第十二章 帰還の道
裂け目が消えた世界は、予想よりずっと静かだった。
爆発もなく、混乱もなく、ただ静かに変化が起きた。こちら側の生き物たちが戸惑っているのは感じられたが、ヴァルムの部下たちが各地に連絡を取って情報を伝えていた。
「最初から言われていたことだが」エルネが言った。「裂け目がなくなっても、統合はこれから始まる。長い時間がかかる」
「そうだな」ルードは言った。「でも始まった」
渡り機は必要なくなった。どこからでも歩いて向こう側に行けるようになった。というより、「こちら側」「向こう側」という概念自体が消えつつあった。
ルードと父とエルネは、かつて渡り機があった場所に向かった。地下に降りると、柱はまだそこにあった。だが光は出ていなかった。役目を終えた柱だ。
「ここから歩いて帰れる」エルネが確認した。「距離はあるが、問題ない」
三人は歩き始めた。
旅は往路より穏やかだった。守り手の関門を通ったが、守り手たちは静かに道を開けた。変化を感じているのか、表情が柔らかかった。
クリーネの草原に差し掛かった。
老人はいつもの場所に座っていた。だが今日は地面に何も書いていなかった。ただ座って、空を見上げていた。
「クリーネ」エルネが声をかけた。
老人が振り向いた。目に涙の跡があった。
「感じた」老人は言った。「裂け目が消えた。四十年ぶりに、向こう側の気配がした」
「帰れる」ルードは言った。「もう渡り機は必要ない。どこからでも帰れる」
老人は長い間黙っていた。それからゆっくりと立ち上がった。
「……四十年ぶりに帰れるか」老人は空を見上げた。「何もかも変わっているだろうな。俺が知っている者はほとんど死んでいるだろう。故郷の村も変わっているだろう」
「変わっていても、帰れる場所がある」
老人はルードを見た。長い間。そして微かに笑った。
「そうだな。行こう」老人は杖を持って立ち上がった。「案内してくれるか」
「もちろん」
四人になった一行は歩き続けた。
数日かけて、かつての渡り機の場所を通り、さらに歩いて向こう側の世界に出た。
境界は感じられなかった。ただ歩いているだけで、気づけば向こう側になっていた。空の色が少し違うことでわかったが、その違いも日ごとに薄れているように感じた。
王都グラニスへの道に入った頃、ルードは改めて周囲を見渡した。
見慣れた木々。見慣れた道。だが何かが違う。
「空気が違う」ルードは言った。
「そうだ」エルネは言った。「こちら側の空気も変わった。二つの世界が混ざり合い始めている」
父が言った。「これが統合の始まりだ。何年も、何十年もかけて、二つの世界は一つになっていく。俺たちはその最初の世代だ」
クリーネはずっと無言で歩いていた。だが目は好奇心に輝いていた。四十年前に去った世界が変わっている様子を、全身で感じ取っているようだった。
王都が見えてきた頃、エルネが初めて個人的なことを話した。
「私の兄がいた」彼女は歩きながら言った。「二十年前、裂け目を渡って帰ってこなかった。組織に入ったのはそのためだ。兄を探すために。でも見つからなかった」
「今は?」ルードは聞いた。
「わからない。生きているかもしれない。死んでいるかもしれない。だが、世界が一つになれば、探す範囲が広がる。可能性が生まれる」
「見つかるといいな」
「そうだな」エルネは静かに言った。「そのために生きてきたから」
グラニスに着いた夕暮れ時、マルクスが出迎えた。
老人は走れないが、速足でルードたちに近づいてきた。そして父を見て、立ち止まった。
「クレント」
「マルクス」父は言った。「心配をかけた」
マルクスは何も言わなかった。ただ父の肩を両手で掴んで、強く握った。それだけで、七年分の言葉が伝わったように見えた。
ルードは少し離れてその場面を見ていた。
隣にエルネが来た。
「任務完了だ」エルネは言った。
「そうだな」
「お前は良くやった」
「エルネが護衛してくれたから」
「私の護衛がなくても、お前は何とかしたと思う」エルネは言った。珍しく、率直な評価だった。
ルードは笑った。「そんなことはない。何度も助けてもらった」
「では、お互いに助け合った」
「それが正しい」




