第十一章 封印解放
夜明けとともに、ヴァルムが来た。
塔の地下に全員が集まった。ヴァルムとその部下たち、ルード、エルネ、父。地下の部屋は広かったが、それだけの人数が入るとさすがに狭く感じた。
石は相変わらず赤く光っていた。
「準備はいいか」ヴァルムが言った。
「いい」ルードは言った。
父が前に出た。「俺も触れていいか」
「もちろんだ」ルードは言った。
父とルードが並んで石の前に立った。エルネが後方で待機していた。ヴァルムが少し離れた場所で腕を組んで立っていた。
「一緒に触れよう」ルードは父に言った。
「ああ」
二人の手が石に触れた。
光が変わった。赤い光から、白い光へ。それから金色に。部屋全体が金色の光に包まれた。
ルードの意識が再び別の場所に飛んだ。父も同じ場所にいた。あの広大な暗い場所だ。今度は父も一緒だった。
光の存在がそこにいた。今度は形が少し定まっていた。球体に近い形で、全体が白く輝いていた。大きさはルードの倍ほどあった。
「準備ができたか」ルードは言った。
肯定。強い、喜びの感覚が来た。三百年間で初めて感じる喜びだ、という意味が伝わった。
「行こう。ゆっくりでいい。急がなくていい」
光が動いた。膨らみ始めた。ルードと父を包むように広がった。そしてそれは更に広がった。部屋全体を、塔全体を、平原を、裂け目を、世界全体を包み込むように。
ルードは目を閉じた。
自分の全身から何かが流れ出ていく感覚があった。痛みではなかった。むしろ解放感だった。何かがルードを通り抜けて、外に流れ出ていく。それが光の存在の力を増幅させているような感覚があった。
父からも同じものが流れ出ていた。二人の血が共鳴して、光の存在の力を引き出していた。
どれくらいの時間が経ったかわからなかった。
そして、何かが変わった。
世界が一呼吸した、という感覚だ。大きく、深く、一度だけ。
意識が戻ってきた。
部屋にいた。石はあった。だが光が変わっていた。赤くも白くも金色でもなく、穏やかな、乳白色の光になっていた。
エルネが言った。「外を見ろ」
全員が地下から石段を登って、外に出た。
空が変わっていた。
こちら側の空の藍色が薄くなっていた。少しずつ、ルードが知っている空の青さに近づいていくような変化だ。はっきりした変化ではない。だが確かに変わっていた。
そして遠くの地平線の方向に、裂け目があった。
裂け目が光っていた。赤い光ではなく、乳白色の光で。
全員が無言でそれを見ていた。
徐々に、裂け目の光が変化した。縮んでいるわけではない。むしろ広がって、薄くなって、透明になっていくような感じだった。
「閉じていく」ヴァルムが静かに言った。「裂け目が閉じていく」
それは何時間もかかった。ゆっくりと、静かに、世界の傷跡が癒えていく。
夜が来て、翌朝が来た。
朝の光の中に、裂け目はなかった。
大地が一続きになっていた。かつて裂け目があった場所には、薄い草が生えていた。三百年の分断の後、大地が自然に繋がっていた。
「終わった」父が言った。
ルードは頷いた。
エルネは空を見上げていた。その表情には、今まで見たことのない何かがあった。ルードには何と呼べばいいかわからなかったが、きっと解放、という感情だった。
ヴァルムが口を開いた。「私が間違っていた、とは思っていない。だが、お前の判断が正しかった、ということも認める」
「どちらが正しかったかより、どういう結果になったかの方が大事だと思う」ルードは言った。
「哲学者のようなことを言うな」ヴァルムは苦く笑った。「父親に似ている」
「そう言われた」
空気が変わっていた。風の匂いが違う。三百年間の分断が消えて、二つの世界が一つになった瞬間の空気だ。
ルードは初めて、本当に深呼吸した気がした。




