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異世界LIVE~売れない吟遊詩人をヴィジュアル系に魔改造したら戦場が最前列になりました~  作者: カミツキ


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17話 討伐戦

移動しながら、クロムがメモを取ろうとしていた。

 

手帳を出していた。

筆を構えていた。


「メモしなくていいです」珠里が言った。


「なぜだ」


「体で覚えるものだから」


「………………」


「文字にできないんです、サークルピットは」


「………………では何で覚える」


「やってみるしかない」


「………………」


クロムが手帳を閉じた。

討伐隊員の一人が後ろから言った。


「クロムさんがメモ取ろうとしてた」


「見てたのか」


「たまたま」


「………………」


「クロムさんでもメモ取るんですね」


「………………」


「感動しました」


「………………黙れ」


珠里は前を向いたまま笑った。

合流地点は、街道から外れた広い草原だった。

着いた瞬間、珠里は規模の違いを感じた。

今まで見てきた討伐隊とは、人数が違った。

五つの討伐隊が集まっていた。

全部合わせると百人を超えていた。


全員が武装していた。全員が疲れた顔をしていた。

でも全員の目に、緊張の色があった。


……本当に大きい依頼だ。


クロムが前に出た。

取りまとめ役として、各隊の隊長と話し始めた。

珠里が周囲を観察していると、端の方に一人、浮いている人間がいた。

リュートを持った男だった。

年齢は五十代くらい。

白髪交じりで、品のある服を着ていた。

吟遊詩人だった。

別の隊が連れてきた吟遊詩人だった。

男が珠里を見た。


「あなたも吟遊詩人の関係者ですか」


「プロデューサーです」


「プロデューサー」男が繰り返した。「吟遊詩人のプロデューサーとは」


「音楽を作る側を支える仕事です」


「……今回、吟遊詩人が帯同すると聞きました」男が言った。「どんな方ですか」


「今回は別の演奏者が来ます」


「そうですか」男が少し目を細めた。「伝統的な叙事詩を歌われる方ですか」


「違います」


「では何を」


「オリジナルの曲です」


男が黙った。


「……オリジナル、ですか」


「はい」


「戦場で、オリジナルの曲を」


「そうです」


「……それは」男が言った。「邪道では?」


「そうですか」


「吟遊詩人とは伝統を継承するものです。先人が磨き上げた叙事詩を歌うことで——」


「効果が出ればいいと思っています」


「効果?」


「討伐隊のテンションが上がって、魔物が倒せれば」


男が珠里を見た。

珠里がまっすぐ返した。


「……乱暴な考え方ですね」


「そうですか」


「音楽とは——」


「後で聞いてください」珠里が言った。「実際に見てから判断してもらえますか」


男が黙った。

何か言いかけて、やめた。


「……見せてもらいましょう」


出発しようとした時だった。

後ろから声がした。


「愁さん!!」


珠里が振り返った。


アルトだった。

息を切らしていた。

ソプラが隣にいた。

同じく息を切らしていた。

でもソプラだけ、少し冷静だった。


「……なんでいるの」珠里が言った。


「心配で!!」


「帰って」


「帰れないです!!もうここまで来てしまったので!!」


「どこから来たの」


「街から!!ずっと走ってきました!!」


「街から走ってきたの!?」


「心配だったので!!」


珠里がソプラを見た。


「ソプラも?」


「……アルトがどうしても来るというので」


「止めなかったの」


「……止められませんでした」ソプラが言った。「一応、止めようとはしました」


「一応!?」


「三回言いました。でもアルトが聞かなかったので」


「三回で諦めるの!?」


「四回目を言う前に走り出したので」


珠里が頭を抱えた。

その瞬間、さらに後ろから音がした。


大量の足音だった。


「愁さーん!!!!」


ノノだった。


友達を連れていた。


たくさん連れていた。


「なんで!!」珠里が言った。


「アルトさんとソプラさんが行くって聞いて!!」


「聞いてどうするの!!」


「ついてきました!!」


「なんで!!」


「心配だったので!!!!」


「危ないんだけど!!」


「でも愁さんも危ないじゃないですか!!」


「私は戦いに来てるから!!」


「私たちも来ました!!」


「来なくていい!!」


「来ました!!!!」


クロムが珠里の隣に来た。

百人を眺めた。


「………………どういうことだ」


「説明できません」


「………………」


「本当に説明できないです」


「………………全員、後方待機だ」


「クロムさん、後方待機を言える立場ですか」


「………………言える」


「相対的に後方にいたじゃないですか今まで」


「………………それは別の話だ」


ギルド連合の討伐隊員たちが、この光景を遠くから眺めていた。


「……何が始まってるんだ」


「分からん」


「あの隊、大丈夫か」


「分からん」


戦闘が始まった。

魔物の群れが草原の向こうから現れた。

ギルド連合が動いた。


「アルト」珠里が言った。


「はい!!」


「後方で演奏して」


「分かりました!!」


「絶対後方で」


「絶対後方!!」


「ソプラ」


「……分かってます」ソプラが言った。「後方に下がります」


「ありがとう」


「……アルトから目を離さないために後方にいます」


「どっちでもいい、後方ならば」


アルトとソプラが後方に下がった。

演奏が始まった。

アルトの声が草原に響いた。

ソプラの演奏が合わさった。

ギルド連合の討伐隊員の何人かが振り返った。


「……何だ、あの声は」


「吟遊詩人か」


「若いな」


「でも」


「……なんか、体が動くな」


珠里は前線の後ろに立っていた。

クロムが「後方待機」と言った場所より、少し前だった。

「愁さん」クロムが言った。


「後方にいます」


「………………ここは後方ではない」


「相対的に」


「………………」


クロムが前を向いた。

諦めた顔をしていた。


アルトの曲が続いた。

珠里の手が、動いた。


——手扇子だ。


気づいたら出ていた。

右手を胸の前で開いて、左右に振る。


咲きとは違う動きだった。

今まで一度も出てこなかった動きが、この場面で自然に出た。


……なんで今更手扇子が出てくるんだ。


でも体が止まらない。


ギルドの剣士が珠里を見た。

双剣を構えたまま、珠里の手の動きを見ていた。


「……いい動きだな」


「手扇子です」


「テ、テセンス?」


「そうです」


「……これか」


双剣で手扇子をした。


左右の剣を胸の前で交差させて、左右に振った。

そのまま魔物を斬った。

一体、また一体。

双剣で手扇子をしながら斬り続けた。


「……斬りやすい!!」


「それは偶然だと思います!!」珠里が言った。


「でも斬れてる!!」


「それはそうだけど!!」


ノノの友達が見ていた。


「あの動き!!」


「扇子だ!!」


「扇子の方がいい!!」


「いや咲きの方がいい!!」



「扇子!!」

「咲き!!」


「扇子の方がかっこいい!!」

「咲きの方が絶対いい!!」



「「「どっちがいい!!」」」



議論が始まった。

自然に分かれた。


手扇子派が右側に集まった。

咲き派が左側に集まった。


中央に、空間が生まれた。


ソプラは演奏しながら、その光景を見ていた。


右に扇子派。

左に咲き派。

中央に空間。

百人が言い合いをしていた。


……音楽を聞け。


ソプラの手が動いた。

音色が、変わった。

低く、重く、密度が増した。

腹に響く音になった。


言い合いをしていた百人が、黙った。


一瞬で黙った。


扇子派も咲き派も、関係なく黙った。


音が、体に入ってきた。

前に、行きたくなった。


「うおぉぉぉ!!」


誰かが言った。

前に詰め始めた。


一人が詰めたら止まらなかった。

二人、三人、十人、二十人。


密集した。

倒れ込むように前に詰めた。


「ウォールオブ……デス……」珠里が言った。


戦場の真只中で、ウォールオブデスが発生した。

雑魚魔物が、気づいたら巻き込まれていた。

百人の密集に飲み込まれた。

押し潰された。


「なんだこれ!!」討伐隊員が言った。


「魔物が!!」


「押し潰されてる!!」


「なんで!!」


「分からん!!でも効いてる!!」


「効いてる!!」


ギルド連合の討伐隊が、その光景を見ていた。

全員が黙っていた。

しばらくして、一人が言った。


「……参加していいか」


「俺も」


「俺も行く」


「なんか分からんがテンションが上がってきた!!」


「俺も!!」


「行けそうな気がする!!」


「行けそう!!!!」


珠里は最前列で手扇子をしていた。

アルトが後方から歌いながら珠里を見た。


目が合った。

珠里が手扇子を続けた。

アルトの声が、上がった。


今まで出したことのない声が出た。


自分でも驚いた顔をしていた。

でも止まらなかった。

ソプラは演奏しながら、前線を見ていた。


珠里が手扇子をしていた。

双剣使いが双剣で手扇子をしながら斬っていた。

ギルド連合が熱狂していた。

ウォールオブデスの中で雑魚魔物が消えていった。


……届いてる。

アルトの声が、届いてる。


ソプラの演奏が、もう一段上がった。

その時、老吟遊詩人が珠里の隣に来ていた。

戦場の端で、この光景を見ていた。

珠里が気づいて横を見た。

老吟遊詩人は黙っていた。

目が、どこか遠くを見ていた。


「邪道ですか」珠里が言った。


老吟遊詩人が少し間を置いた。


「………………」


「どうですか」


「………………まだ分かりません」老吟遊詩人が言った。


「でも」


「でも?」


「……体が、少し動きました」


珠里は前を向いた。

笑った。


大型魔物が残っていた。

群れの中で一際大きい個体だった。


ギルド連合が集中した。


クロムが前に出た。


剣を構えた。


後方からアルトの声が届いていた。


クロムの首が、縦に動いた。


今日は止めようとしなかった。


止めなかった。


踏み込んだ。


今日一番の速さで。

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