21.溺死の可能性
サイレンが遠くから近づき、海辺の空気が変わった。
制服警官が規制線を張り、鑑識が岩場へ向かう。
「被害者はダンさん、21歳、大学生」
サム刑事が報告する。
「現時点では溺死の可能性が高いです。ただし外傷があり、拘束が疑われる痕もあります。事故とは断定できません」
トレス警部が遺体の方へ目を向けた。
「外傷……具体的には?」
「頭部に打撲痕があります」
サムが慎重に言葉を選ぶ。
「状況次第では、意識を失うほどの衝撃が加わった可能性もある。偶然の事故だけでは説明しづらいです」
「……なるほど」
トレス警部が顔をしかめた。
「事件の匂いがするな」
「容疑者は?」
トレスが問う。
「こちらの三名です」
サムが指し示した。
「え、俺たちが?」
トムが青ざめる。
「私たち、一緒に探してたのよ。そんな暇ないわ」
リナが早口で言う。
「その通りです。俺たちも一緒に探してました」
スティーブが言う。
トレス警部はスティーブ、ロイ、ルイーザを見て目を細めた。
「……また君たちか」
「……あはは」
三人が苦笑いを浮かべる。
「で、三人はどういう関係だ」
トレスが容疑者たちへ向き直る。
「同じサーフィンのサークル仲間です」
チャーリーが答える。
「いつもみたいにこの海で練習しに来ました」
トムが言う。
「そしたらダンが……こんなことに」
リナが唇を噛んだ。
ロイは遺体を見た。
(事件性は高い。でも“どうなったか”より、“どこが噛み合っていないか”だ)
「トレス警部、今回もロイが解決してくれますよ」
スティーブが軽く言う。
「え? ちょっと兄さん」
ロイが慌てる。
「そうそう、ロイなら犯人見つけられるよな」
ウィギンズが乗る。
「ずば抜けた推理でね」
ジョセフも言う。
「……ちょっと、二人とも」
ロイが言ったが、スティーブが肩を叩いた。
「ロイ。見て見ぬふりはできないだろ?」
「……それを言われたら弱いな」
トレス警部は渋い顔をしながらも頷く。
「本来なら許可できない。だが君の観察眼は助けになる。短時間だけだ」
ルイーザたちは奥へ下がり、トレス警部とロイが話を聞く。
「では詳しく聞かせてください。ダンさんがいなくなった時、あなた方はどこで何をしていましたか?」
トレスが問う。
「帰る準備をしてたら、突然いなくなって」
チャーリーが言う。
トムが説明した。
「俺はトイレ、リナは飲み物を買いに、チャーリーは荷物をまとめてました。ダンがいないのに気づいて、俺とリナは一緒に探して、チャーリーは別の方を探すって別行動を」
「手分けした方が早いと思って」
チャーリーが言う。
ロイは一つだけ確認するように口を開いた。
「トムさん。“トイレ”って、どこですか。店の中ですか? それとも外の公衆トイレ?」
「店の中だ」
トムが答える。
「じゃあ、往復はすぐですね」
ロイはさらりと言った。
「なぜダンさんは黙って消えたのですか?」
トレスが問う。
「いつもふらっといなくなるんです」
リナが答える。
「いつの間にか戻ってくるから、今回もそうかと思って待ってたんですけど。でも戻らなくて……」
ロイは三人を見た。
(“ふらっと”なら、誰も焦らないはずだ。なのに、リナさんの言葉は最初から張りつめている)
「この中でダンさんに恨みがある人は?」
トレスが続ける。
トムが短く言う。
「不満は全員あります。あいつの傲慢さには皆うんざりしてましたから」
「そうね。特にチャーリーは」
リナがすぐに言った。
チャーリーが首を振る。
「……確かに俺は馬鹿にされてきた。でも殺そうなんて思わないですよ」
その時、鑑識が戻ってくる。
「三人の所持品から、凶器らしいものは見つかりませんでした」
「……そうか」
トレスが言う。
ロイが聞いた。
「被害者の持ち物は?」
「それが不審な点があってね」
鑑識が答える。
「被害者のサーフボードだけ無いんだ」
ロイの目が細くなる。
(“サーフボード”だけ……?)
「まさかサーフィンしに行ったのか?」
チャーリーが言う。
「まさか」
リナが強く否定した。
「今日は波が高かったのよ。そんな時にサーフィンなんてするわけないじゃない」
サムが続けた。
「店のスタッフによると、海の状態が悪くて一時間ほど前には客がほとんど帰っていたそうです」
ロイはリナの手元を見る。
(……さっきから手を隠してる)
ロイは口調を柔らかくして尋ねた。
「トムさん。四人は、特別な関係があったりしませんか。恋愛とか」
「え? ないけど……ただ」
トムが言い淀む。
「ただ?」
ロイが促す。
トムが視線を泳がせて言った。
「リナとチャーリーは高校が一緒で……リナはいつもチャーリーの味方だった。」
リナが思わず言い返す。
「……チャーリーは、関係ないでしょ」
ロイは静かに頷いた。
(なるほど……大分読めてきたぞ)




