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Reborn ― ロイが読み解く真実 ―  作者: ラビリンス
ロイが気づき始める編
7/11

7.暗号

「ロイ、頼み事があるんだが」


「何?」


「クラウンの常連さんのリチャードさんからな、どうしても解読できない暗号があるから、代わりに解いてほしいって頼まれたんだ。お前に、だ」


クラウンとは、ジェームズさんの本屋の名前だ。


「別にいいけど……どうして僕に?」


「レストランで、お前が推理したことを知っているみたいだった」


「えーっ!」


思わず大きな声が出る。

一体、どこから聞いたんだろう。


「……嫌なら断っておくが」


「うーん……」


(悩むな。レストランの一件を知っているなら、断りづらい。

僕が推理できるってことを、もう分かっているわけだし。

かといって、安易に引き受けたら次も頼まれそうで嫌だな……)


リチャードは実業家で、顔が広く、本が好きな感じのいい人だ。

ロイと同じで、本が好きだという。


(確か……最近、娘さんを亡くされたって聞いたけど……)


「報酬はな、本を十冊。好きなものを選んでいいらしい」


「えっ……本を十冊?」


その言葉に、思わず目が輝く。


「本当に十冊()、くれるの?」


「ああ。間違いなくそう言っていた」


「やる! 絶対やらせて!」


ロイのやる気スイッチが、完全に入った。


「それは助かる。リチャードさんも喜ぶだろう。

今日は休みだと聞いている。早速、今から行ってきてくれ」


「はーい! 行ってきまーす!」


ウキウキした気分で、ロイは本屋を飛び出した。


(本を十冊()くれるなんて……なんていい人なんだろう)


ロイが上機嫌で去った後、ジェームズは小さくため息をついた。


「本当は“十冊”じゃなくて、“好きなだけ”って言われてたんだが……

それはロイには内緒にしておこう。

そんなことを言ったら、家中の本を持っていきかねないからな」


独り言のように呟く。



「よし、頑張るぞ!」


(絶対に、本を手に入れる!)


気合十分で歩いていると、ふと気づいた。


「……で、何で二人がいるの?」


気づけば、ロイの両隣にスティーブとルイーザが立っている。


「何でって? 可愛い弟には保護者が必要だろ。

それに、またお前の名推理が聞けるかと思うと楽しみでな」


スティーブ兄さんが、にこりと笑う。


「私は見張りよ。

誰かさんが本に浮かれて、仕事をサボらないように」


ルイーザは淡々と言った。


「わー、二人とも優しいねー」


ロイは棒読みで返す。

どうやら、ジェームズさんが二人にも同行を頼んだらしい。


(僕だけじゃ、頼りないって思われたのかな……)



「大きな家ね。さすがお金持ち」


「庭も綺麗だしな。俺もこんな家に住んでみたいよ」


ドアベルを鳴らすと、リチャードが出てきた。


「リチャードさん、こんにちは。暗号の件で来ました」


「おお、ロイくん。来てくれてありがとう。

ジェームズさんから連絡はもらっているよ」


リチャードは、ヒゲを生やした感じのいい男性だった。


「そちらの二人は?」


「初めまして。ロイの近所に住んでいるスティーブと申します」


「幼馴染のルイーザです」


「よろしく。イケメン君と、可愛いお嬢さんだ」


「いえいえ」「いやいや」


二人は慌てて否定した。


「さあ、上がってくれ。お茶を入れよう」


居間に案内され、三人はソファに腰を下ろす。

紅茶とお菓子が運ばれてきた。


(これ……高級なお菓子だわ。さすがお金持ちね)


ルイーザは心の中で呟いた。



リチャードは、三人の前に三枚の紙を置いた。


「これが、問題の暗号だ」


一枚目の紙には、こう書かれていた。


雲と豆、銀と星、姫とりんご、少女とマッチ

ヒント:私の好きな言葉


二枚目は、青い文字で書かれている。


A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U V W X Y Z


男の子と女の子が青い花を探しに出かけました。

二歩進むと、可愛い花がありましたが青色ではありません。

七歩進み、おじいさんに聞いたら、まっすぐ進むと花畑があると教えてくれました。

九歩進むと花畑がありましたが、青色はありません。

十四歩戻ると、おじいさんが待っていて、青い花をくれました。

その瞬間、とても幸せな気持ちになりました。


ヒント:文章をよく読んで。


三枚目には、童話のタイトルが並んでいた。


マッチ売りの少女

人魚姫

赤い靴

眠り姫


ヒント:私はお父さんの体が心配です


これだけでは、すぐには意味が分からない。


「……これは、娘の遺書なんだ」


(遺書……?)


「先日、病気で娘を亡くしてね。

最期まで、ずっと私の体を心配していて……

穏やかな顔で逝ったよ。まだ十歳だった。

本当に、心の優しい子でね」


リチャードの声は、少し震えていた。


「娘さんのお名前は?」


スティーブが静かに尋ねる。


「グウェンだ」


「……いい名前ですね」


ルイーザがそう言うと、リチャードは小さく頷いた。


「亡くなった妻が名付けたんだ。

グウェンは、最期にこの暗号を遺していった。

娘の最後の言葉だから、何とか解きたくてね……」


部屋に、重い沈黙が落ちる。



「あの……グウェンちゃんの部屋を、見せてもらえますか」


「……ああ、いいよ」


案内された部屋は、青を基調とした内装で、星の飾りが散りばめられていた。

まるで星空の下にいるような空間だ。


「綺麗な部屋……」


「娘がいなくなってからも、手をつけていないんだ」


(……この部屋の本、全部童話だ)


「グウェンちゃん、童話が好きだったんですか?」


「ああ。特に『マッチ売りの少女』がお気に入りだった」


(なるほど……そういうことか)


ロイは、ハンチング帽の鍔を少し上げて、静かに笑った。


「他の部屋も、見せてもらえますか。

娘さんが、どんな生活をしていたのか知りたいんです」


「構わないよ。好きに見て回ってくれ」



家の中を見て回る。


(一見すると、どこも綺麗な家だ。

でも……おかしいのは台所だ)


(男の一人暮らしだから仕方ないかもしれないけど、散らかっている。

酒瓶も多い……ざっと見ても三十本はありそうだ。

それに、タバコの吸い殻も……)


(娘さんを亡くしてから…きっと眠れなかったんだろうな。“お父さんの体が心配”……三枚目のヒントは、これだな)


「書斎も見てみるかい? 本がたくさんある」


(本……!?)


「ぜひ見たいです!」


書斎に入った瞬間、ロイは息をのんだ。


見渡す限り、本棚が並んでいる。

どの棚にも、ぎっしりと本が詰まっていた。


「……ここは天国ですか!?」


(見たことのない本ばかりだ……

十冊だけなんて、とても選べそうにない……)


(よし、頑張るぞ!)


(……本も嬉しいけど、ちゃんと役に立たないとな)


「私もグウェンも、本が好きでね。

小さい頃は、よく読み聞かせをしたものだよ」


(童話……

やっぱり、あの三枚の答えは――)


ロイの中で、点と点が静かにつながり始めていた。



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