表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/28

25.エドガーの推理

ロイたちは「現場を荒らさない」条件で立ち会いを許された。


舞台機構(バトン付近)に、クレアが横たわっている。


(この人は……『オセロー』のデズデモーナ役の人だ)


「死因は首吊り。現場の状況と遺書から、自殺の可能性が高い」


ハワード警部が言う。


「遺書……?」


エドガーが身を乗り出す。


「近くにあったんだ。内容は——“私は劇団の仲間たちに隠し事をしていました”」


ロイの胸がざわつく。


(内容が曖昧すぎる。

それに、なぜ“バトン”なんだ……もっと容易な場所はいくらでもあるはず)


ロイは静かに言った。


「警部さん。まだ可能性の段階ですが……はっきりさせるために、関係の深い人を三人呼んでもらえますか」


集められたのは三人。


ギルバート(イアーゴー役兼・舞台進行を仕切る立場)

マーカー(オセロー役兼・座長/第一発見者)

ウォーレン(副官役兼照明担当)


エドガーが小声で言う。


「ロイ、なんでこの三人なんだ?」


「舞台全体の動線を知ってる人。機材を触れる人。発見者——最低限この三人だ」


「関係は良好でしたか?ベラさんやクレアさんが誰かに恨まれていた可能性は?」


警部が問う。


マーカーは俯きながら答える。


「聞いたことはありません。ベラは皆に慕われていた。クレアは努力家で、初日を誰より楽しみにしていた。そんな二人が誰かの恨みを買うなんてとても思えない……」


そこへギルバートが刺すように言った。


「そういえばマーカー、お前はベラとよく二人で会ってたみたいだな。俺に黙って」


(恋人……?)


ウォーレンが眉をひそめる。


「そうなのか、マーカー」


「……はい」


「ふん。クレアという“恋人”がいながら、ベラに——」


「違う! クレアとは付き合ってない。ベラとも、やましいことは一切してない!」



警部が手帳を開き、淡々と言った。


「では、二件とも共通して聞きます。

ベラさんが倒れた終演直後と、クレアさんが発見された時刻——それぞれ前後一時間。君たちはどこで、何をしていた」


ウォーレンが先に答える。


「ベラの時は照明ブースです。終演後は片付けの合図を出すし、フェードアウトの確認もある。俺はずっとそこにいました」


「証明できる者は?」


「数人います。舞台袖を出入りしてたスタッフが、俺のところに声をかけてます。あと、照明卓を触ってたのも見てるはずだ」


(“照明ブースにいた”は強い。でも、そこは機材を触れる場所でもある——)


「クレアの時は?」


「控え室の方です。……一人でした。だから証明してくれる人はいません」


言い終わると、ウォーレンは視線を落とした。


次にマーカーが口を開く。


「ベラの時は更衣室で着替えてました。衣装のままじゃ動きづらいから。着替えの後、廊下に出て、舞台裏に戻ろうとして——騒ぎを聞いたんです」


「更衣室にいたことを証明できる者は?」


「……いません。俺、基本一人で着替えるから」


「クレアの時は?」


「飲み物を買いに外へ出ていました。戻った時には……もう」


マーカーの声が掠れる。


「誰かに見られていないのか」


「客席側の売店バーに寄ったけど、店員が俺の顔を覚えてるかは……分からない」


(外出は“抜け道”にもなる。だが本当に行っていたならレシートや防犯カメラに映ってるんじゃ——)


最後にギルバートが、肩をすくめる。


「俺は……監督だ。終演後は全員の指示で走り回ってた。

舞台、袖、控え室、倉庫。あちこち行くのが仕事だろ?」


「目撃者は?」


「いるはずだ。誰かしらと話してたからな。指示も出してる。……ただ、“ずっと同じ場所にいた”わけじゃない」


「クレアの時も同じか」


「同じだよ。むしろ本番翌日は段取りが多い。俺が動かない方が不自然だ」


(“忙しかった”は強い免罪符になる。けれど同時に、どこにいても不自然じゃない——)


ロイは三人の答えを頭の中で並べた。


(全員、決定打がない。

“誰かが嘘をついている”のではなく、誰でもやれる隙がある)


ロイは心の中で整理した。


(この三人のうち、誰が犯人でもおかしくはない。

でも——まだ断定はできない)


ロイは鑑識が持つロープと、首元の痕を見比べる。


(痕の形が……少し違う)


ロイが口にする前に、鑑識が小さく言った。


「首の痕の形と、ロープの編み目が完全には一致しませんね」


ロイはエドガーに囁く。


「“自殺”って決めるには、まだ早いかもしれない」



エドガーが突然、目を輝かせてロイの肩を掴んだ。


「ロイ!犯人が分かったぞ!」


「え? 本当に?」


「もちろんだ。俺はリー探偵事務所の次男だぞ。」


エドガーは咳払いをして、警部の前へ歩み出る。


「警部! 犯人は……」


一瞬、もったいぶってから、指を突きつけた。


「マーカーさん、あなたです!」


「は?」


マーカーだけでなく、周りの空気まで固まった。


「理由は二つ!」


エドガーは指を二本立てる。


「第一に、アリバイがない!

第二に、……えーと……」


「第二に?」


警部が冷ややかに促す。


「……第二に……」


エドガーの額に汗が浮く。


「顔が怪しい!」


「おい」


ロイが思わず小声で突っ込む。


マーカーは呆れたように目を細めた。


「少年。確かに俺には“証明してくれる人”はいない。だがそれは“犯人”の証拠にはならないだろ」


「いや、でも! 第一発見者ってだいたい怪しいし!」


「それはドラマの見すぎだ」


ウォーレンがぼそっと言い、団員の誰かが吹き出しかける。


警部が深くため息をつく。


「所詮子供か」


「ちょ、ちょっと待ってください! まだ“第三の理由”が——」


「エドガー、ストップ」


ロイが前に出て、きちんと頭を下げた。


「警部さん、すみません。今のは根拠が薄い推測です。混乱させました」


「……君は話が分かる。ありがとう」


警部が頷く。


エドガーは不満そうに頬を膨らませた。


「ロイ〜! 止めるなよ!いいところだったんだぞ!」


「どこがだよ」


ロイが呆れていると、エドガーは一瞬だけ黙り——


「……うっ。俺の推測もまだまだだな」


悔しそうに肩を落とした。


捜査員が戻ってくる。


「警部。控え室のゴミ箱から、丸めた紙が出てきました」


警部が開く。


『お前とマーカーの秘密を知っている。バラされたくなければ来い』


部下が言う。


「遺書の文字と似ています。正式に筆跡鑑定へ回します」


「……文面から見て、犯人側の可能性が高いな」


警部が低く言う。


ロイの背筋が冷たくなる。


(これで“自殺”は揺らいだ)



その瞬間、照明が落ちた。


「……何だ?」


「おい、灯りをつけろ!」


ギルバートが叫ぶ。


警部が即座に命令する。


「全員、動くな! 足元に注意しろ!」


暗闇の中——


「ぐあっ!」


短い苦鳴。


「今の、監督の声か?」


ウォーレンが息を呑む。


非常灯が点き、明かりが戻る。


「ギルバートさん……!?」


ギルバートが倒れていた。腹部に赤い染み。近くにナイフが落ちている。


ロイは唇を噛む。


(暗闇の中で、正確に腹を狙った?

足音も、争う音もなかった。——おかしい)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ここまで読んでくださってありがとうございます!
「このシーン好き」「推理ここが刺さった」など一言感想が励みになります(ネタバレ配慮OK)。
▶ 次話へ / ▶ 更新告知はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ