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Reborn ― ロイが読み解く真実 ―  作者: ラビリンス
ロイが気づき始める編
16/28

16.取引の裏側

夕方。ロイはカフェの窓際で本を開き、ページをめくる手だけを動かしていた。

視線は文字を追っているのに、頭の中は別の場所にある。


(取引まで……あと三十分)


ため息が、紅茶の湯気に溶けた。


(天使〈エンジェル〉はいったい何がしたいんだ。父さんの手帳を渡して、組織の取引まで教えて……僕のことを“アーサー王”と呼ぶ)


確かに本名はロイ・アーサー・ホーキンス。

だからといって、そんな呼び方をする理由が分からない。


(父さんが関与しているかもしれない組織……。“見ろ”と言われた。なら、何かがあるはずだ)


罠の可能性は当然考えた。

けれど――本当に僕を消すつもりなら、正体を明かしたあの夜に終わっていたはずだ。


ロイは本を閉じ、席を立った。


(行くしかない。取引現場の、美術館へ)



カフェのすぐ近くにある美術館。

ロイは入口付近で足を止め、周囲を探るように視線を走らせた。


(取引はどこだ……? 裏口? それとも搬入口……)


キョロキョロしていると、職員らしい女性が近づいてきた。

整った笑顔のまま、丁寧に頭を下げる。


「お客様、お手洗いはこちらでございます」


「え?」


その瞬間、笑顔は崩れないのに――声だけが“冷たく”なった。


「あまり見回さない方がいいわ。周りに不審がられる。……アーサー王」


背筋がぞくりとした。


「その呼び方……まさか。エンジェルか?」


ロイが声を落とすと、女は小さく口角を上げた。


「そうよ。早くいらっしゃい。もうすぐ取引が始まる」



連れてこられた先は、ロープで仕切られた通路だった。

立ち入り禁止の札がぶら下がっている。


「待ってくれ。ここ、立ち入り禁止エリアじゃ――」


「大丈夫。“許可”は取ってあるから」


意味の分からない言葉が、やけに重く耳に残った。

次の瞬間――ロープの向こうの扉が、内側から開いたように小さく軋んだ。

誰もいないはずの奥で、鍵束の金属音が一度だけ鳴った気がした。


ロイは奥へ進み、角を曲がった。


「――あそこを見て」


曲がり角の先、薄暗い通路に二人の男がいる。

若い男と、中年の男。中年の方は美術館の館長に見えた。


「約束どおり、例の物を持ってきた。早く金をくれ」


館長が差し出したのは、小さな瓶――薬品のように見えた。

距離があり、ラベルまでは読めない。


「焦るなよ、館長。金はちゃんとある」


若い男がトランクを足元に置き、軽く蹴って館長の前へ滑らせた。


(取引相手が……館長?)


胸の奥が嫌な音を立てた。


「この美術館が潰れずにいられるのは、俺らのおかげだろ? 感謝してくれよ」


館長は喉を鳴らし、苛立ちと焦りを押し殺した声で言った。


「……このままだと、この美術館が――」


言い切る前に、館長がトランクの留め金に手をかけた――その時。


乾いた破裂音が、通路を裂いた。


――パンッ。


館長の額が跳ね、赤いものが壁に飛び散る。

館長は声を出す暇もなく、床に崩れ落ちた。


(……嘘だろ)


足元の感覚が消えた。

息が、吸えない。

指先が痺れて、身体が勝手に固まる。唾さえ、うまく飲み込めなかった。


若い男は平然とトランクを開けた。

中身は――空っぽ。


「ハッハッハッ。残念でしたー。金なんて持ってきてねーよ。……あっ、もう死んでるから聞こえないか」


笑いながら、死体を見下ろしている。


「はぁ……また証拠隠滅しなきゃいけねえから面倒だな」


若い男が身を翻した拍子に、胸ポケットから赤い紙片がひらりと覗いた。

赤い紙――そこには、小さな十字架のマークが刻まれている。

一瞬で隠れたのに、ロイの目には焼きついた。


(通報……いや、ここで動けば――)


背後に“気配”が滑り込んだ。


次の瞬間、ロイの頬の横に、冷たい金属が押し当てられる。

それが何かを理解するのに、時間はかからなかった。


「油断大敵よ」


耳元で、女が笑う。

不敵で、楽しそうで――怖い笑い方だった。


(……やはり、罠だったか)


ロイは息を殺し、視線だけを動かした。


その時、背後で――通路の扉が、静かに閉まった。

逃げ道が、音もなく消える。


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