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遭難宇宙船のBMG

掲載日:2026/03/01


 1

 

 「うわー! アルテミス号だー!」

 「こら! 【ソラ】! よそ見しないで」

 「見てよママ、あんなに大きいエンジンが三つも付いてるよ。新型のイオンエンジンと、二つのパルスエンジンで、光速の四倍の速度を出すんだって」

 青い星を背にして、白い筒状の宇宙船が横向きの姿を見せている。宇宙船の周りには大小四つのロボットアームが(せわ)しなく動き、パーツを取り付けている。宇宙船の背中には、宇宙服を着た人が、身振り手振りで指示を送っていた。

 「ほら、もう行くよ」

 「あと八年で完成するらしいよ。初飛行見たかったなー。僕たちの乗る船は準光速船(じゅんこうそくせん)で、光速の九十九パーセントで飛ぶんだ。光速船に乗りたかったなー」

 「そうしょげるな。コールドスリープから目覚めたら、もっといい宇宙船が待っているさ。それに準光速船の方が安全性が高いんだ。光速飛行中に事故が起きたら、ひとたまりもないからな」

 「いいから、二人とも行きましょ。置いてかれちゃうわよ」

 ソラと両親は、前を歩く列を追いかけた。列の先頭は誘導ロボットだ。体に()め込まれたモニターには、ジョバンニ星行きラッコ号と表示されていれる。

 彼らは開拓者だ。人が住める星に入植するために、遠い星へ旅立つ。理由はそれぞれだが、誰しもが豊かな自然の中で生きることを夢見ていた。百人の開拓団の足取りは軽い。

 


 〈準備のできた方から、コールドカプセルに入ってください。繰り返します――〉

 機械音声が、沢山のカプセルが設置された、大きな部屋に流された。

 「【ウミ】、じっとしなさい」

 「だって狭いんだもん」

 「ちょっとの我慢よ」

 「五十年がちょっとなの?」

 「眠っている間の意識はないわ。目を開けたら五十年後よ」

 「お母さんより私が歳上になるね」

 「お母さんも同じだけ歳を取るのよ」

 「あっ、そっか。私ね、ジョバンニ星に着いたら、海でいっぱい泳ぐんだ」

 「ジョバンニ星には、ウミが泳ぎ切れないほど、広い海があるぞ」

 「楽しみで待ちきれないよ。早く着くといいなー」

 「ウミ、おねしょすんじゃないぞ」

 「お父さんのバカ! 私はもう十二歳なんだから、おねしょなんてしないよ!」

 「ハハハ、おやすみ、ウミ」

 「……おやすみ、お父さん、お母さん」

 透明の蓋が閉じると、コールドカプセルの中に白い煙が立ち込め、ウミはすぐに意識を失った。

 


〈全乗員はすぐに起きてください。繰り返します、全乗員は起きてください〉

 「……うーん……着いたの?」

 ボリュームの大きい機械音声がウミの意識を覚醒させた。硬くなった上半身を、ギシギシと音を立てながら起こした。部屋の照明は暗く、赤いランプが灯り、眠る前とは雰囲気が全く違っていた。その中でもウミが一番不思議に思ったのは、全てのコールドカプセルの(ふた)が開いているのに、自分と同い年くらいの男の子一人しか、起きていなかった事だ。ウミは一番近くのコールドカプセルを確認した。そこには母親が眠っていた。肌は真っ白で、氷で作られた人形のようだった。隣のコードカプセルには父親が、同じように真っ白な顔で眠っていた。

 「お父さん、お母さん、起きて! ねえ、起きてよ!」

 ウミはコールドカプセルで眠る両親を()さぶったが、硬い体は反応を示さず、目は(つむ)ったままだ。

 〈当船は予期せぬ事態により、異常が発生しました。コールドカプセルに悪影響が起きた可能性があります。起きている乗客の方は、コールドカプセルに入っている全乗客の意識を確認してください〉

 ウミは驚いて船のスピーカーに向かって言った。

 「えっ!? コールドカプセルの悪影響ってどういうこと!?」

 〈コールドカプセルに送る電力が長時間途絶えていた可能性があります。その場合、コールドカプセルの中に入っている人は、死亡してします〉

 「そんな……起きてよお父さん!! お母さん!!」

 〈起きている乗客の方は、コールドカプセルに入っている全乗客の意識を確認してください〉

 ウミは両親から離れて、他のコールドカプセルの確認を始めた。時間が経てば両親は眼を覚ますかもしれない。ウミはこれ以上、動かない両親に触れていたくはなかった。

 


 「動いた人はいた?」

 ソラは自分以外で、一人だけ起きている女の子に声をかけた。その子の目は、涙で(うる)んでいた。ソラも死んだとしか思えない、両親を見た後だったので、泣き出したい気持ちだったが、女の子を前にして泣きたくなかったので、ぐっと(こら)えていた。

 「いない……皆んなカチンコだった――」

 「そっか……船のコンピュータに報告しようか」

 二人は機械音声と同じ文章が表示されている、モニターの前に立って言った。

 「全部確認したけど、起きてる人はいなかったよ」

 〈了解しました。では、緊急事態としてお二人に船長の権限(けんげん)付与(ふよ)します。お二人はコントロールパネルで生体認証(せいたいにんしょう)を行なってください〉

 「船長の権限って……船員はどうしたの?」

 〈一般乗員にはお伝え出来ません。船長の権限を付与します。コントロールパネルで生体認証を行なってください〉

 「ねぇ……これって――」

 「登録しよう。そうすれば分かるよ」

 ウミは最悪の事実を聞かされるような気がして、体が震えだした。二人はコントロールパネルで、指紋(しもん)眼球(がんきゅう)の認証を行った。

 〈認証を終了しました。乗員ID1031、ソラを船長とします。乗員ID1087、ウミを副船長とします。現在この船の生存者はお二人だけです。船の目的地到着のためにご協力ください〉

 「えっ!? ()()()()()()()()!!」

 「嘘でしょ!?」

 〈残念ながら事実です。当船は三カ月前に太陽フレアの影響で船体に重大なダメージを受けました。その影響で船員は全員死亡したと思われます。生存の可能性があったのは、コールドカプセルの中の乗員だけです〉

 「どうして三カ月もコールドカプセルを開けなかったの?」

 〈太陽フレアの電磁波の影響でコンピューターが誤作動を起こしました。システムの再構築などの復旧作業に三カ月かかりました。その間、人工知能運行システム、AI型マザーコンピューター【カムパネルラ】は休止状態になっており、船内の状況は不明です。私が復旧するまでの三カ月の間に、船員は全員死亡したようです〉

 「コールドカプセルの人たちを起こす方法は無いの?」

 〈残念ながら凍死したと思われます〉

 「どうして僕たち二人は生き残ったの?」

 〈子供用カプセルは必要とする電力が少ないので、少量の電力でも機能を維持できたためだと考えられます。当船内の子供はお二人だけです〉

 「救難信号は出したんだよね? 救助はまだ来ないの?」

 〈フレアの影響で通信機材が破損したようです。救難信号が正しく発信されていません〉

 「そんな――」

 「直す方法は無いの?」

 〈それよりも優先して解決する問題があります。それは船内の気密です。現在当船は気密性に問題があり、空気が抜け出ています。今までは仮死状態だったので、空気が薄くても悪影響はありませんでしたが、起きて活動するうえで、空気は必要可決であり、当船には補充する方法もありません〉

 「僕たちで直せるの?」

 〈破損個所を直すのは簡単ではありません。破損したブロックを封鎖して、空気を漏れないようにします〉

 「それってコンピューターができないの?」

 〈シャッターの部分で人間が引っかかっています。死亡している可能性が(きわ)めて高いですが、確認できていないので、シャッターを完全に閉じることが出来ません。人間の体を移動させる必要があります〉

 「まぁ、無重力なら簡単だけど……」

 〈そのブロックは現在真空状態です。作業には宇宙服を着用する必要があります。子供用の宇宙服がこの部屋にあるので、着用してください。その際、事故の影響で、破損していないかよく確認してください〉

 

 

 ソラは部屋のロッカーから子供用宇宙服を取り出し、ウミに手伝ってもらいながら着用した。

 「私、ウミっていうの。貴方は?」

 「僕はソラ。まさかこんな形で初めての船外活動をやることになるなんて――」

 「真空だけど船内なんじゃないの?」

 「そっか……じゃあ、準船外活動だね」

 ソラは宇宙服を着ると、コールドカプセルの部屋を出た。ウミは手を振ってソラを見送った。

 ソラは廊下をカムパネルラの指示に従って進む。船尾に向かう、三つ目の扉の前で、カムパネルラがこう言った。

 〈この先が真空ブロックになります。先に進むには、この部屋を封鎖し、気圧を下げる必要があります。もし、宇宙服に不備があればすぐに教えてください〉

 「分かった」

 ソラは宇宙服の腕に取り付けられた、モニターを注視した。周囲の気圧が少しずつ下がっていき、気圧を示す数字の色が緑色から黄色に、さらに赤色に変わった。

 〈ソラ様、体調不良はございませんか?〉

 「うん、大丈夫」

 〈それではD5の扉を開けます。物が散乱しているので、宇宙服が破損しないように注意してください〉

 扉は音も無く開いた。D5の部屋の中には大きな騒動の跡がハッキリと見えた。宙に散乱しているものだけじゃなく、壁の隅に無重力で移動しないように固定された物が、乱れているのを見ても、この船に大きな衝撃があったのが分かる。

 ソラは宙に浮く物をかき分けながら、先に進んだ。そして、散乱した机などに、天井に押される形で挟まっている船員を見つけた。コールドカプセルに入る前に見た、オレンジ色に白い線が斜めに入った服だ。出発前に全搭乗船員が、あの服を着て、船の前に並んで移民たちを迎えてくれた。宇宙飛行士を目指すソラにとって、憧れの姿だったが、彼らは全員死んだらしい。

 (あれか……荷物に固定されているから、荷物をどかさないといけないな)

 ソラは無重力での作業の経験はあったので、苦も無く机などをどかした。そして、天井に浮く船員に触れた。

 (見た目は死んでから三カ月たったとは思えないけど……体はコールドカプセルの中の人みたいに硬い)

 ソラは死体を引っ張てシャッターから離した。その時、ソラは部屋の奥が目に入った。奥では廃棄場のように物が山済みになっていた。山の中には、人の腕や足も見えた。

 (空気があそこから漏れ出して、みんな引っ張られたんだ――)

 〈作業の終了を確認しました。D5から退出してください〉

 ソラはカムパネルラの指示に従って、一つ前の部屋に戻った。D5の扉は閉じられ、名も分からない船員ともお別れした。

 〈お疲れさまでした。空気の漏れを遮断できたことを確認しました。これで乗員の活動範囲が増えました〉

 「ぼくはコールドカプセルの部屋に戻ればいいの?」

 〈はい、次の行動を指示しますのでコールドカプセルの部屋に戻ってください〉

 


 「お疲れ様! 無事で良かったよ! 私ひとりじゃ心細いもん」

 「大した作業じゃなかったよ。無重力化の作業は学校の授業で経験あったし」

 歓喜する二人をよそに、カムパネルラが次の指示を出した。

 〈次に解決する問題は死体の処理です。現在はコールドカプセル内で凍っていますが、常温になると死体は腐敗します。真空であれば腐敗はしません。全ての死体を先ほどのD5の部屋に移動させてください〉

 「「ええっ!!」」

 「コールドカプセルの中に入れたままじゃダメなの?」

 〈当船は電力が不足しています。生存者が無事航海を終えることを優先し、死体のために電力を消費することを推奨しません〉

 「そんな……治療すればまだ生き返る可能性があるんじゃないの?」

 〈たとえ現在生存していても、救護船がいつ到着するか分からない状況です。仮死状態で保存しておくことを推奨できません〉

 冷たいカムパネルラの宣告にウミは黙ってしまった。

 「……どうしても決心がつかないなら、君の両親だけはそのままにしておこうか?」

 「ソラの両親はどうするの?」

 「僕は……諦めたよ――」

 「……私の両親だけ残しておくなんて、できないよ――」

 「船の外に捨てるわけじゃないんだ。いつでも会えるよ」

 「それ、慰めてるの?」

 「えっ、そうだけど……」

 「あんまセンスないね……ぷっ」

 「アハハハ」

 「アハハハ」

 二人は涙を流して笑った。それで気持ちがスッキリとした二人は、明るい表情で作業を始めた。次々とコールドカプセルの中から凍った乗客をD5の部屋の前に運んだ。全ての乗客を運び終えると、ソラは再び宇宙服を着た。

 「私も宇宙服を着て手伝おうか?」

 「僕一人でやるよ。宇宙服の酸素も貴重だろうし」

 「そっか……じゃあ、後よろしく」

 ウミは両親の顔を見ることなく部屋から出て行った。顔を見れば泣いてしまうと思ったからだった。

 カムパネルラが気圧を調整して、ソラはD5の部屋に入っていく。

 (ウミはとても良い子です。僕が二度と泣かないように頑張るので、ここで見ていてください)

 ソラはウミの両親をD5の部屋に押し込むときに心の中で誓った。

 


 2


 〈お疲れ様でした。次は工具を使用します。この部屋に設置されているはずなので、コールドカプセルの部屋に持ち出してください〉

 気圧が戻り、宇宙服のヘルメットを外したソラの耳に、カムパネルラの声が聞こえた。

 「体を動かして汗かいちゃったよ。ちょっと休憩したいんだけど?」

 〈少量の休憩時間なら問題ありません。しかし、問題を解決しないまま時間が経過すると危険です〉

 「次の問題はなに?」

 〈当船では安全な水と食糧が不足している可能性があります。早急に確認するべきです〉

 「それは大変だ! お腹が減ったら動けなくなるじゃないか!」

 ソラは慌てて部屋にある工具を探し始めた。気圧が戻ったので部屋の扉を開けて、ウミが入って来た。ソラに事情を聞いたウミと一緒に、両手いっぱいにカムパネルラに指示された工具を持ってコールドカプセルの部屋に移動した。


 

 〈扉を開けるための工具は問題なく使えますね?〉

 「たぶん……壊れてはなさそうだけど――」

 〈それでは、それを使ってキッチンルームの扉を開けてください〉

 「キッチンルームの気圧は正常なんだよね?」

 〈はい。キッチンルームの気圧に異常はありません。内部にはカメラが設置されており、状況は確認できます。現在は電力が復旧していますが、扉を開けることが出来ません。物理的に破損している可能性が高いので、工具で扉を開けてください〉

 「キッチンかー、美味しいものあるかな」

 「豪華客船じゃないし、標準的な宇宙食しかないと思うよ」

 


 二人はカムパネルラの指示に従って、キッチンの扉の前にやって来た。

 「うーん……開かないな。カムパネルラの言う通り、故障したみたいだ。工具を使おう」

 「閉められた扉を開けるなんて、泥棒みたいだね」

 「それなら、警察に捕まえに来てほしいね」

 ソラは工具を使って扉を外し、キッチンルームに入った。中では食器や調味料が入った容器が宙に散乱していた。

 「あっ! これは砂糖だよ! 良かった、甘い物だ!」

 「調味料だけじゃお腹は膨れないよ。調理場や冷蔵庫に食品があるといいけど――」

 二人は物をかき分け、奥の調理場に向かった。

 「刃物が浮かんでいるかもしれないから気を付けて」

 「うん。それと、鍋に頭をぶつけないようにもね」

 「これ……冷蔵庫だよね。開けるよ」

 「……なんか、色が悪いね」

 「電力が遮断している間に、腐ったんだ……」

 「じゃあ、食べられるのは味気ない宇宙食だけ?」

 「そうだね……カムパネルラ、食料はどこに保存してるの?」

 〈D5の先にあるE5です。しかし、E5は激しく損傷しており、有害物質で汚染されている可能性があります。摂取することは推奨しません〉

 「えっ……じゃあ食べ物はこれだけ?」

 〈その可能性はあります。キッチンルームの探索が終了しましたら、他の損傷を受けていない部屋の捜索を推奨します〉

 「他にはどんな部屋があるの?」

 〈一番大きなのは中央ロビーです。自販機が設置されており、飲料の補給は見込めます。他は船員の部屋が五部屋あります。冷蔵庫などは備え付けられていないので、食料の調達の可能性は低いですが、カメラが設置されていないので、部屋の状況は不明です。船員の死体がある可能性もあるので、注意してください〉

 「それは注意しないとだめだね」

 「……三カ月前の死体だよね?」

 〈三時間前まで、当船の全域は低温の真空状態だったので、死体の損傷は進んでないと思われます〉

 「だといいけどね。どちらにしても死体は早く見つけた方がいいね」

 「うー、食料は無くて死体があるなんて最悪だよー」

 


 二人は船員の部屋を探索した。酒と菓子類を見つけることが出来た。そして、死体も見つかった。カムパネルラの予想道理、遺体の腐敗は進んでいなかった。

 「外傷は無いな……ただ、表情はかなり苦しそうだ」

 「真空状態だったんだから、窒息死かな?」

 「たぶんね。電力が消えて、扉を開けられず外に出られなかったんだろう。もしかしたら机の紙に、事故当時の事が書かれているかもね」

 「後で読んでみる?」

 「いや、部屋から出られなかったんじゃ、大したことは書かれてないと思うよ。読まない方がいいかも」

 船員の死体をD5の部屋に入れると、二人は中央ロビーに向かった。中央ロビーは、白に赤い水玉の机と青い造花が、落ち着いた雰囲気を演出していた。ウミは二台設置されている自販機の、ジュースを飲もうとした。

 「カムパネルラ、自販機からジュース出してよ」

 〈残念ですができません。その自販機はネットワークに繋がっていません〉

 「えー、お金持ってないよ。工具で壊す?」

 「……船員室にあったお金を持ってこよう。壊したら必要になった時に、直すのが大変だからね」

 「そうだね、なんかいい使い道を思いつくかもしれないし」

 二人は船員室からお金を持ってきて、自販機に入れた。商品のランプが点灯した。

 「ちゃんと動いてるね」

 「細密な機械じゃないから、簡単には壊れないよ」

 二人は目が覚めてから動き続けていたので、ジュースを飲みながら、ゆっくり休むことにした。

 「カムパネルラ、結局食べ物を見つけられなかったけど……これってヤバいよね?」

 〈残念な結果ではありますが、想定はしていました。すでに対策も検討済みです〉

 「えっ! そうなの! なんだ、良かったー! 実はお腹すいてきたんだよね」

 「実は僕も。カムパネルラ、どこに食べ物があるの?」

 〈当船にはバイオテクノロジーで作られた備品もあります。例えば、キッチンルームに備え付けられた、カーテンは百パーセント植物で作られています。毒性がないので食べられます〉

 「待って! 想像と違った……」

 〈カーテンがお気に召さないのでしたら、コールドカプセルはどうでしょう。コールドカプセルには動植物で成形された部品が使われています。スプリングや配線コードの一部は食用にできます〉

 「確かにバイオコードはあるけど……嚙み切れるかな――」

 〈バイオコードは熱することによって柔らかくなる、との情報があります〉

 「うぅー、他に無いの?」

 〈食料が期待できる場所の情報はあります。しかし、そこは宇宙服での作業が必要で、現状のお二人の疲労度では、危険な行動です。推奨できません〉

 「……食べてみようか、コールドカプセルご飯」

 「完成までにもっといい名前考えようよ」

 


 ソラとウミはジュースを飲み終えると、コールドカプセルの部屋に向かった。

 「カプセルの解体は、ここにある工具だけでできるの?」

 〈はい。元に戻す必要はないので、食べられない部品は壊してかまいません。私の指示に従って解体してください。まずは蓋を取り外します。ドライバーを使用してください〉

 「ソラは器用だね。こういう作業よくやってたの?」

 「うん。工作は好きなんだ。それに、将来は宇宙飛行士になろうと思ってるんだ。……君はもう少し力を抜いて工具を使った方がいいいよ。そんなに壊す必要はないんだから――」

 「早くご飯を食べたくて。宇宙飛行士になりたいんだー、私は漁師になるのが夢なの」

 「ジョバンニ星は海が広いらしいから、沢山魚が釣れると思うよ」

 「私、魚料理が大好きなんだ。ソラは魚好き?」

 「うーん……あんまり」

 「そっかー。けど大丈夫、私がジョバンニ星でおいしい魚料理ご馳走してあげるから」

 「楽しみにしておくよ」

 「あっ! そういえば、カムパネルラ! ジョバンニ星まで後どの位の距離なの?」

 〈ジョバンニ星に到着するまで、九十年ほどです〉

 「ええ!? 最大でも五十年で着くんじゃないの?」

 〈現在当船は電力供給に異常をきたしています。電力の逆流による駆動機関の故障を防ぐために、通常の十パーセントの速度で目的地に向け航行しています〉

 「それは修理できるの?」

 〈可能性はあります。しかし、今は食料の確保を優先するべきです〉

 「ちなみに通常の速度で運行すると何年なの?」

 〈十五年ほどの距離です。最も、当船は損傷しており、通常出力での運航は推奨しません〉

 「じゃあ、少なくとも十五年はこの船で暮らすってことだよね?」

 〈通信装置の修理ができれば、救難信号を出すことができます。その場合は数年で光速船が救出に来るでしょう〉

 「……この話、もう止める」

 「ずっと起きてる必要はないよ。船の修理が終わればコールドカプセルに入ればいいんだから」

 「コールドカプセルには、できればもう入りたくないな……」

 ソラとウミはカムパネルラの指示に従って灰色のヌメヌメするコードと、弾力のあるスベスベのスプリングを持って、キッチンルームに向かった。


 

 3


 「これは【青こんにゃく】と呼ぼう」

 「()()()()()? こんにゃくって何?」

 「この前テレビで見たんだけど、辺境の星で作られてる料理だよ」

 「どうやって食べるの?」

 「私が見た時は、鍋で熱々にして、顔に押し付けてた」

 「食べないの!? 意味が分からないんだけど――」

 「こっちは【ねじれ軟骨】」

 「そっちはそのままなんだ……」

 「だって、見た目がどう見ても軟骨なんだもん。そのまま食べられそう」

 「衛生的にどうなのかな? カムパネルラ、生で食べられるの?」

 〈消化不良を起こす可能性があるので推奨しません。沸騰(ふっとう)したお湯で、五分以上茹でてから食べることを推奨します〉

 「水はコールドカプセルから取り出した分で足りるかな?」

 「僕たちが飲む分も必要だから、ロビーの自販機からとってくるよ」

 「分かった、そっちはお願い。私は鍋を茹でとくね。下味とかつけなくていいかな?」

 「調味料なら沢山あるから、後でつけてどれが合うか試してみようよ」

 「そっちのほうがいいかもね。調味料も集めとくよ」



 十分後、茹であがった青こんにゃくとねじれ軟骨を皿によそって、ソラとウミはキッチンルームのテーブルに座った。

 「うわぁ……ねじれ軟骨に青こんにゃくの色が移っちゃってる……」

 「今後どうするか考えないとね。水は貴重だから、別の鍋で茹でるのは避けたいし」

 〈電力も貴重なので最低限の過熱を推奨します〉

 「とりあず、そのまま食べてみようよ。私、お腹すいちゃったし」

 「お先にどうぞ」

 「それじゃ……青こんにゃくから、いただきまーす。モグモグ……うーん、思ったより苦い」

 「えぇ……カムパネルラ、本当に食べられるんだよね?」

 〈――〉

 「カムパネルラ?」

 〈私の持つ情報では、現在他に食用できるモノは()()しかありません〉

 「分かったよ、もうこの質問はしない……僕はねじれ軟骨を食べるよ。モグモグ……噛み切れないし、味がしない……」

 「青こんにゃくは噛めば噛むほどえぐみが出て、美味しくなるよ」

 「モグモグ……それって美味しいの? モグモグ……」

 「味変で調味料かけてみよっと。どれにしよーかなー。砂糖は最後にするとして……やっぱり胡椒(コショウ)かな」

 「モグモグ……僕も胡椒がいいな。モグモグ……ねじれ軟骨は叩いて柔らかくしてから、調理したほうがいいかも――」

 「食後に口直しのお菓子食べる?」

 「貴重なお菓子だから残しておこうよ」

 「そうだね。誕生日とかに食べたいもんね」

 ソラとウミは調味料の力を借りて、鍋で茹でた青こんにゃくとねじれ軟骨を平らげた。

 

 

 〈当船が運航を完遂するためには、完了しなければならない作業が複数あります。優先度の高い項目の一つが、ブリッジへのアクセスです。私は船の駆動機関へのアクセスができないように設計されています。しかし、お二人では船を正しく運航できないので、私が駆動機関を操作する必要があります。その為には、ブリッジに私がアクセスできるように、物理的に繋ぐことが最も簡単です〉

 「ブリッジはどうなってるの?」

 〈当船は重大事故が起きた場合、ブリッジは強制ロックされ、内部からしか開放することができません。また、ブリッジにはカメラが設置されていますが、現在、動作を停止しています。おそらく、激しく損傷したものと思われます〉

 「ブリッジはフレアの影響で破壊されたってこと?」

 〈可能性は高いですが、確証はありません。ブリッジにアクセスできなければ、この船の駆動機関にアクセスできず、お二人が生存している間にジョバンニ星に到着するのは絶望的になります。優先的に対処するべき問題です〉

 「よく分かったけど、どうやってブリッジに行くの? ロックは内部からしか開かないんでしょ?」

 〈外部からブリッジに行くことを推奨します。ブリッジは大きく損傷している可能性が高く、人が出入りできる可能性があります〉

 「えっ! 船の外からブリッジに入るってこと!?」

 〈それが最も可能性の高い方法です〉

 「危険じゃないの?」

 〈私の現在持つ情報では、それ以外の方法を見つけられません〉

 「もし、人が通れるほど、破損が大きくなかったら?」

 〈船外で爆発物を使用し、ブリッジに入ります。船内で爆発させるのは推奨できません〉

 「うっそー! 爆弾まで使うの! ファンタスティック!」

 「えぇー……そんな喜ぶことかな……宇宙船を壊すんだよ?」

 「漁の方法で、海中で爆弾を爆発させるってのがあるんだよ! 一回やってみたいと思ってたんだ、爆発!」

 「……魚を釣りたいんじゃないんだ――」

 「ねぇ、カムパネルラ! 爆弾の作り方を教えて!」

 〈爆弾を作るには材料を集める必要があります。材料の場所はD3エリアの医務室にあります。しかし、D3エリアは気密性が確保されておらず、真空状態です。宇宙服を着て医務室に向かってください〉

 ソラは宇宙船の船内地図を見ながら言った。

 「D3は船の左下の部分だね。ここも破損しているの?」

 〈当船は右側の被害は甚大ですが、左側の損傷は軽微です。最もそれは船の外壁のことです。フレアの磁気の影響で、内部の機械が悪影響を受けました。現在、私はD3のネットワークにアクセスできません。その為、D3にはカメラがありますが、映像を確認できません。D3内部の損傷が軽微だと、推測でお伝えしています〉

 「つまり、D3がどうなっているかはカムパネルラにも分からないんだね」

 〈医務室には爆弾に使う薬品だけでなく、お二人の健康を維持するためのサプリメントや、薬品が保管されています。医務室の物資なしにジョバンニ星にたどり着くのは、困難だと推測されます〉

 「確かにそうだね。青こんにゃくとねじれ軟骨とジュースだけだと、いつか体を壊すだろうし、医務室には行くしかないね」

 「そうだね……今度は私も行くよ。だってカムパネルラの指示もないんでしょ?」

 〈それは問題ありません。当船の宇宙服に私はアクセスすることができるので、宇宙服のカメラを通して映像を確認し、指示を出すことができます〉

 「それでも私も行くの! だって医務室から持ち出す物も多いんでしょ、一人じゃ大変だって!」

 「……もしかしてD5の時に、宇宙服着たかった?」

 「……実は着たことないの――」

 「へえー、珍しいね」

 「私も宇宙演習とか、実技受けたかったんだけど……お母さんが『貴方は慎重さが足りないから、大人になってからにしなさい』って――」

 「あはははは! 君の事をよく分かってるいいお母さんだね!」

 「……ふん!」



 二人は宇宙服を着てD3に入った。医務室にたどり着くまでに、死体と一つも出会わなかったのは、二人にとって喜ばしい事だった。

 医務室の扉は、開けっ放しになっており、中は沢山の薬品が入った瓶や、錠剤が入った袋が宙に浮いていた。

 〈医務室は緊急時に扉が解放されるようになっています。薬品が漏れ出している可能性もあるので、注意してください〉

 「カムパネルラは見ただけで薬品の種類が分かるの?」

 〈ラベルが貼られていれば種類を特定できます〉

 「そっか……とりあえず目に付くやつを一個ずつ持っていこっか」

 「僕は薬品を持っていくから、ウミはサプリメントを持って行って」

 「箱とパレットを用意しとけばよかったね」

 「根こそぎ持っていく必要はないよ。気温が低いここの方が保存がきくだろうし。この部屋にある袋に入れていこう」

 「あっ! あのベッド、凄く柔らかそう!」

 「……今度来た時に持っていこうね」

 〈酸素ボンベの残量に注意して、速やかに作業を終えてください〉



 ソラとウミは薬品などを持って戻り、宇宙服を脱いだ。

 〈お疲れ様です。もうすぐお二人が起床してから、十二時間が経過します。眠気はありませんか?〉

 「言われてみれば、ちょっと眠たい」

 「僕も、疲れてきちゃった」

 〈では今日の作業はこれで終了しましょう。夕食を食べた後、睡眠をとることを推奨します〉

 「そうね……せっかくサプリメント取ってきたし、これで味付けしてみようか」

 「えぇー……無重力だから粉状にはしないでね――」

 ウミの作ったビタミンサプリメントで味付けした、青こんにゃくとねじれ軟骨の味は今一つだったが、空腹感だけはなくなった。

 食後すぐに、二人は別々の船員の部屋のベットで眠った。



 〈睡眠を始めてから八時間が経過しました、起床してください。繰り返します――〉

 ウミは目が覚めた後、辺りを見渡した。眠る前と同じ、殺風景な船員の部屋だったことに落胆した。

 (全部夢だったらよかったのに――)

 「ウミ、おはよう。眠れた?」

 「ソラ、おはよう。疲れてたからぐっすり寝ちゃった」

 「僕も」

 〈お二人とも、おはようございます。体調に異常はありませんか?〉

 「大丈夫だよ」

 「僕も」

 〈それは良かったです。コールドカプセルから目覚めた後、時間が経ってから体調不良になる事例が報告されていますので、無理せず行動してください〉

 ソラとウミはキッチンで、朝食の準備を始めた。

 「サプリメントはスープにするとして、ねじれ軟骨は焼いてみよう」

 「カムパネルラ、焼いても大丈夫なんだよね?」

 〈当船には無重力空間でも焼き料理ができる、専用の調理器具があります。調理器具から専用の食事用パックに移す際に、火傷しないように気を付けてください〉

 「よし! ねじれ軟骨に塩コショウで下味を付けよう!」

 「僕は青こんにゃくを細かく切って、スープに入れるよ」


 

 二人は朝食を取った後、中央ロビーでカンパネラの指示に従って、爆弾を作った。

 「こんな簡単に作れるんだね」

 「これだけじゃ船を壊すほどの威力は出ないよ。これを使って誘爆させるんだ。そうだよね、カムパネルラ」

 〈その通りです。大規模な爆発の危険がある物を、このエリアに持ち込むことは推奨しません〉

 「そっか、ここで爆発しちゃったら、私たちが生活できる場所も減っちゃうもんね」

 〈次は爆弾を遠隔操作するための発信機を製作します〉

 二人は船員室にあった、携帯電話をカムパネルラの指示で改造し、爆破装置を作った。

 「ちゃんと爆発するかな?」

 「実験してみよう。カムパネルラ、どうすればいい?」

 〈船外で行うのを推奨します。しかし、爆発の威力は軽微だと思われるので、固い金属の中に入れていれば、被害は出ないとお思われます〉

 「硬い金属か……」

 「キッチンルームのお鍋じゃダメかな?」

 「あぁ、それでいいかも。キッチンには消火用の設備もあるし」

 二人はキッチンルームで鍋に爆弾と発信器を入れて、ロープで鍋を柱に縛った。その後、離れた机の下に潜り、カムパネルラに爆破の指示を出した。

 〈3……2……1……爆破信号を送ります〉

 カムパネルラの宣言から間もなく、鍋は爆発音と共に、ロープを振り払い飛び出した。鍋はキッチンルームの壁に当たりながら、激しく飛び回った。

 「やった! 成功だよ!」

 「やったね!」

 飛び跳ねて抱き合う二人に、容赦なく鍋は襲いかかった。



 4

 

 宇宙船の外に出るのは、船尾のF3からになったのだが、そこから管制室のある、A6まではかなり距離がある。船外活動用の小型機は、破損して使えず、船の外壁を伝って行くことになった。爆破装置と爆発物を運びながらの作業になるので、失敗しないように練習を行うことになった。

 ソラとウミは体にロープを括り付け、船外に出て、爆破の演習を一週間行った。

 「カムパネルラ、練習はもう必要ないと思うんだけど?」

 〈ソラの現在の作業精度は、爆破作業を成功させる条件を、満たしていると推測されます〉

 「やったね、ソラ!」

 「うん。明日、爆破を行うよ」

 「じゃあ、明日の朝ご飯は特別製にしてあげる!」

 「青こんにゃくのプロテイン煮込みだけは止めてよね……」

 「えー! 私、結構好きなんだけどなー」



 翌朝、ソラはいつもより早く目が覚めた。船外活動での爆破の緊張感もあったが、どんな形でも、宇宙船のブリッジに入れるという、興奮から目が冴えてしまった。

 ソラは水を飲むために、キッチンルームに向かった。キッチンではウミが調理をしていた。

 「おはよう、早かったね」

 「おはよう、ウミこそこんな朝早くから、何を作っているの?」

 「ねじれ軟骨のスープ。低温でじっくり煮込まないと柔らかくならないから。カムパネルラが料理出来たらよかったのに」

 〈残念ながら調理器具にはアクセスできません〉

 「今日の作業が終わったら、カムパネルラが料理できるように、調理器具を改造しようよ」

 「ええー……もっと他にやるべきことがあると思うけど――」

 「たとえば?」

 「うーん……シャワーとか?」

 「えー! シャワー浴びれるの!?」

 〈入浴は衛生的な生活の為に重要です。しかし、当船は水が貴重な状態であり、入浴は推奨できません〉

 「そうだよねー……」

 「毎日じゃなくて、週に一度程度なら大丈夫だよ。飲み水だけでなく、機械の冷却用水だって必要なんだから、風呂の水を流用すればいいし」

 「うぅー!! シャワー楽しみ!! 早くご飯食べて、爆死に行こ!」

 

 

 ソラは体にロープを括り付け、手に別のロープ握った。このロープは、ウミの体に取り付けられる物だ。

 「じゃあ、行くよ」

 「気張っていこー!」

 ソラは船の外壁沿いに、船の中腹までたどり着いた。そこにはすでに、ソラによってアンカーが打ち込まれていた。ソラは金具で体をアンカーに取り付け、手に握っていたロープをアンカーに括り付けた。そして、体のロープを外し、アンカーに括り付けた。ソラの体に巻かれていたロープは、ウミが船に帰る時の手すりとして使う。

 「アンカーにロープを取り付けた。ウミ、ロープが絡まらないように気を付けてね」

 「OK、すぐ行くよー」

 ウミもロープを片手に持って、ソラの所までやって来た。二人でウミが持ってきたロープを手繰(たぐ)ると、爆破装置が取り付けられた、小型船の燃料が引っ張られて来た。

 「ここまでは順調だね」

 「うん。それじゃ、ブリッジに行ってくる」

 「頑張ってね」

 ウミはソラの目が輝いているのに気付いた。ソラは宇宙船のコクピットに入れるのが、嬉しいのだ。

 ソラは爆破装置のロープをアンカーに結び自分の体に取り付けた。そして、爆破装置を体に取り付け、アンカーから自分の体を固定していた金具を外し、ブリッジに向かった。

 最初は誰も助けに来ない、死の空間に恐怖を感じることがあったが、頻繁にヘルメット内に響くウミの声が、ソラから宇宙への恐怖を消していった。何もない黒い空間の中で、自分は一人ではない。ソラは満たされていた。

 ブリッジの損傷はすでに確認済みで、カムパネルラのシミュレーションで、爆破に必要な燃料の量や、取り付け場所も事前に確認していた。

 「ブリッジに到着、爆弾を取り付けるよ」

 「OK、慌てなくていいからね」

 〈作業時間は予定通りです〉

 ソラは爆破装置を体から外し、ブリッジの外壁に、テープで張り付けた。そして、爆破域から離れた。

 「避難完了、爆破できるよ」

 「こっちも問題なし。ソラが宇宙に投げ出されても、ロープを引っ張って回収できるよ」

 「ウミこそ爆破の衝撃で、宇宙に飛び出さないでよ。カムパネルラ、爆破してくれ」

 〈少々お待ちください。お二人に被害が出ないか、再度シミュレーションしています〉

 「散々シミュレーションしたんでしょ? 大丈夫だよ」

 〈お二人に万一の事があると、この船の乗員はいなくなります。私の役目は乗員をジョバンニ星に無事届けることです〉

 「心配しないでカムパネルラ。僕たちは必ずジョバンニ星にたどり着くから」

 「そうそう、私たちを信じてカムパネルラ!」

 〈――爆破までのカウントダウンを開始します。5……4……3……2……1……爆破信号を送ります〉

 ブリッジから青い光が放たれると、船体が大きく揺れた。ソラとウミは、船のアンカーにしがみ付き、必死に耐えた。

 「やった! 成功だよ!」

 「僕の体が通れるくらい穴が開いたか、まだ分からないよ」

 〈爆破による破片が飛来してくる可能性があります。宇宙服が損傷しないように気を付けてください〉

 「もう、カムパネルラったら、過保護なんだから」

 「ウミはもう少し宇宙に恐怖を持った方がいいよ……」

 


 ソラは外壁に空いた穴からブリッジに入った。ブリッジでは五人ほどの船員が宙に浮いていた。ソラはカムパネルラの指示に従い、内部ロックを外した。

 「これで船内からでもブリッジに行けるね」

 〈次の作業を指示します。携帯電話をブリッジのコンソールに接続してください〉

 「……接続したよ」

 〈――お疲れさまでした、ブリッジへの接続を確認できました。ソラ様はブリッジから退出してください〉

 「ソラじゃなくて()()だよ!」

 「ウミ、カムパネルラが混乱するようなこと言ったらダメだよ」

 〈ブリッジの扉が閉まりました。これから気圧を戻します。もうしばらくお待ちください、()()

 「いんだよカムパネルラ……ソラのままで……」



 ソラとウミは中央ロビーで合流し、手を握って踊った。

 「私、言わなかったけど、絶対に言わないって決めてたけど、ソラが死んだら嫌だって思ってたの!」

 「僕も、ウミが死んだらどうしようって、思ってた!」

 「上手くいったし、お祝いしなきゃ!」

 「そうだね! ジュースを凍らせて、アイスシャーベットにしよう!」

 「ソラは美味しそうなものを思いつくね!」

 

 

 5

 

 ソラとウミがキッチンルームでお祝いしていると、カムパネルラの声が聞こえた。

 〈ブリッジにアクセスできたことで、当船の詳細な状態を把握できました。ブリッジは修理する必要がありますが、それ以外の当船外部の破損状態は、通常運航に問題がない範囲であると判断できます〉

 「それは良かった! じゃあ、明日からはブリッジの修理だね」

 〈その優先順位は低いです。なぜなら、通常運航をするためには、一度駆動機関を完全に停止し、再起動する必要があります。しかし、現在の当船には、駆動機関を再起動するための電力が足りません〉

 「ええ! じゃあ、出力は上がらないってこと?」

 〈いいえ。現在の駆動出力でも電力の供給は出来ていますので、その電力を溜め続ければ、再起動するための電力を確保できます〉

 「それってどのくらい時間がかからるの?」

 〈現状のシミュレーションでは、十年以上必要です〉

 「……思ったより長いね」

 「それだったら別の方法を探したほうがいいかも――」

 〈しかし、これは現状の状態を維持した場合のシミュレーションです。電力消費を最小限にすれば、電力は早く溜まります〉

 「早めに寝て、電気を消せばいいんだね!」

 〈その程度ではあまり効果はありません。現在の当船で最も電力を消費しているのは、AI型マザーコンピューター【カムパネルラ】の起動です〉

 「えっ! それって――」

 〈私はこれより、駆動機関を再起動するための電力が溜まるまで、機能を停止します。私が機能を停止しても、当船の生命維持機能は問題なく起動を続けますので心配はいりません。しかし、私が再起動するまでお二人は、私の協力なしで生存しなければなりません〉

 「そっかー……大丈夫だよ、カムパネルラ! 私たち、あなたのおかげで色々できるようになったし、心配しないで!」

 「そうだよカムパネルラ! ウミの事は心配だろうけど、僕が守るから大丈夫だよ!」

 「そうそう! この船と私はソラが守るから、ぐっすりおやすみ!」

 〈――分かりました。お二人を信頼し、私は全機能を停止します。生存に必要だと思われるデータはタブレットに送っておきます。船内の修理箇所と修理方法、食べられる部品の場所や水の採取法をまとめておくので、目を通してください〉

 「えっ! この船には食べられる部品がまだあるの!」

 「ウミ、それは後にしようよ……」

 〈それでは、おやすみなさい、ソラとウミ。あなたたちと再び会えることを信じています――〉

 二人が見ていたキッチンルームのモニターから、カムパネルラの表示が消えた。それと同時に、部屋の中にあったカメラの、起動中であることを示す、赤いランプも消えた。

 実態のないカムパネルラがいなくなったのを、二人は確かに感じて、心に寂しさが秋風のように吹いた。

 「カムパネルラ、ホントにいなくなっちゃったね――」

 「そうだね……カムパネルラが帰ってくるまで、頑張らなきゃね」

 「うん! それじゃ、お昼ご飯食べて、さっそく新食糧を取りに行こうか!」

 「えぇー、それからやるの? 今までカムパネルラが教えなかったのは、取るのが大変か、食べるのに向いてないからだと思うよ……」

 「だって私、青こんにゃくとねじれ軟骨に飽きちゃってるもん。そうだ! 新食材が手に入るんだし、取って置いた草でできたカーテンも食べようか! 味付けは任せといて!」

 「プロテインをまぶすのだけは止てね……」


 

 







 

 〈当船はジョバンニ星に到着しました。繰り返します――〉

 「ウミ、大丈夫? 頭とか痛たくない?」

 「うぅーん……大丈夫だよ、ママ! ちょっと体が硬いけど」

 「ほら、ぐずぐずしてると置いてかれるぞ! みんな船の外に向けて行っちまったぞ!」

 「えっ! パパ、ホント! 海に入るのは私が一番最初なのに!」

 ウミはコールドカプセルから飛び出して、廊下に出た。廊下の先からは、冷たい風が吹いてきた。その風には生臭い自然の匂いがした。ウミは風の吹く方に走って行った。光が差し白くなった空間に向かって、人々が歩いている。ウミはその中に自分と同じくらいの年の男の子を見つけた。彼の目も輝いている。ウミはその目の輝きが大好きだった。初めて見るはずなのにどこかで見たことがあるような目の輝きに、安心感すら覚えた。

 この白い扉の先には、まだ見ぬ世界の脅威があるかもしれない。それでもきっと乗り越えられると、ウミは確信していた。


 

 







 

 「爆弾を作ったよ……これで魚を取るんだ……ムニャムニャ……」

 「パパー、ママがねごとをいってるよー」

 「海で漁をしている夢を見てるんだろうね」

 「()()って、なに?」

 「そうか、まだ海を教えてなかったね。カムパネルラに聞いてごらん」

 「カムパネルラ! ()()についておしえて!」

 〈はい、分かりました。【リク】にも分かるように、映像と共にお教えします。海というのは――〉

  


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