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死刑執行官

 牢屋の前を通るたびに、優しく人望が厚いためか、彼は感謝をされる。

「看守さん、ありがとうね」

「あ、ああ……」

 バイオ技術が発達して、人間は分解され、即食料として再構成できるようになった。種々の病気の心配もなくなった。それなのにその技術の使い方は“正しい”ものといえるかどうか怪しいものだった。


 ブラウンはガスマスクをつけて毎日この刑罰を受ける人々のために看守をしている。罪人との関係は良好だった。なにせ凶悪犯はここにいない。だからこそ、耐えられないものがあった。


 ブラウンはここに来るまでの記憶があいまいなところがあったが、その人だけは、その人の顔だけは覚えていた。その人は、以前この看守長をしていた人だった。そしてその“事件”についてよく知っていた。


 この刑務所の秘密を外部に持ち出したとか。しかしその肝心の秘密こそが恐ろしいものだったという噂もある。そもそも内部告発をしようとしていたという疑いすらある。いわく、この刑務所が不当な法律を作り上げることに加担したと。


 確かにおかしな法律だった。民間の刑務所が自死を望む受刑者の補助をするなどと。それよりも、ブラウンは視界がふらふらするのだった。今日の“レーション化”死刑執行を執り行うのが自分であり、同時にその刑罰の対象が“元看守長”だということに。


 彼女は何もいわず、自分への感謝をつげた。この日に執り行うことはすでにしらされていたし、どこかアジアの有名な高僧のような風体で、髪の毛をそりあげていた。肝を据えたようにどっしりとかまえていた。


 刑場への移送をおえるとどこかで安心していた。彼女は何もしゃべらないから。そして問うた。

「最後に言い残すことはあるか?」

 女性はいった。

「ないわ」

 なんてことだ。どんな凶悪犯罪かしらないが、人々の正義と法に反することをして、それが最後か、そう思ったときだ。彼の耳元で彼女はいった。

「真実をしっても、あなたは抵抗をしないで、あなただけは安全だから」


 自分からひきはがされると、彼女はいよいよ“プラント”につれてこられた。ぐつぐつと煮えるかまどの中にこれからいれられる。衣服を脱ぎ、準備は万端である。かまどのあるガラス張りの部屋。その扉をあけると後方から壁がせりでてきて、降りるしかなかった。


「11時40分!」

 時間が同僚から告げられる、同僚もガスマスクをしている。名前は知っているが顔を見たことはない。ボタンを押す手が震える。その時だった。時だけがこくいっこくとせまる。58秒、59秒。

「はやくしろ」

 そういいながら、同僚は背後から自分のてにふれ、ボタンをおした。

「お前!」


 それから、脳裏に鮮明にこびりついたのは、同僚への怒り。そして笑う彼女が何のためらいもなく、扉があいてすぐさましたに落下していく様子がスローモーションで流れていく現実だった。


 それから三日。ようやく彼も一定程度の“秘密”を握ることになった。コンピューターにひっそりアクセスし“彼ら”の正体も理解できた。


 自分以外の職員ほとんどは“傀儡”ただのロボットだということだ。まずあの死刑執行用プラントを止めることにした。ようやくここまできた。この工場が、とまればきっと、彼女も浮かばれるだろう。そのとき、背後で気配がした。

「いったい何を……」

 それはプラントの管理者だった。管理者の権限をもつものは三人、仲間や上司に連絡をとられたらまずい。

(しね)

 彼はためらいなく拳銃を取り出し彼の頭をうった。


 すぐさま施設を停止させ、コンソールに銃弾をうちこんだ。部屋を出るとき、奇妙なことに気付いた。先ほど“倒した”ロボットの頭部から血が滴りおち池をつくっている。しかし、気にしている暇はなかった。


 彼は施設全体をハックすると、ついに所長に対面することになった。いくつもの厳重な扉、迷路のような施設の地下へたどりつき、その部屋の扉をひらいた。

「俺たちがやっていたことは間違いだった」

 彼は背を向けて立っていた。拳銃を構えたまま、彼につめよる。

「君の意見に同意してほしいのか?ブラウン君」

 プレゼンのつもりだろうか、両手を広げて、かおを向こうに向けたまま話をする。

「何を吹き込まれたか知らないが正しい事だ、彼らは罪人だ」

「この刑務所にいる罪人は大罪人じゃない!ごくわずかな罪で服役している」

「そうだよ、仕方がないじゃないか、人口が増えて独裁国家も増えた、民主主義国家も格差を放置してほとんど独裁国家と区別がつかなくなった、だから私たちが必要になったんだ、正義のなのもとにしてしか、人は人を簡単に殺せない」

「だからといって……!」

「ふふ、だからいいことを教えてやろう、彼らは軽微な罪でつかまり、刑罰をうけた、それにもかかわらず、こう当局に提示されたのだ“正義のヒーローにならないか”そして、見事に彼らは自己犠牲をはらった、もっとも富めるものともっとも貧しいものが両方とも利他的な存在であるというある研究をしっているか、そこで私はこの研究を利用したのだ、もちろん私はビジネスとして刑務所を運営しているし、もし世間からお咎めをうけるのなら、私にすべての責任がある」

「しかし!」

「とがめるものはいない、君も自分をせめる必要はない」

 所長は振り返る、ブラウンは、所長の顔を見た。自分と瓜二つの顏。

「私は私の複製品をつくった、そして人々の“罪”を背負って新しく成立した法により罰をあたえることを決めた、そうだ、世に絶望した人々の為の墓場であり、そして人々が忘却した真の正義の執行者となった」

「正義などない!」

「そうだ、もはや正義などない、人々は自由という大義名分さえ虚構にしてしまったのだから、家族、民主主義、すべてが効率化した結果、格差は放置できないほどになり、人々こそが、それを受け入れてしまった結果、真に正義を追求するものは、自らかれらの飼料となることに決めたのだ」


ブラウンは、彼女、元看守長が死に際に満面の笑みでおちて言った意味をしった。所長は彼の肩をたたいた。

「君は複製品、そして頼るべき縁がない、地元もない、家族もない、社会にも存在を認知されていない、彼らとて被害者だ、それは知っている……だがだれもが、この世界には犠牲が必要だと知りながら、自分はそうならないと信じ続けなければ、社会は回らないのだ」


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