13.密室
警察が到着した。
レストラン事件の時にいたトレス警部とサム刑事だ。
「被害者はレスリー・アンソンさん。四十代。死因は心臓発作の可能性が高い」
サム刑事が言う。
「持病による死亡か。なら事件性は無いな。誰だ?通報したのは」
トレス警部が言う。
「私です。ロイに言われたので警察と救急車を呼びました」
ルイーザが答える。
「ロイ?」
「僕です」
「お前はレストランの時の」
トレス警部が言う。
「お久しぶりです。トレス警部とサム刑事」
「久しぶりロイ君」
サムが言う。
トレスが大きなため息をついた。
「……事件性があると、どこで判断した?」
ロイは落ち着いて言う。
「“見た事実”が三つあります」
「一つ。ロフトの出入口は天井のハッチ一つだけ。窓も点検口もありません」
「二つ。ロフトのハシゴが外され、ガレージに捨てられていました」
「三つ。レスリーさんの手元の埃が乱れていました。何かを書こうとしたみたいに」
「なるほど」
トレス警部が頷く。
サムが言う。
「しかし、そのハシゴがロフトの物だと断言できる?」
「断言できますわ」
奥さんが言う。
「この家で木製のハシゴはロフトだけです」
「よし。では詳しく調べる。みなさんの名前と、この家に来た理由を」
トレス警部が言う。
「ケイン・スレイド。足の調子が悪くて先生に診てもらいに来た」
(ケイン=強気で苛立ちが表に出る)
「ラルク・コービン。昔の診察記録と死亡診断書を貰いに来た」
(ラルク=言葉少な、目が笑っていない)
「僕たちは父の万年筆を受け取りに来ました」
(万年筆――“餌”に見えるのが嫌な予感だ)
トレス警部が眉を寄せる。
「君のお父さんの万年筆を、なぜレスリーさんが持っている?」
「分かりません。父とレスリーさんは同僚だったと聞いています」
「では現場を調査する。皆さんは居間で待機。後ほど詳しい話を伺う」
⸻
全員が居間で待機する。
部屋の中は静かだ。
「くそっ……何でこんなことに」
ケインが言う。
「あの人が悪いのよ。薬を飲むように言ったのに時間を守らないから」
奥さんが言う。
ロイはふと、テーブルの端に置かれた“薬”を見た。
薬袋は残っている。だが、横のコップは空で、口元に濡れた跡が少しある。
(飲んだ? ……いや、奥さんは“飲んでいない”って言ってた)
(なら、誰かが“飲んだように見せた”可能性もある)
ロイがスミスを見る。
感情の読めない顔で立っていた。
(この人、ずっと無表情だ。執事としては自然?
……でも、自然すぎる)
ロイはラルクにも目を向ける。
「あのラルクさん、大丈夫ですか?」
「ああ平気だよ。驚いたけどね」
「さっき診察記録と死亡診断書って言ってましたけど、大切な人を亡くされたのですか?」
「ああ。息子を亡くしてね。明るくて優しくてフットボールが好きな、元気いっぱいの子だったよ」
「……そうだったんですね。僕も会ってみたかったです」
(明るくて優しいフットボール好き……昔仲の良かった友達にそういう子がいた。
四年前に突然いなくなって心配したけど、“遠くへ行った”って……)
ラルクが言う。
「君はホーキンスと名乗っていたね。もしかしてチャールズ・ホーキンスさんの息子さん?」
「父をご存知なのですか?」
「私は心臓が悪くてね。今はレスリーさんに診てもらっているが、昔はホーキンス先生にお世話になっていたんだ。温厚で、誰であろうと分け隔てなく患者を診る。医者の鑑のような人だ」
(父の患者……それなら僕を知っていても不思議じゃない)
奥さんが吐き捨てる。
「あの人は薬の管理もできない、ゴミも捨てない、家事は全部私。離婚を考えるくらいよ」
「最低ね」
ルイーザが小声で言う。
「ねぇロイ。もしこれが殺人事件だったらあなたが推理するのよね」
「……そうだね」
ロイは真剣な顔で答えた。
「病気を持っている人もいる。長い緊張状態は良くない。早く終わらせよう」
そんなことを話していると、トレス警部とサム刑事が戻ってきた。
「調べたところ、ダイイングメッセージがある。殺人の可能性が高い」
トレス警部が言う。
部屋の空気が冷える。
「やはり密室殺人なんですね」
ロイが言う。
「おいおい死んだのは薬を飲み忘れたからだろ!何を根拠に殺人だなんて言うんだ」
ケインが言う。
サム刑事が淡々と告げた。
「ロフトの窓はありません。出入口は天井のハッチ一つだけです」
「そして、そのハッチの留め具は外側からしか固定できない構造でした」
(外から閉じ込められた――)
「さらに、被害者の手に粉塵が付着していた。埃を指でなぞった跡があり、文字が残されていた」
サム刑事が続ける。
「残されていたのは――『-4 S K』だ」
ロイは息を呑む。
(-4……S……K)
そこへ鑑識が追加で報告する。
「被害者の近くからタバコのカスも検出されました。少量ですが」
トレス警部が言う。
「この中でタバコを吸う人は?」
全員の視線がケインに向く。
「確かに吸う。だがロフトに行ったのは様子を見ただけだ。その時はまだ生きてた」
ケインが言う。
(ケインさんの動線は作れる。でも足の状態でロフトで何ができる?)
(……焦ってる感じが強い。計画犯っぽくはない)
ルイーザが言う。
「ケインさん、勝手口から出て行ったわね」
「勝手口……」
ロイは頷く。
(鉢合わせを避けられる動線がある。ならラルクさんも――)
(よし。残るは心臓発作の要因とダイイングメッセージだ)




