24.連続殺人
「救急車を呼べ! 警察もだ!」
ギルバートが声を張り、スタッフが走り出す。
「監督、上の照明とかどかしたほうが——」
ウォーレンが言いかけた瞬間、
「待ってください!」
背後から少年の声が割って入った。
「現場を保存しないと。警察が来るまで、このままにしておいてください」
エドガーが声を張った
「……誰だよ、坊主たち」
ギルバートと団員たちが驚いて振り向く。
「それより、被害者に触れないで。警察が来るまで現場保存が必要です」
(やけに詳しいな……)
ロイは倒れている女性を見た。
(この人は確か、『オセロー』でエミーリアを演じていた——ベラさん)
視線を上に向ける。
(点検していたはずの照明と装飾が、終演直後に落ちる。偶然にしては……)
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警察と救急が到着し、舞台裏は一気に緊張に包まれる。
「被害者はベラさん。劇団員で、『オセロー』のエミーリア役。頭部外傷が確認されています」
捜査員が報告する。
「事故か……。まず事情を聞こう」
ハワード警部が現場を見回した。
「照明や装飾が落ちた。点検はしていたのか?」
「しましたよ。リハでも本番でも、念入りに」
ウォーレンが即答する。
「なら、なぜ落ちたんだ」
「分かりません。ただ……片付けの時に、ミシミシという音がして。舞台の上にはベラがいて、次の瞬間……」
「舞台上にいたのはベラさんだけ?」
「ええ。みんな舞台裏で作業してました。それと——着替えが終わって来たベラに、監督が“舞台上のゴミを掃除してくれ”って言ってるのを聞きました」
警部がギルバートを見る。
「それは本当か」
「はい。固い異物が落ちていて躓いたら危ないから掃除を頼んだんです」
警部は頷き、現場をもう一度見回す。
「点検では問題なし。終演後に落下……。今のところは事故の線が強い。だが原因は詳しく調べる必要がある」
ロイの胸がざわついた。
(ベラさんは“監督の指示がなければ”舞台上に行かなかったはず。
しかも落ちたのは、彼女の頭上——都合が良すぎる偶然だ)
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「警部、待ってください。これは事件です!」
エドガーが食い下がる。
「……君は?」
「リー探偵事務所の次男です。プロの探偵を目指していて——」
「リー探偵事務所なら、この辺では有名です」
部下が小声で補足し、周囲がざわついた。
だが警部は冷静に手を上げる。
「熱意は分かった。だがここは危険だ。中学生は下がりなさい」
「ちょっとでいいから話を——」
ロイがエドガーの腕をつかんだ。
「エドガー、行こう。……失礼します」
「ちょっとロイ!」
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「何するんだよ! 今から犯人を探すのに」
「僕たちは子どもだ。警察や大人の邪魔をしたら、何も見せてもらえない」
「あのな、俺は探偵だぞ。警察は事故って言ったけど、あれは殺人だ!」
「根拠は?」
「……勘。探偵の勘!」
(勘って……大丈夫か、こいつ)
ロイはため息をつき、言い聞かせるように言った。
「今日は帰ろう。警察を怒らせたら、調べる機会すらなくなる」
「……分かった。明日また来ようぜ!」
「はあ……」
この時のロイたちはまだ気づいていなかった。
“事件”は、始まったばかりだということに。
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【舞台裏/夜】
「ベラが死ぬなんて……」
クレアが泣く。
マーカーが低い声で言った。
「……不運な事故だとは思えない」
「え……?」
「誰かが“仕組んだ”気がする」
「そんな……誰が?」
「分からない。……でも大丈夫だ。クレアのことは俺が守る」
よく似た瞳を持つ二人が、小さく笑い合う。
「飲み物買ってくる」
マーカーが走り去った。
その直後、クレアの足元に丸めた紙が転がってきた。
拾って開き、内容を読んだ瞬間——顔色が変わる。
「……まずい。早く行かないと」
クレアは控え室を飛び出した。
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【翌朝】
ブーブー。スマホが震える。エドガーからだ。
「もしもし」
『ロイ、今すぐ昨日の劇場に来てくれ! ……また人が死んだらしい』
「……何だって?」
ロイは息を呑み、身支度を整えて飛び出した。




