第六章 守り手の試練
二日目の昼過ぎ、二人は「守り手の関門」と呼ばれる場所に到着した。
それは峡谷の入り口だった。両側の崖が高く、その間を通る道幅は馬車一台が通れる程度しかない。道の入り口に、石でできた門が立っていた。門には扉がなく、ただ二本の柱が立っているだけだ。柱には紋様が刻まれている。
そして柱の横に、二人の人物が立っていた。
人間ではなかった。背丈は人間と同じくらいだが、体の質が違う。皮膚が僅かに光を帯びていて、目が白かった。白目も黒目も区別がなく、ただ白い眼球がある。服装は簡素で、腰に武器は持っていない。
「守り手か」ルードは小声でエルネに言った。
「そうだ」
二人が近づくと、守り手の一人が前に出た。言葉を発したが、こちら側の言語ではなかった。
「何と言った」ルードは言った。
「目的を問われている」エルネが守り手に向かって答えた。エルネはこちら側の言語を話せるようだった。
守り手がまた言葉を発した。
「光を持つ者のみ通れる、と言っている。証明しろ、と」
ルードは石板を取り出した。そして守り手に向かって歩み出た。
守り手はルードを見た。白い眼が動いた。そして守り手は右手を伸ばして、ルードの胸の前で止めた。何かを確認するような動作だった。
ルードは集中した。石板から何かを放出するのではなく、自分の内側から何かを放出するように意識した。訓練でやったことだが、今回は純粋に自分の体だけで。
胸の中心から、熱が生まれた。
守り手の白い眼が、一瞬、青く光った。
そして守り手は道を開けた。
エルネも同様に確認を受けて、通過した。
「上手くやった」エルネが言った。珍しく、少し感心したような声だった。「石板なしでやったな」
「石板を使うよりも、素直な感覚でやった方がいい気がした」
「お前の感覚は正しかった。守り手は道具に頼る者を嫌う。純粋な血の力を使う者だけを通す」
峡谷の中を歩いた。壁面に古い彫刻がある。大断絶以前の時代のものだろう、とエルネが言った。
彫刻には、人間と、守り手のような存在と、そしてルードが今まで見たことのない生き物が描かれていた。三者が何かを話し合っているような場面だ。
「これは大断絶以前の世界か」
「そうだと思われている。こちら側とあちら側が分かれる前の、一つだった世界の記録だ」
「一つだった」ルードは彫刻を見ながら歩いた。「つまり、もともとは別れていなかった」
「そうだ。三百年前の大断絶で、世界が二つに分かれた。裂け目はその境界線だ」
峡谷を抜けると、視界が開けた。
目の前に、広大な平原が広がっていた。そして遠く、中央に、塔が見えた。
黒い塔だった。高さは相当のもので、遠くから見ても存在感が圧倒的だった。周囲の景色から完全に浮いている。まるで大地から生えた牙のように、天に向かってそびえ立っていた。
「あれが」ルードは言った。
「中央の塔だ。父親がいるとしたら、あそこだ」
ルードは塔を見つめた。高い塔だ。それが光を反射して、遠くからでも黒く輝いて見えた。
そしてその塔の底のあたりから、微かに、赤い光が漏れていた。
ルードは息を止めた。あの光だ。七歳のときに裂け目の展望台から見た、あの赤い光。十二年越しに、ようやく正体が見える距離まで来た。
「行こう」ルードは言った。
エルネは頷いた。
二人は塔に向かって歩き始めた。
広大な平原の中を歩きながら、ルードは改めて周囲を見渡した。青みがかった空、銀色に光る草、遠くに見える奇妙な形の山々。そして中央にそびえる黒い塔。
これが父の見た世界だ。父は七年前に、この景色を見ながら歩いていた。
父は何を考えていたのだろう。何を求めていたのだろう。
商人だった父が、なぜこんなところに来たのか。マルクスは「クレントは封印の真実を調べようとしていた」と言ったが、それだけが理由なのか。他に何かあったのか。
「エルネ」ルードは歩きながら言った。「父は組織のために動いていたのか、それとも個人的な理由で動いていたのか」
エルネは少し考えてから答えた。「両方だと思う。組織の任務として向こう側に来たのは確かだ。だが、クレント・アルヴェンは任務を超えて動く人間だとマルクスから聞いている。個人的に知りたいことがあったのかもしれない」
「何を知りたかったのか」
「わからない。それを知るには、直接お前の父に聞くしかない」
そうだな、とルードは思った。会えば聞ける。会うために行くのだから。
日が傾き始めた頃、二人は塔の近くまで来た。
塔は遠くから見るより、さらに巨大だった。高さは百メートルを超えるかもしれない。基部の周囲を石壁が囲んでいて、入り口らしき場所が見えた。
入り口の前には人がいた。
複数だ。装備している。見張りだ。
「数えろ」エルネが低い声で言った。
ルードはさりげなく塔の周囲を見渡した。「入り口に五人。側面にも見える。合計で十人以上はいるかもしれない」
「正面から行くのは難しい。別の道を探す」
エルネが地図を確認した。塔の周囲を大きく迂回して、裏側に回り込む経路を探している。
「裏に回れそうか」
「不明だ。だがやってみる価値はある。今夜は塔の裏側を確認して、侵入口を探す。急いで突入することはしない」
ルードは頷いた。
だが同時に、赤い光が近くにあることを強く感じていた。塔の底から漏れるその光は、この距離になると、もはや視覚ではなく全身で感じるものになっていた。
あの光が何かを、ルードは知りたかった。マルクスも、エルネも、クリーネも、詳しい説明をしなかった。ただ「三百年前に空から落ちてきた何かだ」と言うだけで。
光の正体を知ることと、父を助けること。どちらが先かを考えながら、ルードは塔を見上げ続けた。
黒い石の表面に、赤い光が踊っていた。




