22.許せなかった
(なるほど……大分読めてきたぞ)
ロイは小さく息を吸い、トレス警部に向き直った。
「警部。少しだけ時間をいただけますか」
「……いいだろう」
トレス警部が頷く。
ロイは容疑者三人を見渡した。
「この事件、海が舞台に見えますけど……鍵は“陸”にあります。」
「陸?」
サムが首を傾げる。
ロイはトムを見る。
「トムさん。あなたは“トイレに行った”と言いましたね。店の中のトイレですか?」
「ああ。店の中だ」
「店内なら往復は短い」
ロイは淡々と言った。
「なのに、ダンさんがいなくなってから“気づくまで”の時間が長い。
さらに、探し始めてから発見されるまでにも空白がある。――三人全員にです」
トムが言い返す。
「でも俺とリナは、一緒に探してた」
「探していたことは否定しません」
ロイは頷く。
「問題は“探し始める前”です。」
トレス警部が低く言う。
「つまり、その時に誰かが動いた可能性がある、と」
ロイは静かに頷いた。
「はい。――次は“言葉”です」
ロイはリナを見る。
「リナさん。あなたはさっき、こう言いました。
『今日は波が高かった。そんな時にサーフィンなんてするわけない』」
「サーファーなら誰でも分かるわ」
リナは強く言い返す。
「そうです。サーファーなら誰でも分かるでしょう。
しかし、あなたは“可能性”を検討する前に、結論へ飛んでいる。」
リナの唇がわずかに震える。
トレス警部が目を細めた。
「……なるほど」
ロイは続ける。
「そして三つ目。“関係性”です」
ロイはトムの言葉を拾った。
「トムさん、言いましたね。『リナとチャーリーは高校の時から仲が良かった』って」
トムが黙って頷く。
ロイはリナに向き直る。
「これは僕の憶測ですが…もしかしてリナさんはチャーリーさんのことを…」
「……やめろ」
チャーリーが掠れた声を出す。
「リナ……俺は……」
ロイは一拍置いてから、トレス警部を見た。
「警部。ここで“記録”を確認してもいいですか」
「記録?」
「被害者のスマホです」
ロイは言った。
「“ふらっといなくなる”人でも、何もないのにわざわざ外へは出ません。
連絡が来たなら話は別です」
トレス警部がサムに目配せする。
サムが手帳を見て頷いた。
「……被害者の端末に、直前の着信とメッセージ履歴があります」
リナの肩が、ぴくりと跳ねた。
ロイは静かに言う。
「ダンさんは“呼ばれたから外に出たんです。
そして外は、人がほとんどいない時間帯だった――店員さんの証言通りです」
「……誰が呼んだ」
トレス警部の声が低くなる。
ロイは答えを急がず、最後の確認だけを置く。
「リナさん。外に出た時、誰にも会っていないと言いましたね。
でも、それを断言できるくらい周りを見ていた。
――待っていた人がいるからです」
「……っ」
リナは何か言い返そうとして、声が出ない。
「それに、あなたがずっと隠している手。それが何よりの証拠です。」
トレス警部がサムに目で指示する。
サムが一歩進んだ。
「リナさん。手を見せてもらえますか」
リナは一瞬抵抗したが、周囲の視線に押され、ゆっくり袖を引いた。
「……擦れた跡があります」
サムが淡々と言う。
チャーリーが震える声で言った。
「……リナ。なんで……」
リナの目に涙が浮かぶ。
けれど声は怒っていた。
「だって……あの人、チャーリーの夢を馬鹿にしたから。」
トムが息を呑む。
「リナ…」
チャーリーが絞り出す。
「俺はあいつにどれだけ馬鹿にされようと構わなかった。結果を出して見返してやればいいと思ったからだ。それなのにお前は…」
その一言で、リナの顔から血の気が引いた。
「……ごめんなさい」
リナは泣きながら言った。
「守りたかったの。高校の時からずっと……あなたのことが好きで……!」
波の音だけが戻ってきた。
その後、捜索の報告が入る。
「行方不明だったダンさんのサーフボードが発見されました」
警官の短い声が、全員の背中を冷やした。
⸻
ウィギンズたちのもとへ戻ると、夕暮れがプロムナードを赤く染めていた。
「終わったか? なら帰ろうぜ。日が暮れてる」
ウィギンズが言う。
「そうだね」
ジョセフが頷く。
「ロイ君すごいわ。また事件解決したの?」
ソフィが目を輝かせる。
「いや……別に大したことは」
ロイは照れて、視線を逸らした。
帰り道、ロイは海を振り返る。
言葉は波より静かで、波より深く人を沈めることがある。
ロイは本を抱え直し、歩き出した。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
海の事件を描いてみました。
次回からは雰囲気一変、連続殺人事件編に突入します。
そして――新キャラも登場。ロイたちはさらに厄介な謎に挑むことになります。
次回もよろしくお願いします!




