石畳の道で待っていた
石畳の古い通りを歩いていたときだった。
陽菜は、どこか胸の奥が締めつけられるような感覚に襲われた。初めて来たはずのこの街で、涙が止まらなくなった。
まるで何かを知っているかのように、体が一歩一歩、勝手に道を進んでいく。
左に曲がる角、ひび割れた井戸、白壁に映る木漏れ日……すべてが懐かしく、切ない。
「どうして……?」
自分でも理由がわからないまま、陽菜は古い教会の前に立っていた。
風が吹き抜け、誰もいないはずの扉がきぃと軋んで開いた。
中に足を踏み入れた瞬間――
音もなく、誰かの声が心に響いた。
「約束を、果たしに来たの?」
その声は、夢の中で何度も聞いたものだった。
名前も、顔も思い出せないけれど、なぜか涙があふれた。
彼はかつて、ここで命を落とした。
陽菜は、その瞬間に立ち会っていた。
記憶が、音もなく心の底から浮かび上がってくる。
戦の時代。
祈りを捧げていた彼女と、兵士だった彼。
すれ違いのまま、別れた魂。
約束だけが残っていた。
「もう一度生まれ変わったら、今度こそ一緒に生きよう。」
教会の中、光の中に人影が現れた。
今の時代の服を着た、優しい目の青年。
観光客かと思って軽く会釈した陽菜に、彼は微笑んで言った。
「この街、初めてなのに懐かしいんだ。君も?」
陽菜は小さくうなずいた。
言葉はなかったけれど、心が言っていた。
――あぁ、あなたを、ずっと探してた。
何百年の時を越えて、
魂はまた、ここに戻ってきた。
過去を語らなくてもいい。
前世を思い出せなくてもいい。
ただ、手を取り合って、今世を生きる。
そのために、ふたりはまた出会ったのだから。