14 罪と罰の代償
心臓発作を引き起こす要因を探すため、ロイは奥さんに話を聞いた。
「レスリーさんは何か精神的にストレスを感じていることはありませんか?」
「精神的なストレス?」
奥さんは少し考える。
「先月あたりから、電話相手に頭を悩ませていたみたい。手術のことを話してたわ」
(手術……)
「ただ……同じ頃だったかしら。ラルクさんがよく来るようになったのは」
奥さんが言う。
「えっ……」
ルイーザが驚く。
「亡くなった息子さんのことについて話していたみたいで……主人は声を荒げていることもあったわ。不眠に悩まされていたみたい。仕事も忙しいし、体調がすぐれない日もあった」
(ストレス、不眠、体調不良……そこに閉じ込めが加われば、発作は“起きる”じゃない。“起こされる”)
ルイーザが言う。
「ロイ、何か分かった?」
「あとはダイイングメッセージだけだよ」
「それにしても……」
ルイーザが眉を寄せる。
「ラルクさん、四年前に息子さんを亡くしたのに、よくレスリーさんに診てもらってたよね。家にまで来て」
(四年前……息子……コービン)
ロイの中で、ピースが噛み合う。
(そうか。ようやく分かった)
⸻
トレス警部とサム刑事の所へ行く。
「警部、犯人が分かりました」
「何?」
「へぇ。すごいねロイ君。早速教えてくれるかい?」
サム刑事が言う。
「おい子供だぞ」
ケインが言う。
ロイはトレス警部を見る。
「警部、レストランのことを忘れたのですか?」
トレス警部は黙った。
ロイはラルクを見た。
「犯人は――ラルクさん。あなたです」
「なっ……」
「あなたはレスリーさんの持病(心臓)を知っていた。だから“発作が起きやすい状況”を意図的に作った」
ロイは言う。
「電話で手術の話を蒸し返し、怒らせ、不眠に追い込んだ。さらに家に来て同じ話を繰り返し、逃げ場を塞いだ」
「そして決定打が“薬”です。薬袋は残っているのに、コップは空で濡れた跡がある。――飲んだように見える。でも奥さんは“飲んでいない”と言った」
「つまり、誰かが“飲んだと思わせた”か、“飲ませないようにした”」
ロイは一度息を吸う。
「その上でロフトに誘導し、閉じ込めた。ハッチは外側から固定できる。出入口はそこだけ。窓もない。降りる手段のハシゴを外に捨てた」
「……」
ラルクは黙っている。
「あなたはトイレに行くふりをして動けた。ケインさんが勝手口から出ることも知っていたから、玄関側の動線でハシゴを運べた」
ロイが言う。
「そしてダイイングメッセージ」
ロイは続ける。
「『-4 S K』――四年前、Sは“Son(息子)”。Kはコービン。被害者は“犯人名”ではなく“動機”を書いた。消される恐れがあるから」
「証拠は?」
ラルクが言う。
ロイは頷く。
「ダイイングメッセージと現場状況。それからもう一つ」
ロイは“伏線としての台詞”を、はっきり言う。
「あなたは警察が来る前に、死因を言いました」
居間の全員がロイを見る。
「僕がロフトで確認して下りた時、僕は首を横に振っただけです。死因は言ってない」
「それなのにあなたは――青ざめた顔でこう呟いた」
ロイは一語ずつ言った。
「『……まさか、心臓発作で……?』と」
トレス警部が睨む。
「……本当ですか、ラルクさん」
「……本当です」
ラルクは観念したように言った。
「認めます。私が殺しました」
⸻
(ここから下の“核心告白”はあなたの名場面を活かしつつ、REDの影=赤い封筒だけ薄く追加)
「やはり動機は息子さんのことで……」
サム刑事が言う。
「ああそうだ。あの男は自分の息子を助けるために私の息子を殺したんだ」
「……どういうこと?」
ルイーザが言う。
「私の息子は四年前に大きな病気を患った。本当なら手術で助かるはずだった」
ラルクが言う。
「だがレスリーの息子が心臓の病気になった。移植手術をしないと助からなかった。だがドナーが見つからず……」
「その時、レスリーは……私の息子に目をつけた」
「オズーに」
(えっ……オズーだって!?)
ロイは固まった。
隣のルイーザも同じ顔をしている。
「レスリーはオズーの執刀医になり、オズーの心臓を自分の息子に移植した。それでオズーは死んだ。手術関係者は金の力で口止めされた」
ラルクは拳を握る。
「だから私は、手を尽くしても助からなかったという説明を信じてしまった」
「……ならなぜあなたは知ったのですか?」
サム刑事が聞く。
「先月、とあるバーで酒を飲んでいると……ある客が教えてくれた」
ラルクが言う。
「客?」
「帽子を深くかぶっていて顔は見えなかった。身なりと声からして女性だった」
ラルクは、ポケットから“赤い封筒”を取り出した。
中は空だ。だが、封の部分だけがやけに新しい。
「その女は、これを置いていった。中には……住所と、短い言葉だけが書かれていた」
ラルクは苦い声で言う。
「『許せないなら、同じ目に合わせてやりましょう』って」
(赤い封筒……)
ロイの背中が冷たくなる。
「私は半信半疑でレスリーに電話した。すると奴はこう言った。『息子を助けるためだから仕方ない。親なら誰だってそうするだろう』と」
ラルクは歯を食いしばる。
「仕方ない、だと?ふざけるな。だから私は……」
そのせいでオズーは犠牲になったんだ」
ラルクは俯いたまま言った。
「だから私は何度も電話して、何度も家に来て、何度も同じ話題を出して、その度に怒らせた。心身にストレスをかけ続けた。……あとは君の言う通りだ」
「それと、レスリーが素直に診察記録と死亡診断書を探したのも、早く私を帰らせたかったからだろう。あの過去を他人に知られたくなかったんだ」
ラルクはかすれた声で呟いた。
「……オズーが生きてたら、フットボールを持って元気に走り回っていただろう」
⸻
ラルクは警察に連れて行かれた。
気づけば辺りは夕方だった。
ふと振り返ると、スミスさんがこちらを見ていた。
まるで、結果を確かめるみたいに。
「待って、ラルクさん!」
ロイは焦って駆け寄る。
「おい、離れろ。殺人者だぞ」
警官が制止する。
ロイはトレス警部の前に立ち、頭を下げた。
「お願いします。少しだけでいいので彼と話をさせてください。お願いします」
トレス警部は悩み――ため息をついた。
「……少しだけだぞ」
ラルクがロイを見た。
その目には、もう怒りより疲れが浮かんでいた。
「……ラルクさん、ごめんなさい。あなたがオズーのお父さんだと、すぐに気づけませんでした」
「謝らないでくれ」
ラルクは小さく首を振る。
「私は嬉しかったよ。君もルイーザちゃんも、オズーを覚えていてくれたんだね。さっきの君たちの表情で察した」
「久しぶりに君たちに会って、感慨深くなったよ」
ラルクは目を伏せた。
「オズーも生きていたら……君たちと同じ十四歳で、同じ中学校に通い、友達もたくさん作って元気に生きていたんだろうね」
ロイは何も言えなかった。
「君の推理には驚かされた。でも、納得もできる」
ラルクは続ける。
「オズーはよく言ってたんだ。『とても賢い友達がいる』と。――ロイ君のことだったんだね」
ラルクは懐から一枚の写真を取り出した。
そこにはフットボールを持って笑っているオズーが映っていた。
「……オズー」
「ロイ君」
ラルクは震える声で言う。
「これからも、ずっとオズーを覚えていてくれるかい?」
ロイは写真を受け取り、胸に抱いた。
「もちろんです。オズーは、これからもずっと……僕たちの友達です」
ラルクは静かに涙を流した。
⸻
ロイは写真を手にルイーザのところへ戻り、一緒に帰った。
(オズー……ごめんな)
(君がいなくなったとき、先生に“遠くへ行った”と聞かされた。だから僕は、君が外国へ行ったとばかり思っていた。……でも違ったんだね)
(今頃この意味に気づくなんて、僕はバカだ)
(大丈夫。今まで君のことを忘れたことはなかった。これからもずっと覚えてる。僕の……いや違う。僕たちの大切な友達なんだから)
誰かの悪意により命が奪われる。
一度失った命は、もう戻らない。
だけど――思い出を失うことはない。
永遠に生きている。
オズーは確かに、僕らの心の中で生き続けている。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
この回は推理の決着だけでなく、ロイの過去にも深く触れる回になりました。
「正しい目的があれば、悪をしていいのか」――冒頭で読んでいた『罪と罰』の問いが、事件の中で別の形を取って返ってきたように感じています。
そして……オズー。
彼の存在が、これからのロイにどう影を落とすのか。
次回は“もう一段”だけ、真実が明らかになります。
もし心に残った場面があれば、一言でも感想をもらえると本当に励みになります!




