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第1話<前編>

やっとのこさ1話です。

第1話にしてかなりの急展開です。

『そしてまた、見ることの叶わない太陽に……』

「なにしてるんです?」

「わっひゃあ!?」

 お昼手前の微妙な時刻。私は起き抜けに日課である妄想という名の詩をマル秘ノートに書き連ねていた。

 そんな時に不法侵入をする無法者が、突然乱入してきたのだった。

「あ、あなた……乙女の部屋で、ノックもなしに」

「ノックしましたよ? 気付いてなかったみたいですけどね」

「嘘でしょう! たとえ本当だとしても、普段のあなたの素行では説得力がありません!」

「まあまあ」

 無法者の名はリオン。

 この屋敷に雇われた、私の傘持ちである青年。というのは、表向きである。

 少し複雑ではあるものの、彼はオールブライト王国の国王の息子である。立場はいちおう第一王子。

 訳あって客人がいる間は、猫ならぬ執事の皮を被っている。

 だがしかし、うちのメイドやよそ者がいない時の態度は、それはそれは面倒くさいのだ。

「愛しのお嬢様に、お昼ご飯のお知らせをしに来ただけだと言うのに……」

「はいはい、わかりました。はやく食堂へ向かいましょう」

 私はそう言って、仕方なく重い体を起こす。

 着替えは面倒だから食後でいいだろう。この時間はメイドのみんなも忙しいだろうし、今のこの寝巻きなら出歩いても問題あるまい。

「そういえば、リオンは今日ご実家へ帰るのではありませんでしたか?」

「あぁ。今日はお義母サマが朝から癇癪を起こしたようなので、延期になりました」

 彼の実家、つまり城での扱いはあまりいいものではない。特に現在の女王様と、その息子である第二王子との関係は最悪だ。

「いつものですか」

「いつものです」

 リオンの義理のお母様は、彼の帰省日の朝に機嫌が悪くなりがちだそう。彼の身を案じてくれている城の魔術師が、帰省する日の朝に魔法で伝達してくれるのだとか。

 そうして我が家の長い廊下を歩いていると、食堂の入口近くの花瓶が目に付いた。

「この挿し方だと、ツバキが挿してくれたのでしょうか」

 シンプルな花瓶には、見覚えのある花がとても丁寧に飾られていた。

「去年の末に買った苗、もう芽吹いていたんですね」

「えぇ。数週間前にはつぼみが出ていたの」

 この花と出会ったのは、城下町で開催された年越しを祝うお祭りで賑わう通りへ赴いた時だ。

 城内の用も簡単に済ませて、そそくさと紛れ込んだお祭り会場で買った。経緯は覚えていないけれど魔術を使った脳内会話で、リオンと何らかの言い合いをしていたのは覚えている。

「ほら、到着しましたよ。お嬢様」

 リオンはやたら凛としたスマートな仕草で食堂のドアを開け、私をエスコートした。王子ウィンク付きで。

 食堂には使用人がいるので、お得意の猫かぶりスマイルである。


「ノエレット様、おはようございます!」

 扉をくぐり抜けて、最初にひょっこり現れ挨拶をしたのはツバキだった。

 彼女はキッカリ朝方なので、早朝から夕方までの業務を担当してくれている。

「おはようございます。昼食の準備もありがとう」

「量は大丈夫ですか?」

「ちょうどいいです。……あぁそうだ、お花を綺麗に飾ってくれてありがとうございます」

「喜んで頂けてとっても嬉しいです!」

 ツバキはとても嬉しそうに笑った。そして私の後方を見るや、すぐに顔を歪めたかと思いきやハッとした顔をして、そしてまた普段の表情へと戻っていく。

「リオンさんは今日も外出中止ですか?」

「残念ながら」

「そうですかぁ、ほんとーうに残念です。今日こそはノエレット様のお世話を、私が、四六時中担当できると思っていたのに……」

 彼女とリオンは、喧嘩っ早い兄妹のような会話をする。ツバキが変につつきに行って、リオンがあっさりと躱すのだが、時折リオンも我慢ならずに言い返すのだ。

「ツバキは今の仕事量に満足していないんですね。そうだなぁ……それなら、今日は屋敷中すべての部屋の掃除を担当してもらおうかなあ……」

「満足してますしてますっ! いやあ、今日は忙しいなあ!」

 こうして、いつもリオンが優位をとって終わるのだ。

 ちなみにリオンは執事長でもない傘持ちのため、メイドへの命令権を持っていない。

 しかしツバキはそれを知らず、間に受けているのであった。

「リオン、少し大人気ないのではないですか?」

 そして喧嘩が面白いので、今日は私も少しだけ茶々を入れることにした。

 ツバキがコソコソと「そーだそーだ!」と右腕を思い切り上げ下げしている。

「生意気な後輩の教育も必要でしょう」

「生意気なのはあなたもではないでしょうか? マリーに再教育をお願いしようかしら」

 すると部屋にいなかったはずのメイドが突然、扉から物音立てずに現れた。

「お嬢様、現在の私にはお……リオンの教育権限はございませんので、出来かねます」

「残念です」

 突然現れた女性は、マリーという名のメイド。

 彼女の名であるマリーのマの字さえ言葉にすればすぐに飛んできそうな、完璧超越人間だ。

 特に魔族でもなく、私のように混血でもなく純粋な人間だというのだからマリーの身体能力は謎に溢れている。

 そして彼女は、リオンが幼い頃から城で働いていた元王城勤務であり、リオンの元教育係。主に剣術と作法を担当していたらしい。もちろん、私とリオン以外に知っている者はいない。

「ですがお嬢様の目の前で喧嘩をするのは無作法と存じます。今度お時間のある際徹底的に追加指導をさせて頂きたく」

 マリーは顔色ひとつ変えずに淡々と、そして素早く言い放った。

「えっ」

 突然のことに驚いたのはどちらだったか。

 そんな面白い光景に、思わずクスリと笑ってしまった。

「お嬢様もですよ」

「えっ…………と、しばらくは忙しいので難しいですね」


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