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 私はふらつきながら、ヨイショ!と立ち上がって言う。


「よーし。まずはパンでも食べながら、作戦会議しようか!」


「…この状態で、どうやって食うんだよ。馬鹿なのか?」



 アルヴィ君は、後ろ手に縛られている腕をごそごそ動かす。

うーん。口が悪い子だねぇ、君は。


「まぁまぁ。ちゃんと考えがあって言ってるんだよ?

オルヴォ君、ちょっとスカートの中探ってもらえる?」


「なっ」


顔を真っ赤にしたアルヴィ君へと、『黙って』という目で見る。

私はひざ丈のワンピースの裾をガッとめくり、サイハイソックスに挟んでいる

目的の物を、見えやすくした。


オルヴォ君が、それ(・・)を上手く取ってくれるのをひたすら待つ。



「…とれた。」


 予想以上に、オルヴォ君はスムーズにことを運んでくれた。

よかった。あまり長くかかると気付かれちゃうからね。


「ありがとう!ちょっとジッとしてて…ねー。」


私は彼の持っているそれを受け取って、まずオルヴォ君の縄を断ち切りにかかる。


「アンタ、それ…」


「こんなこともあろうかと、バードナイフを仕込んでて大正解だった、ね、

っと!よし、全部切れた。オルヴォ君、こっちもお願い。」


「了解。まってて。」



 しばらく待つと、腕の拘束が解かれた。

ナイフを受け取って足の拘束も解いて、アルヴィ君の縄を切るべく後ろに回る。


「それがあるなら、なんですぐにやらなかったんだよ?」


「だって、相手に気付かれちゃお終いでしょ?


フード被ってたから、君が味方かどうかわからなかったし。

今は、あいつらが全員ご飯食べてるからチャンスなの。

見張りを交代制にしないところが素人だね。

まぁ、そのおかげで助かったけど。」



 縄を断ち切りながら説明してあげると、ぷくっと頬を(ふく)らませて

スネている様子だった。

子どもらしい反応が可愛くて、こっそり笑う。



「さて。どうしようか…。良策が、ひとつも浮かばないや。」


「オイオイ…っ」


アルヴィ君がとても不安そうに顔を歪めた。



「とりあえず、現在の戦力を把握しておくね?

オルヴォ君が小さな岩や石を魔法で出せるのは知ってるけど、アルヴィ君は…

髪色からして、風か樹木を操れるタイプ?」


アルヴィ君は萌黄の髪を少しいじって、少し苦しげに、ポツリと言う。


「そうだけど、戦力にはならない。俺の力、弱いんだ。」


あら。ずいぶん弱気じゃないの。


「そんなこと言ったら、私は全く特別な力がないんだから一番足手まとい

だと思うよ? それに…」


アルヴィ君とオルヴォ君が私をジッと見る。


「そんなものは気合いでなんとかしなさい!!」


「はぁっ!?」



 すっごい不服そうな顔だねー。

でも、割と間違いじゃないはずだよ?



「この間、習ったんだけどさ。

魔術を発動させるには、術者の意思とイメージが強くないといけないんだよね?

だったら、自信なんかなくても”出来る”って思ってやればいいんだよ。」


依然、アルヴィ君は怒ったみたいに難しい顔をしている。


「…まぁ。出来ない人間が言ったって、全然説得力は無いんだけどね。」


「…本当にな。無茶言うな。」



 彼は、プイッとそっぽを向いてパンをバリバリ食べ始めた。

私も食べようと掴んだら、石のようにカッチカチだ…。


「それにしても…このパンすごい固いねぇ…。

よーし!帰ったら、絶対に柔らかいパンを作って食べるよ…!」


「それ、手伝いたい。…完成したら、ぼくにもくれる…?」


いいよー!と、オルヴォ君と固い約束をして、ふと何気なく足下を見てみると。




「ピニャーッ」


トカゲっぽい生き物が、こちらを見ている。


「か、かわいい!!」


「えっ」


「おい、変なものに手を出すなよ…!?」


思わず手を伸ばして、そっと撫でてみた。あっ、大人しいぞ、この子!


大きさは尻尾を入れて30センチくらい。

見た目は爬虫類(はちゅうるい)なのにスベスベしてる…!

まぁるい目はルビーみたいに紅い。綺麗だなぁ…。

体の色も、暗くてよく見えないが赤っぽい色をしている。



 ふいに、トカゲっぽいのさんから『グー…キュルル』と音がした。

ま、まさか。


「君、パン食べる?美味しいかはわからないけど。」


トカゲっぽいのさんは、その場でピョンピョン跳ねてパンをモリモリと

食べ始めた。


「うわーっ!可愛い!可愛いよぅ!連れて帰りたいよぅ!!」


「ア、アンタ…変な趣味してるんだな…。」



失敬な!

自分の美意識を(けな)されて、憤慨(ふんがい)しているとピトッとトカゲっぽいのさんが

くっ付いて来た。


「トカゲっぽいのさん…ぐ、言いにくい。君、目が宝石のルビーみたいだから、

”ルーちゃん”って呼ぶけどいいかな?」


私に命名されたルーちゃんは、先程よりも高くピョコン!と跳ねた後、

グルグルと私の周りを回った。嬉しいのかなぁ?ふふふ。




 その時。

突然ルーちゃんが、勢いをつけて、鉄格子の窓がある方の壁へ体当たりをした。

私はそれにすごく驚き、急いで駆け寄ってルーちゃんを拾い上げる。


「どうしたの!?なんで、いきなり………ん?」


「リツキさん?」


私の頬を、弱い風が撫でる。もしかして…?

その可能性に、期待してドキドキしながら壁の一部分を押してみた。


ズズズ…ッ


ゴロ、ヒューーーーーーッ…


ガラッ、ガラガラガラ…!



落ちた。

石色の煉瓦(レンガ)が、ひとつ押したら落ちて、それに連鎖して壁が崩落した。

…藍色の夜空を満天の星屑が覆い、双子の三日月が輝いている。…外だ。



「し、信じられない。」


アルヴィ君は、あまりの出来事に目が点になっている。


「でも、実際に目の前で起こっちゃったんだもん…。信じられないけど。」


 内心、私だってなにがなんだか分からない状況だ。

しかし、私の手の中のルーちゃんは妙に誇らしげで、『ヤッタネ!』

とでも言いたそうだ。



「ルーちゃん、良い子。良い子。」



オルヴォ君に撫でられて、ルーちゃんは嬉しそうにしている。

私も撫でてあげよう。よしよし!




ーー逃げ道は開いた。なら、進むだけだ。

助けを待っているだけじゃ、2人の安全は確保できない。


「…さぁ、アルヴィ君。君には、覚悟を決めてもらわなくちゃいけない。

今の音は、きっと下の誘拐犯たちにも聞こえていたはずだよ。」


アルヴィ君は、ジッと私を見つめる。

私はにっこり微笑んでみせる。大丈夫だよ、怖くない。



「奴らが来る前に、ここから脱出して出来るだけ遠くに逃げたい。

そのためには、私たち3人が各々の役目を果たす必要がある。


アルヴィ君。

…君の魔法を最大出力で発動して。」


「そんなことしたら、制御不能で危険だろ…っ!」


「私、運だけは良いの。きっと、上手く行くよ。」


アルヴィ君は声を抑えながらも、とても怒って言う。


「無責任なことを言うな!失敗したら全員死ぬんだぞ!?

…だいたい、こんなところに居るのに運が良いもないだろ!」


私は笑う。無理にではなく、心から笑みが零れる。



「ううん。

私は運が良いよ。こうやってオルヴォ君とアルヴィ君が一緒だったから、

脱出に希望が持てたし『必ず成功する』って、信じられる。

ひとりだったら、ここまで頑張れなかったと思うよ? 私。


君にも、信じて欲しい。君は、『必ず出来る』よ!」


「必ず、出来る…。…ハァ。あぁ、わかった!

…やってやるよ…!」



 彼の目には、恐れがあったけどもう迷ってはいなかった。

アルヴィ君は将来、良い男になるかもね!


「ルーちゃん、君はどうする?」


ここに残る?

しかし、ルーちゃんはオルヴォ君の首元にしっかり掴まってもう準備万端だ。


「あははっ!来てくれると、私も嬉しいよ。一緒に行こう!」


新たな仲間が増えて、少し心強い。かなり小さい仲間だけどね。





「よし!脱出作戦スタート!!」


私はオルヴォ君をおんぶして、アルヴィ君と手を繋いで壁の穴から力一杯、

飛び降りた。






ルーちゃんがなかなか想像通りに書けて、個人的には大満足です!w

これから、ルーちゃんが活躍するまで少し長かったり、

シリアスとかが入る予定ですが、なんとかやってみます!


修正:2012/10/02

誤字脱字を直しました。

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