本塁打戦士
読者諸君、
私の名は「本塁打戦士」だ。
本塁打戦士とは、
本塁打を打つ事のみを目標とする打撃戦闘員のことだ。その歴史は中世ヨーロッパにまでさかのぼると伝えられている。
私の戦場はバッティングセンター。
ここに立つのは初めてだ。
そう、今日は私の初陣なんだ。
志願兵として入隊して以来、血のにじむようなイメージトレーニングと、毎日素振り10回のハードな訓練にも耐え、やっとここに来ることが出来た。
何事も最初が肝心だ。
本塁打戦士にとって、球速は関係ない。速い球を打とうが遅い球を打とうが、その価値は等しい。
歴戦の勇者たちの間では、時速80キロという立派な球速で臨む事が通例となっており、私は素直にそれに従った。
第一球。
スパーン・・・。
速い・・
あの球のスピードは何だ。あまりに速すぎて、その姿すら視認出来なかった。ここの管理人は脳みその代わりにネリケシでも入れているのではなかろうか。私はあの球について、航空力学的な考察を冷静に試みた。そして、一つの結論に至った。
もう一球見てみよう。
激戦の果て・・・
汗がしみ込んだバットを残し、私は断腸の思いで戦場を後にした。私としても、このタイミングでの撤退は非常に不本意である。数々のアクシデントが誘発したために、こうせざるを得なかったのだ。
主な理由としては、体力および小銭の消耗、隣の小学生のレベルの高さへの羞恥を通り越した恐怖、その他、自尊心の損傷といった致命的な原因が挙げられる。
ああ、
これではまるで、太陽を目指して飛翔し、然る後に墜落死したイカロスではないか。本塁打という栄光を目指した私はまさしくそれであり、私は密かに泣いた。
若者よ、
この記録を読んだ上で自分も本塁打戦士になると言うのならば、私はそれを止めはしない。ただ、もしかしたら軽蔑するかもしれない。体力の無い人間がスポーツで栄光を勝ち取る事は難しい。まして、私のような綿密な計画を練らずに事に臨むようでは栄光は夢のまた夢であろう。
私は本塁打戦士。
いつの日か、「私は本塁打戦士である」と、胸を張って言えるようになりたい。ただ、それだけを夢見て、私は今日もコインを消費する。
ほぼ実体験です。
完全に運動不足ですね・・。




