09
同時刻。
一方その頃、パールナ村では。
ウチは、雑貨屋を営んでいます。
そろそろ夕方だし閉店準備を始めないとなぁ、と思いつつ、
「ミョーンッ」
店の表でネコ(三角の耳が付いた、真ん丸くて1つ目のスベスベした生き物です)を撫でていたら、ヤンネが泣きながら走って来るのが見えました。
「エルメルにいぢゃーーーん!」
おやまぁ。何かあったようですね。
アルヴィ兄さんが来ていたようですが、ケンカでもしたんですかね?
とりあえず。
ヤンネが顔から出るものを全て出しているのをなんとかしないと。
タオルは近くにあったでしょうか…。
「それで、オレ…!ずびっ」
事態は、予想以上に深刻でした。
アルヴィ兄さんは、リツキさんとオルヴォ君と共に何者かの術によって
さらわれたようです。
これは、急いで父さんと母さんに知らせなくては…。
「ねぇ。今の話、本当?」
正直、ゾッとしました。
確かに今、ここには自分とヤンネしか居なかったのです。
なのに、すぐ真横に突如、しゃがんだラウリさんが出現したのですから。
しかも、手には塩まみれの布の袋を持っています。…リツキさんのものですね。
「ねぇ?早く答えて?」
驚くほど、感情の無い声で返答を急かされて、自分はハッとして答えました。
「はい、本当です。
リツキさんを含む、兄とオルヴォ君3人が何者かに誘拐されたようです。」
「ごめん、オレ…なんもできな、くって…」
ラウリさんは、泣きじゃくるヤンネに呆れたような顔をしながら、立ち上がって
言いました。
「君は、本当にお馬鹿さんだなぁ。
君がこうやってここに居るから、僕はこの事態いち早くを知れた。
…気にしなくていいんだよ。さっさと泣き止んでよ。」
おもむろに、ヤンネのくせっ毛の頭をワシャワシャ撫でた後、通信用の魔道具を
取り出して誰かに連絡を始めました。
顔には出しませんでしたが、とても驚きました。
彼はそういうフォローをしたり、慰めたりする人ではないと思っていたのです。
自分は、このラウリさんという魔術師の噂を聞いて怯え、本人がどんな人物
なのかを知ろうとはしていませんでした。
もしかすると、彼は本当に心優しい人なのではないのでしょうか…。
外聞だけで、人を判断していたのを自分は恥ずかしく思いました。
ところが。
「…あっ。僕だよー。どうやら動きがあったみたいなんだけどさぁ…。
僕の大事な人が巻き込まれちゃったんだ。だからさぁ。
ぶっ殺しちゃってもいいよねっ★
事故とかなんとか理由、書類に書いといて〜★
…ハァ?重要な手がかり潰す気かって?
知〜らないっ★
彼女に手ぇ出した奴らが悪いんだよぉ?死んで詫びろよぉ★」
前言撤回です…。
やっぱり、噂通りの人かもしれません。
「…うぅ、なんか向こうでガミガミ言ってたぁー…。耳、痛いやー。
あ。エルメルとヤンネは、もう家に帰りな〜?
この事件は、僕が今すぐ片付けて来るからさ。心配しなくっていいよん?」
…でも、今までとは少し違うみたいです。
以前の”氷刃の魔術師”だったら、こんな風に誰かのために必死になったり、
身内の心配をしたりしなかったはずです。
…きっと、リツキさんが良い影響をもたらしてくれたんだ、と自分は勝手に
思うことにします。
「えぇ、ラウリさんもお気をつけて。」
「りょーかい。
りったんと他2人はちゃーんと助けるからさ☆ じゃあねっ♪」
そう言って楽しそうに笑うと、ラウリさんはその場から消えてしまいました。
たぶん、来る時に使った魔術を使ったのでしょう。
ーーーどうか、3人とも無事でいて下さいね。
雑貨屋一家の次男坊、エルメル君視点でした。
メガネ着けてないのに、メガネキャラっぽくなってしまったw
修正:2012/10/02
誤字脱字を直しました。