好きな時間
三題噺もどき―きゅうひゃくさんじゅう。
2学期が始まり、3日が経った。
夏休みも学校に来ていたから、これといった感慨みたいなものはない。
午前中で終わっていたから、1日に戻ったのが少々体力的にしんどいくらい。
しいて言えば……というか、これが一番嬉しいし、これしか学校に来る理由がないなんて言っても過言ではないのだけど。
「あ、きたー」
教室の奥で、ひらひらと手を振る姿がそこにはある。
さっきのは、なんとなくそう言っているだろうなと思っただけで、声は聞こえない。
昼休みに入ると、みんなして声量がおかしくなるのか騒がしくて聞こえないのだ。
「しつれいしまーす」
一応、形ばかりのそんなことを呟き、教室へと入る。
ここは私のクラスではなく。
あの子のクラスなので。
「……」
前を見ずにこちらへ歩いてくる生徒をよけつつ、奥の方へと進んでいく。
弁当とお菓子の入った鞄を手前に持ち、もう片方の手で水筒を持っている。
―いつも使っている鞄が洗濯に出されていたので、今日は母が使っていたものを借りてきた。有名な絵本に出てくるカメレオンが描かれていて、これはこれで可愛いし母が使わないなら貰おうかと思っているくらいには気に入った。
「……」
手が空いているわけではないので、ぶつかりでもしたら確実に机の角に当たる。
それはほんとに避けたい。地味に痛いから。
「こっちこっち」
ちょいちょいと、座っている机の前に座るよう手招きする。
人とぶつからないように机の合間を縫い、目的地へとたどり着き、誘われた椅子にようやく座る。このクラスの人は、頭はいいんだろうけど、周りをみるのは忘れているんだろうか。
「おなかすいたー」
「私もお腹空いた」
時計の針はとうに昼を超え、空腹など通り過ぎていても不思議ではない。
正直、3時間目くらいからはすでに空腹が始まっていることもある。
朝食をいくら食べても空腹になるのは不思議だよなぁ。
「ここ寒くない?」
「クーラーがよくあたるんだよw」
まだ暑い日々が続くので、制服は夏物。
短い袖の先から細くて白い腕が伸びている。
それでいて、折れそうという心配はあまりない。
「今日もゼリー持ってきてるw」
「デザートだからw」
最近、長い髪は、ポニーテールだったりハーフアップだったりしている。
今日は、ハーフアップ。体育がないんだろう。
降ろされた髪は、さらさらと背中を流れている。
「ランチバック変えたの?かわいいー」
「いや、借りてきただけ、」
中身を取り出し、邪魔にならないよう畳まれた鞄を手に取り眺めている。中にお菓子が入っているがまぁ、いつもの事なので気にはしていない。
……可愛いって言われたし、ホントに貰おうかな。どうせ年に数回使うだけだろうし。私は毎日使っているから交渉してみるとしよう。
「かわいくないこれ」
「ん、ほんとだかわいいw」
言うのを忘れていたが、隣の机にも数人、一緒に昼食を摂る生徒がいる。
私がついた時にはすでに弁当を広げ、食べ始めようと言うところだった。
ま、私が一緒に食べているのはあの子なので。はい。好きにしてもらって。
「……」
いつもこのメンバーで昼食を摂り、昼休みをつぶし、それぞれ掃除に向かっている。
まるで自分の物のように言っているが、それは一応私のものである……しかしまぁ、それも可愛いので何とも思わない。楽しそうだしいっか、って感じ。
「今日サンドイッチなんだ」
「そーなんかー……」
隣との会話も程ほどに、向かい合って昼食を摂る。
私の弁当はいつも変わらず、母がそれなりの量で作ってくれている。
朝が早いので冷凍食品が多いかもしれないが、食べられれば何でもいいし、作ってもらっているだけでも十分だろう。
「サンドイッチなんて、おしゃれな昼食でw」
「やめろw」
ゼリーは2個入っているし、1個はあげる分みたいなものだ。
お菓子も何個か持ってきたし、いつも通り飴も入っている。
このために学校に来ていると言っても過言ではないのだから、私はこの時間が一番好きで、大切で、このまま続けばいいなんて思っている。
「……ついてるよ」
「ん、」
サンドイッチのソースを口の端につけ、楽しそうに笑う。
他愛もないただの昼食の時間だ。
何でもないただの日常の風景だ。
「ティシュ持ってる?」
「はいどーぞ」
それでも私は。
この時間が。
お題:カメレオン・洗濯・時計




