私は血が足りず、ひどい目眩(めまい)でまともに動けなくて、

俗に『お姫様抱っこ』と呼ばれるもので、運ばれることになってしまった。


まぁ、仕方ない…。あれだけ、血がドバドバ出てたもんね。



「2人は……アルヴィ君とオルヴォ君は、無事…?」


「大丈夫。ちゃんと保護してもらってる。心配ないよ。」


ラウちゃんが微笑んで、答える。


あぁ。よかったぁ…。

一番、気にかかっていたことだったんだ。安心したら、

睡魔が襲って来る。


………。


…はっ! もうひとつあった!無理に目をこじ開ける。


「ルーちゃん、おいで。一緒に帰ろう。」


後ろから、低空飛行で付いて来ていた彼女に声をかける。


大きなルーちゃんは、小さなルーちゃんの時と同じ綺麗な

ルビーの瞳をキラキラさせて、私に尋ねる。


<…よろしいのですか…?>


「うん。これも、何かの縁だしね。

…あ、でもまだラウちゃんの許可取ってなかった…。ダメかな?」


「むぅ…本当はダメって言いたいところだけど…。

飼うからには、責任もって面倒見るって約束できる?」


あははっ、ラウちゃん それじゃ犬を拾って来た時みたいだよ!


「ふふふ、ちゃんと面倒は見ます!ほら、おいでー。」


ルーちゃんは うなづいて、ボフンッ!と音と煙を出したかと思うと 

あの小さい姿で、私のおなかへと落ちて来た。不思議と、重さを感じない。



「あー、これヘビだったんだぁ。」


「えっ!?この子トカゲじゃないの…?手足あるよ?」


「ん?こっちでは足が無いニュルッとしたのがトカゲで、足があるのは

ヘビだよ?」



…わーお。ややこしいなぁ。


それにしても。

疲れた…。

うーん…眠い。目蓋(まぶた)がすっごく重い。



「…梨月ちゃん。

今は、眠ってて。色々な説明は、次に君が起きた時にするから。」


そう…。


うん…おやすみなさい。



<おやすみなさい、ご主人。>

ルーちゃんも疲れたのか、私のおなかの上で丸くなって眠る。



ーーーこの事件が、後々まで私と周りの人々を悩ませるとは知らず、私は幸せに寝こけていた。




謎の誘拐事件編、ひとまず終了です。


次回、ほのぼのと甘い成分を補給してから、

色々と真相を追って行きたいと思います。


ここまで、お疲れさまでした。

次回も楽しんで頂けるよう、頑張ります!


修正:2012/10/02

誤字脱字を直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ