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第七章 塔の秘密

 裏側への迂回路は険しかったが、見つかることはなかった。

 エルネの判断は的確で、見張りの死角を縫うようにして塔の裏手に回り込んだ。裏側には見張りが二人だけいた。エルネは信じられない素早さで二人を気絶させた。音もなく、一瞬のうちに。

 ルードは思わず息を飲んだ。訓練で剣を学んだが、エルネの動きは訓練というレベルをはるかに超えていた。

「凄い」

「気を抜くな」エルネは短く言った。

 裏の壁に、小さな扉があった。鍵がかかっていたが、エルネが何かを扉の隙間に差し込んで開けた。二人は中に入った。

 塔の内部は薄暗かった。壁から光が滲んでいるが、それだけだ。螺旋状の石段が上に向かって伸びている。

「上か下か」ルードは言った。

「感じろ」エルネは言った。「お前の感覚でどちらにいるかを感じろ」

 ルードは目を閉じた。父の気配。あるいは赤い光の方向。

 下だった。

「下だ」

「確かか」

「確かだ」

 二人は石段を降りた。地下に向かう石段で、降りるにつれて赤い光が強くなった。視覚でも感じられるほどになってきた。壁が微かに赤く照らされている。

 石段を降りきると、石造りの廊下があった。廊下の突き当たりに、扉があった。

 その扉の隙間から、赤い光が漏れていた。

 エルネが廊下に踏み込もうとした瞬間、ルードが腕を掴んだ。

「待て。人がいる」

 廊下の壁の陰に、人の気配がした。一人ではない。複数だ。隠れている。

「見張りか」

「わからない。でも待ち伏せの気配がする」

 エルネは少し考えて頷いた。「信じる。どうする」

「陽動ができるか。俺が先に行って、向こうの注意を引く。その間にエルネが別の方向から」

「無謀だ」

「いいから聞け」ルードは低い声で言った。「俺はここに来るべき理由がある。向こうにいる者はそれを知っているはずだ。俺が歩み出れば、すぐに攻撃はしないかもしれない。少なくとも一瞬は」

 エルネは黙った。反論の言葉を探しているようだった。だが見つからなかったのか、短く言った。「わかった。だが一瞬でも危険を感じたら即座に伏せろ。私が動く」

「了解」

 ルードは廊下に踏み込んだ。

 四人いた。廊下の両側の陰から出てきた。武装していたが、すぐには動かなかった。ルードの予測通りだ。

「アルヴェンの息子か」一人が言った。こちら側の言語を話していた。

「そうだ」

「来ることはわかっていた。だが予想より早かった」

「父はどこだ」

「扉の向こうだ。会わせてもいい。条件がある」

 その瞬間、エルネが側面から飛び込んだ。

 後の展開は一瞬だった。エルネは四人のうち二人を瞬時に無力化した。残り二人がエルネに向かった。ルードは魔導符を使った短剣で割り込んだ。

 戦闘は短かった。四人とも、床に伏せていた。

「腕の立つ護衛だ」一人がうめいた。「読めなかった」

「父に会わせろ」ルードは言った。

 男は床に伏したまま、扉を指した。「……ここに鍵がある」

 懐から鍵を取り出した。ルードが受け取って、扉に近づいた。

 扉を開けると、光が溢れ出た。赤い光ではなかった。純粋な、白い光だった。

 目が慣れると、広い部屋が見えた。

 部屋の中央に、男が座っていた。

 椅子に、鎖で繋がれていた。七年間の歳月を経て、見慣れた顔は老いていた。だが父だとわかった。目を見ればわかった。ルードと同じ目だ。

「父さん」

 父が顔を上げた。目に光が戻った。

「……ルード」父が言った。声が震えていた。「来てくれたのか」

「来た」ルードは言った。声が詰まった。七年分の感情が一気に込み上げてきた。「遅くなった。来るのが遅くなってすまなかった」

「いや、お前に来させたくなかった。ここは危険だ。なぜ来た」

「父さんを助けに来た。それ以外の理由はない」

 父は少し黙って、それから笑った。ルードが覚えていた、父の笑い方だった。

「似てきたな。俺に」

「そうか、よくわからないが」

 エルネが鎖を切るための道具を取り出した。鎖の錠前を確認して、外し方を調べ始める。

「まだ逃げられない」父が言った。「鎖の問題ではなく、この塔には仕掛けがある。この部屋から出ようとすると、感知される」

「どうすれば出られる」

「この部屋の封印を解く必要がある。それには……あの光が必要だ」

 父が視線を動かした。部屋の奥の壁に、小さな扉があった。そこから赤い光が漏れていた。

「あの扉の向こうに何がある」ルードは言った。

「三百年前に空から落ちてきたものだ」父は静かに言った。「大断絶を引き起こした源だ。それが今も生きている。そしてそれを解放する鍵が、お前たちの血の中にある。俺はそれを解放しようとして、捕まった」

「解放したら何が起きる」

「世界が一つに戻る」父は言った。「裂け目が消える。こちら側とあちら側の区別がなくなる。三百年前に割れた世界が、元に戻る」

 ルードは沈黙した。それが父の求めていたことだったのか。世界を元に戻すこと。

「その話は、歩きながら続けよう」エルネが言った。「ここは安全ではない。鍵が開いた。まず出て、状況を確認する必要がある」

 父の鎖が外れた。父は立ち上がろうとしたが、足がよろついた。七年間の幽閉で、体が弱っていた。ルードが支えた。父の体は軽かった。軽すぎた。

「一緒に歩ける?」

「歩ける。少し時間がかかるだけだ」

 三人は部屋から出ようとした。

 その瞬間、塔の上の方から大きな音がした。警報のようなものだ。

「感知された」エルネが言った。「急げ!」

 三人は廊下を走った。

 塔の中が騒がしくなった。足音が聞こえる。複数の人間が動いている音だ。

 石段を登り、裏の扉から外に出た。

 外はすでに夜になっていた。空に星が出ている。

 そして塔の周囲に、多くの人影が現れ始めた。


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