11.見た目で判断するな
実験室らしき部屋。机の上に道具。床にシロップの跡と足跡。
ロイが低い声で言う。
「警察には連絡した。近くを回ってる。だから僕らは“持ちこたえる”だけでいい」
ロイはポケットから、さきほどの“石”を取り出した。
ライトを当てると、拭った部分だけが鋭く光る。
「……宝石だ」
「えっ、これが?」
「庭の石に紛れてた。表面が加工されて、輝きが殺されてる。重さも石っぽくない」
ロイは机の上に、ガラス片に見える欠片も置く。
「これも見た目はガラス。でも反射が違うから気づけた。」
ジョセフが震える。
「宝石強盗の……隠れ家ってこと……?」
ロイは頷く。
「二週間前、隣町で強盗。二人組。ここは境界近く。生活感がある。足跡が二種類。……偶然じゃない」
ウィギンズが歯を食いしばる。
「でも、なんで俺らの方に来る?」
「屋敷に誰かが入った時点で、相手は焦る。宝石が見つかったら終わりだから必ず追い出しに来る」
そのとき――ギシッ……ギシッ……。
足音が近づく。
「おい……ガキども、どこだ」
「寒いし見えねぇ……煙みたいなの、なんなんだよ」
白いもやが視界を曇らせる。
(ロイは、廊下に置かれた箱をちらりと見た。冷気が漏れている。――白いもやの正体が、少しだけ確信に近づく)
ロイが二人に囁く。
「声を出すな。窓はすぐ開けられる。逃げ道だけ確保するんだ」
男の一人が前へ進み、机の道具を蹴ってガシャ、と音が鳴った。
「くそっ……!」
男が焦って踏み込む。シロップの跡で靴が滑り、バランスを崩した。
「うわっ!」
その瞬間、犬が吠えながら飛び出す。
「ワン!ワンッ!」
「どけっ!」
男が犬を追い払おうと腕を振った、その一瞬。
ウィギンズが背後から体重をかけて押さえ込み、ジョセフが必死で腕を固定する。
「今だ、窓を開けろ!」
ロイが窓を開ける。冷たい空気が流れ込み、白いもやが薄くなる。
視界が一瞬クリアになった。
そこに、もう一人の男の姿。
男は舌打ちし、退こうとする。
(逃げる気だ)
ウィギンズが飛び出しかけるのを、ロイが腕で止めた。
「追うな。外は危険だ。……警察が来る」
サイレンが近づく。
そして外からはっきりした声が響く。
「警察だ! 動くな!」
男たちは固まった。
「……ちっ」
「終わりだよ」
ロイが短く言った。
⸻
警察に保護され、事情聴取が終わったあと。
夜の道を3人で歩く。
「腹減った……」
ウィギンズが情けない声を出す。
「僕、まだ心臓がバクバクしてる……」
ジョセフが苦笑する。
ロイは小さく息を吐く
「…無事でよかった。正直僕も怖かったよ。」
「当たり前だろ。友達だし。でもロイ、すげえよ。犯人を見抜いたし、判断も早かった」
「二人がいたからだ。僕一人じゃ何もできなかった。」
ジョセフが照れくさそうに言う。
「僕も、少しは役に立てたかな」
「役に立ったに決まってる」
「よしっ。今日はルイーザの料理を食べに行こうぜ」
「ちょっと待って連絡しとく」
ロイがスマホを取り出すと、ウィギンズが笑った。
「もうしてる。OKだってさ」
「早っ……」
「ほら、走るぞ!」
「ちょっと待て!」
三人は笑いながら、夜道を駆けた。
その背中を、街灯が静かに照らしていた。
三人は笑いながら走り出す。
ロイは息を切らしながら、ふと思った。
(成功って、結局なんだろう)
胸の奥に、以前読んだ言葉が浮かぶ。
――「成功者になろうとするな。価値のある人間になろうとせよ」
byアインシュタイン
(今日の僕たちは、少しでも“価値”の方に近づけただろうか)
街灯の下、三人の影が並んで伸びた。




