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Reborn ― ロイが読み解く真実 ―  作者: ラビリンス
ロイが気づき始める編
12/28

12.万年筆の招待状

ある日の夜。

ロイは自分の部屋で、ドストエフスキーの『罪と罰』を読んでいた。


元学生ラスコーリニコフが、強欲で冷酷な高利貸しの老婆を「社会の害悪だから」「一人の悪人を殺せば多くの人を救える」といった理屈で殺してしまう話だ。


「母と妹を助けようとして殺したのに、善良な妹まで巻き添えにしてしまう。罪を犯したあと、精神が崩れて追い詰められていく……。面白さは“自分から逃げ切れるか”ってところだ」

ロイは紅茶をひと口飲み、静かに呟く。

「――正しい目的があれば、悪をしていいのか。実に考えさせられる」


そのとき、インターホンが鳴った。


ドアを開けると、眼鏡をかけた“年配に見える男”が立っていた。

髪は白い。だが背筋がまっすぐで、立ち姿だけ見れば年齢が掴めない。


「こんばんは。夜分遅くに失礼します。私はスミスと申します。レスリー様の執事をしている者です」


「あの……どんなご用事でしょうか」

(レスリー?聞いたことないな)


「心当たりがないという顔をなさっていますね。無理もありません。レスリー様は、あなたのお父上――チャールズ・ホーキンスさんの元同僚です。幼かったあなたが知らないのも仕方ありません」


「父の元同僚……」


「今回あなたを訪ねたのは、レスリー様からあなたに渡したい物があるので、家に招待したいとのことです」


「あの……ここに来る時に渡せばよかったのでは?」


「レスリー様は、あなたとお家でゆっくり話がしたいそうです」


「渡したい物とは何でしょう?」


スミスは一瞬だけ間を置いた。

まるで“その反応”を測るように。


「万年筆です。チャールズさんの」


「万年筆……」

(そういえば親父は特注の万年筆を持っていたはず……それのことか?でも何でレスリーさんが?)


「来ていただけますか?」


(父のことを知るチャンスだ。それに、万年筆が気になる)

「行きます」


「それは良かった。では明日の午後にお迎えに来ます。同行者を連れてきて構わないそうですよ」


そう言ってスミスは帰って行った。


ドアが閉まり、ロイは小さく首をかしげる。

「あの人……年配に見えたのに、歩き方が若々しかったな」


不思議に思いながら、ロイは部屋へ戻った。



翌日。

迎えの車が来て、ロイはルイーザと一緒に乗った。同行者OKとのことだったので誘ったのだ。スティーブ兄さんにも声をかけたが忙しいらしい。


「今から行くのは、ロイのお父さんの元同僚なのよね?」

ルイーザが尋ねる。


「そうみたい。でも僕は知らない人なんだよね」

(親父が死んだのは五年前。当時九歳の僕が知らなくて当然かもしれない)


その時、スミスがバックミラー越しにロイを見た。

“視線が合う”というより、“見透かされる”感覚がした。


「あの……何か?」

ロイが言うと、


「いえ……何も」

スミスは再び前を見た。



家に着く。


「どうぞお上がりください」

スミスに案内され、居間に入る。


中年の男性が二人いた。

一人は眼鏡をかけ、姿勢が固い。

もう一人は体格が良く、態度も大きい。


(眼鏡の人=真面目で神経質そう。もう一人=強気で声が大きいタイプだ)


眼鏡の男性が驚いた顔でこちらを見る。

「君たちは……」


(驚いてる?僕たちを知ってるのか?)


必死に思い出そうとすると、もう一人の男性が言った。

「まあ座りなよ」


「では失礼します」

ルイーザと一緒にソファに座る。


「ごめんなさいね……主人は書斎からもうすぐ戻ってくると思うから、もう少し待ってていただけますか?」

中年の女性が言う。


(この人が奥さんか……)


「いえいえ奥さん。僕たちは大丈夫ですよ。ねぇラルクさん?」

体格の良い男性が、眼鏡の男性を見た。


「ええ……」

眼鏡の男性――ラルクが短く答える。


「ねぇ君たちは姉弟かい?小さい坊やは小学生かな?」

体格の良い男性が言う。


グサッ。

『姉弟』『小さい坊や』『小学生』という単語がロイの胸を抉る。


「いえ私たちは――」

ルイーザが言いかけると、


「ケインさん、二人とも中学生ですよ」

奥から別の女性――セシルが言った。


(セシル=この家の手伝いの人、落ち着いて周囲を見てる)


「えっ?」

ロイが驚く。


「そうなのかい?それはすまなかったね」

ケインが謝る。


(ラルクさんは僕たちが中学生だと“迷いなく”言った。……前に会ったことがある?)


隣を見るとルイーザも驚いていた。

(それにしても、僕が小さいからって姉弟扱いは最悪だ……)


ロイの精神的ダメージは大きい。


そんな時、足音が聞こえてきた。


「待たせてしまってすまない」

恰幅のいい男性が来た。


(この人がレスリーさんかな……)


「レスリーさん、また足の調子が悪いんだ。診てくれないかな」

ケインが言う。


「ああいいとも。コービンさんは?」

レスリーがラルクを見る。


「私は電話で話した“例の件”について」

「ああ……」


(例の件?)


「それはちょっとロフトを探さないといけないな。何しろ何年も前のことだから」


奥さんが紅茶とお菓子を持ってきてくれた。


「そこにいる少年と少女は?」

レスリーが尋ねる。


「ロイ・ホーキンスです」

「ルイーザ・フェアチャイルドです」

「本日はお招きいただきありがとうございます。父の万年筆を持っているとのことなので受け取りに来ました」


「来てくれて嬉しいよ。万年筆も確かロフトにあったはずだ。少し待ってくれるかい?」


「分かりました」


「あなた、そろそろお薬の時間ですよ」

奥さんが言う。


「ああそうだな。用意してくれ」

(薬……持病があるのか)


ドタドタと足音がしてドアが開いた。


「父さん。外に遊びに行ってくる」

レスリーの息子らしい男の子が言って出て行く。


「まったく慌ただしい奴め。お客がいるというのに」


「あの……そろそろ例のやつを持ってきてくれませんか?」

ラルクが静かに言った。


「ああそうだったな。今から探してくるよ」


(えー。薬は飲まなくていいのか?)

ロイは心の中で突っ込む。


「じゃあ俺はタバコを吸いに行ってこよう」

ケインが言う。


「私はお手洗いに」

ラルクが立つ。


「私は台所で奥さんのお手伝いをしてくるね」

ルイーザが言う。


「うん分かった」


居間にはロイとスミスの二人になる。


(執事なのに、奥さんに任せっきりだ。レスリーさんを手伝えばいいのに……)

(それに、ずっと見られてる気がする)


しばらくしてラルクが帰ってくる。

ルイーザと奥さんも居間に来た。


「あなた、薬ですよ。……あら?いないの?」

奥さんが言う。


「レスリー様ならロフトへ行かれました」

スミスが淡々と言った。


「あらもう……薬の時間だって言ったのに」


ケインがタバコから帰ってきた。

「さっき様子を見たけどまだロフトにいたよ。いったい何を探しているんだ?」


ラルクは黙っている。


(よっぽど言えないことなのか)


一時間ほど時間が経つ。


(レスリーさん遅いな)


「ねぇロイ。いくら何でも遅くない?」

ルイーザが言う。


「様子を見に行こう」


ロイとルイーザが立ち上がる。


ロフトに行くと奥さんがいた。

「あなた、大丈夫?」

返事がない。


「奥さんどうしたんですか?」

ロイが言う。


「薬を飲んでいないから呼びに来たんだけど……ハシゴがなくて登れないの」


「え?」

ロイとルイーザが驚く。


ロイは天井のハッチを見上げた。

(出入口はここだけだ。窓は見当たらない。点検口も……無い)


「登ったんだからハシゴがあるはずよね」


ロイはすぐ判断する。

「奥さん、別の脚立か踏み台はありますか?」


「ガレージにあると思うわ」


「分かりました。僕が取りに行ってきます」


(急げ。呼んでも返事がないなら危険な状態かもしれない)


ガレージに着くと、木製のハシゴが雑に捨てられていた。


(え?ロフトのハシゴだ。……でも今は後回しだ)


脚立を持って家へ戻る。


「おいどうした?」

ケインが言う。


「何かあったのですか?」

ラルクが言う。


ロイは答えず脚立を上り、中を確認する。


そこには倒れていたレスリーがいた。


ロイが駆け寄り脈を確認する。

そして静かに下に降りた。


みんなの視線が集まる中、ロイは首を横に振る。


奥さんは血相を変えて中に入る。


ラルクが青ざめた顔で呟いた。

「……まさか、心臓発作で……?」


「あなた、あなた……!」


ロイは息を整え、言った。

「ルイーザ、救急車を呼んで。それから警察も」


「分かったわ」


「おい、何で警察も呼ぶんだよ?レスリーさんは何で亡くなったんだ?」

ケインが詰め寄る。


ロイは周囲を見回し、現場で“見た事実”を言葉にする。


「まず、ハッチが閉まっていた。中からは助けを呼ぶ声も聞こえなかった」

「それに、ロフト下にあるはずのハシゴがガレージに捨てられていた」

「――事故なら、ハシゴが“外に片付けられる”理由がない」


そしてロイは、もう一つだけ付け加えた。


「それから……レスリーさんの手の周り、埃が不自然に乱れていました。

誰かが触ったみたいに」


ロイは無意識にスミスを探し、見つける。


(この人……主人が亡くなったのに平然としている。慌てる素振りがない。

……この人は一体?)


「僕が考える限り、これは事件性がある」


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