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終章 新しい世界の朝

 それから半年が経った。

 世界は静かに変わり続けていた。

 裂け目があった場所には今や草が生え、木が育ち始めていた。かつての境界線は、もはや地図の上でしか確認できない。人々は自由に行き来するようになった。

 最初は戸惑いがあった。こちら側の者とあちら側の者が初めて出会う場面では、言葉が通じないこともあった。文化が違うこともあった。誤解が生じることもあった。

 だが人々は適応していった。言葉を覚え、文化を理解し、新しい関係を築いていった。

 ミルヴェにも、あちら側からの者が訪ねてくることがあった。クリーネのように長年あちら側で暮らしていた者や、好奇心から探索しに来た若者たちだ。

 クタルはそういった者たちを率先して歓迎した。農家の仕事をしながら、村と新しい来訪者の橋渡しをする役割を自然に引き受けていた。

「俺は外に出るタイプじゃないけど、外から来た人を迎えるのは好きだ」クタルはルードに笑いながら言った。「性格に合ってる」

 父は健康を取り戻した。七年分の衰えは簡単には消えないが、ガルクの師匠の鍛冶場で手伝いをするようになってから、体が動くようになった。鍛冶の経験はないが、火を扱う補助や荷物の運搬くらいはできた。

 エルネはミルヴェに滞在していた。任務も終わり、組織への報告も済んで、しばらく休みを取っていた。

 ある朝、エルネが草原に出かけるというので、ルードも一緒に行った。

 あちら側の草原の一部が、今ではこちら側とほとんど区別がつかないほどになっていた。歩いていて境界を感じない。ただ広い草原が続いている。

「兄の手がかりがあった」エルネは歩きながら言った。

「本当に?」

「マルクスから連絡が来た。あちら側に長く滞在している者の中に、それらしい人物がいるという情報が入った。まだ確認できていないが」

「会いに行くのか」

「そのつもりだ。来週、向かう」

「一人で?」

 エルネは少し間を置いた。「どういう意味だ」

「一緒に行こうか、と言いたかった」

 また間があった。エルネらしい間だった。

「鍛冶師の修業はどうする」

「師匠に相談する。ガルクは『帰れ』と言うかもしれないが」

「言うだろうな」エルネは苦く笑った。「だがお前が行くと言えば、また短剣を打ち直して持たせるだろう」

「そうかもしれない」

 草原の風が吹いた。銀色の草が一斉に揺れた。

「来てくれるなら、来ていい」エルネは言った。「役に立たなくても文句は言わない。ただ足を引っ張るな」

「最大限努力する」

「十分だ」

 空を見上げた。青い空だった。こちら側と、もうほとんど区別のつかない青空だ。

 ルードは改めて考えた。半年前、ガルクから貰った短剣を持ってミルヴェを出た日のことを。裂け目を渡る前の夜、展望台で初めて赤い光を見た七歳の頃のことを。父が消えた日の記憶を。

 すべての記憶が繋がって、今ここに立っている自分がある。

「エルネ、ありがとう」ルードは言った。

「何が?」

「一緒に旅してくれたことと、護衛してくれたことと、剣を教えてくれたこと全部だ」

 エルネはしばらく黙っていた。それから短く言った。「お前が役に立ったから問題ない」

 それがエルネの感謝の受け取り方だとわかった。ルードは笑った。

 草原を歩き続けた。

 向こうに、かつての渡り機があった場所が見えた。今はただの丘になっていた。だが、ルードにはそこが特別な場所だとわかった。世界が変わった場所だ。

 その先に、広大な世界が続いていた。

 もう境界線はない。どこへでも行ける。何にでもなれる。

 ルードは深呼吸した。

 風が吹いた。

 新しい朝の空気を全身で感じながら、ルードは前に歩き続けた。


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