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Reborn ― ロイが読み解く真実 ―  作者: ラビリンス
ロイが気づき始める編
15/28

15.天使〈エンジェル〉

本屋〈クラウン〉で夕食を済ませた帰り道。

夜の空気は冷たく、街灯の光はところどころ途切れていた。


ロイは歩きながら、あの家で起きたことを反芻していた。


事件が終わっても、万年筆は見つからなかった。

ロフトはもちろん、書斎も、引き出しも、箱も。

警察が確認しても「それらしいものは無い」の一点張りだ。


(……おかしい)


レスリーは確かに言った。

「万年筆はロフトにあるはずだ」と。


(“あるはず”って言い方は、今日置いたって意味じゃない。

 昔からそこに置いていた――そういう口ぶりだ)


誰かが、いつの間にか移動させた。

そう考えるほうが自然だった。


(持ち去るなら、客の僕たちより――家の人間のほうが簡単だ)


奥さんは台所にいた。

ルイーザもずっと一緒。

ケインは足が悪い。

ラルクはロフトに関わっていたが、万年筆そのものに執着する理由が薄い。


残るのは――


(スミスさん)


執事なら家の中を歩いても不自然じゃない。

誰にも怪しまれず、どこにでも手を伸ばせる。


そして何より、あの人は事件の最中から落ち着きすぎていた。


(万年筆は、“餌”だった。

 父の形見を渡すためじゃない。僕をあの家に呼ぶための道具だ)


ロイは唇を噛む。


(……渡す気がない。最初から)


そう確信した瞬間、胸の奥が冷たくなった。


コツ、コツ。


背後から足音がした。

自分の歩調に、半拍遅れて重なる音。


(気のせい……じゃない)


軽い。

まるでステップでも踏むみたいに、軽快すぎる。


ロイは足を止めた。

そして、振り返らずに言った。


「……ねえ。どうして僕の後をつけてくるんですか、スミスさん」


闇の向こうで、誰かが息を止めた気配がした。


「どうして、私だと気づいたのですか?」


ロイは振り返る。

街灯の端が、人影の輪郭をかろうじて浮かび上がらせる。


「歩き方ですよ。

 あの軽さは、年配の執事の歩き方じゃない。最初に会った時から違和感がありました」


ロイは息を整える。


「それに――父の万年筆、あなたが持ってますよね。

 警察がロフトも家中も探して見つからなかった。

 つまり、誰かが“あらかじめ”持ち出していた」


「さあ、何のことか分かりませんね。私は忘れ物の万年筆を届けに来ただけですよ」


「じゃあ、確認します」


ロイはわざと淡々と告げた。


「父の万年筆は、金のメッキで――“C・H”の刻印がある特注品です」


一拍。


「……いいえ。金ではなく銀です。刻印も“C・H”ではなく“C・H・H”」

スミスが言うと

ロイは小さく笑った。


「フッ。やっぱり持ってる」

「“盗んでない”なら、知らないはずです」


「レスリーさんは、何年も掃除していないロフトに探しに行った。

 先月からいる執事が、細部まで知ってるわけがない。――盗まない限り」


スミスは黙った。


ロイは続ける。


「それから、その口調もやめてくれませんか。

 事件の間ずっと黙っていたのは、“声”でバレないようにするためでしょう」


「……例えば本当は女性なのに、男の声を真似ていたとか」


「アハハハハ」


乾いた笑いが、闇に響いた。

次の瞬間――スミスの声色が変わる。

若い女性の声だ。


「ご名答よ、――“アーサー王”」


(アーサー王?)


ロイが瞬きをすると、目の前の“スミス”は変装を解いた。

その顔立ちを見て、ロイは一瞬だけ思う。

(……ルイーザに、少し似てる)


「あなたをあの家に誘い込んで、推理力を試したの。

 あの家で殺人事件が起こることは……分かってたから」


(やっぱり――)


「……お前は、何者なんだ」


「私はコードネーム、天使〈エンジェル〉」

「とある組織に仕えている。野望のためにね」


(組織……?)


ロイの脳裏に、父の手帳がよぎる。

確かにそこに、“天使〈エンジェル〉”の文字があった。


エンジェルは、楽しそうに言った。


「それとね。勘のいいあなたなら、もう気づいてるでしょ?」


「あなたの家に“入り”――お父さんの手帳を“置いた”のも、私」


ロイは目を細めた。


「だろうね」

「事件の時、警察が何人もいたのに、目をかいくぐって消えるなんて普通は無理だ」


「でも、二階の窓から飛び降りられる身体能力があるなら話は別。

 それに“置いた”って言い方だ。捨てたでも、落としたでもない。――やったのはお前だ」


エンジェルは満足げに頷いた。


「そこまで見抜いてたの。さすがね。じゃあ――もっといいこと、教えてあげる」


エンジェルは一枚の紙を差し出した。


「日付と時間と場所。

 そこで“組織”が取り引きをする」


「行くも行かないも自由。

 でも後悔したくないなら、行くことをおすすめするわ」


エンジェルの声が少しだけ低くなる。


「あなたのお父さん――リチャードは、その組織と関わっているから」


(……何で親父が?)


ロイは紙を握りしめた。


「……何で僕の家に手帳を置いたんだ。

 直接渡せない立場なのは分かった。けど、何で“あの日”だったんだ」


「手帳を見なければ、僕は組織のことも知らなかった」


エンジェルは、ほんの少しだけ目を伏せる。


「レストランの事件と、今回の密室事件」

「あなたの推理を見て――確信したの」


「あなたなら、私たちの望む形で動けるってね」


ロイの声が荒くなる。


「はあ? お前は何がしたい。こんなことをして何になる!」


エンジェルは間を置いて、ぽつりと答えた。


「……恩返しよ」


「え?」


「それから――気をつけて」


エンジェルは笑う。


「組織の中には、変装が得意な者もいる。

 今回の私なんて比べ物にならないくらい、上手い人がね」


そして、軽く手を振った。


「じゃあね、アーサー王」


ロイは叫ぶ。


「待て! 父の手帳には破れた跡があった!

 破れたページ、お前が持ってるだろ! それに万年筆も!」


エンジェルは振り返り、ウィンクして人差し指を唇に当てた。


「なーいしょ」


そのまま、俊敏な動きで闇に溶けていった。


ロイは立ち尽くす。


(“アーサー王”――希望の呼び名のはずなのに、どうしてこんなに冷たいんだ)


(家に侵入したのが誰かは分かった。

 コードネーム、組織、野望。そして親父の関与――)


謎は、深まるばかりだ。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

15話は、事件が終わっても終わらない“違和感”――万年筆を手がかりに、ついにスミスの正体が動き出す回でした。


エンジェルの言葉や「アーサー王」という呼び方、みなさんはどう受け取りましたか?

ロイの推理や、ルイーザの存在感、エンジェルの不気味さなど、キャラのことでも展開のことでも何でも大丈夫なので、ひとこと感想をもらえたら本当に嬉しいです!(「この台詞が好き」「この人が怪しい」みたいな軽いやつでも大歓迎です)


そして次回は――組織の取り引き現場へ。

ロイは“紙”の示す場所に向かいます。そこで何を見てしまうのか、お楽しみに。


また次話でお会いしましょう!

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